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第4章 魔物討伐と国王のパレード

4.

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「もしかして…」
《魔物に喰われたようだ、後方は全滅じゃ》
ベスラムが答えた。

俺ははっきり理解したのだ、後方の冒険者達は
気づいた瞬間、森を染めている血の臭いが全身をめぐる。
俺はその気持ち悪さにその場で吐いてしまった。

《これが戦いじゃ、慣れたくはないがの》
ルルラも目を背けている。

魔物達は俺たちの仲間を食べ、踏みつけ、赤く森を染めている。
もしも俺も後方にいたとしたら、俺も森を赤く染める1人として死んでたのか。
俺は後方にいたとした時の自身の死ぬ姿が頭の中で映像に映される。
踏み潰され、跡形もなく食べられる。

「こんなんじゃ、無理だ。勝てる訳ない!
早くここから逃げないと!それこそ全滅だ!!!」


俺は慌ててこの状況をヨルシャさんに伝えなければと
前線へ向かおうとする。

《まて、 早まるな!シンジ!!!
後方からやけに強い魔力を持つものが来とる…》
ベスラムが魔力が向かってきている方向に体を向ける。

俺もルルラもベスラムが向く方に目線を移す。

黒服の人がこちらに急いで向かってきてる。
全身を黒い服で纏っているため男か女かも分からない。
(誰なんだ…一体…)

俺はその人が真っ直ぐ森に入り
自分に近づく魔物たちを片っ端から殺していく姿をただ呆然と観ていた。
目で追えない。けど、黒い魔物の姿は確実に消えていた。

《あやつが誰だか分からんが、強い魔力を持っておる。後方の魔物は問題なかろう、前線に撤退を伝えるんじゃ》

ベスラムの風魔法で俺たちは前線で戦うヨルシャさんのところに向かう。

「ヨルシャさん!!!!」
俺は戦うヨルシャさんたちの上部まで移動してきた。

「シンジくん、なんでここに!!!」
木の上部から弓矢で魔物にしびれ毒を打っているシルミンさんが答える。
「後方にも大型出没、後方部隊全滅です!!!」

「なん………だと………」
ヨルシャさんが魔物に剣を向けながら答える。

後方が全滅ということは今回の参加者の半数が確実に死んだことを表す。
ヨルシャの判断は早かった。

「全員撤退!!!!
生きてこの森から出るぞ!!!!」

「シルミン、連絡網を!」
「わかってるって!!!!」

そういうとシルミンが真上に銃を向けて打つ。
それは冒険者に向けての合図。
青なら魔物全滅、赤なら退

シルミンさんが打ったのは赤い銃弾だった。
併せてメモを書くと、シンシア宛にカラスを飛ばす。
(今まで後方からもなんて、こんなことはなかった…これも魔王復活が近づいているからなの…?)
シルミンは悔しさから唇を噛む。
唇からは血が流れていた。

後方にも魔物がいることがわかった彼らは
飛翔で全体が見渡せるシンジの指示で、後方ではなく左部へ逃げる。
魔物たちは俺たちを追ってくるかと思いきや、森を抜ける頃には追いかけてくるものはいなかった。

森からの追ってがないことを確認すると逃げるのをやめる。まだ警戒は必要だが一安心だ。

「シンジくん、助かったよ。指示をくれてありがとう」
ヨルシャが近づいてくる。
「いえ、連絡が遅くなり申し訳ありません」
「あのまま後方に流されていたら俺らも魔物に挟まれて死んでいた。
少なからず君は俺たちを救ったんだ。誇ってくれ」
「はい。あと、後方全滅を確認後に全身黒服の人が森に入ってきて、
魔物たちを殺して回ってます。誰だかご存知ですか…?」
「いや、特にそんな話は聞いていない。その話は本当か?」
「はい、この目で見ました。2匹も見てます」
「とりあえず後方に向かおう」

俺たちは急いで後方に回り、森の中へ入る。
すでに霧は晴れているためか、仲間の赤色を目指して進む。

「しっ」
ヨルシャさんが手で合図を送る。
俺たちはヨルシャさんの後ろに隠れ動きを止める。

目線の先には森の中で全身黒服に身を包んだ者が魔物達を殺してる姿が見える。
森にある木を巧みに使い移動して魔物の死角に入ることで急所を狙って殺している。
なんとも戦い慣れた動きのように見える。
俺たちがこの中に入ろうものなら、
その者の動きを止めてしまいかねない。
俺たちは一連の闘いが終わるまで動かない。
気配を消して見守る。それがベストだった。


一通りの魔物たち倒され塵となって消えたタイミングで
風が森の中をめぐり、その者の顔を覆っていた黒のフードが外れた。

フードを被っていたのは…

「ゆ、悠理、、、、」

黒髪のショートヘア、切れ長の目、整った横顔、
片手に中型の刀を持ち、肩で息を整え佇んでいる。

見間違うことがあるだろうか。
ずっと見てきた幼馴染の姿を。
見間違うことがあるだろうか。
自分の思い人を。

その者はこちらを向いたことで、はっきりと顔がみえる。

そこにいたのは間違いなく悠理だった。

「し、、、んじ、、、」
悠理も真司を見つけたことで安心したのかその場で倒れる。

「ゆうりーーーー!!!!!」
俺は悠理に駆け寄り声をかける。

「シンジくん、中央部の魔物たちがこちらにくるかもしれない、今は逃げるぞ!」
ヨルシャさんに言われ、俺は悠理をおんぶして逃げる。

「しん、、、じ、、、いきて、、、た」
耳元で悠理の声が聞こえる。
「あぁ、生きてる。俺は生きてるぞ!悠理!!」

なぜここに悠理が、
なぜあんなにも戦い慣れた動きを、
今はそんなことはどうでもいい。

生きている。それだけで十分だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔物の討伐に向かって3日目のこと。

悠理の訓練はグレートアップしていた。
それは単なる土人形から、影を利用した魔物を殺すという訓練になっていた。
数日経つが、人が動物のような物になっただけだ、むしろ罪悪感なく殺せる。
ローリエからある程度の動物の急所は教わっていたが、魔物だと急所が変わる可能性がある。
戦いの中で急所をいちはやく察知して討たないといけない。

「今日は外出してくるわね」

ローリエが外出するという。
正直、訓練場にこもりすぎていて外がどうなっているのかわからなくなった自分は
このタイミングでカンパネリに戻っていた。

「ユーリちゃん、戻ったのね」
シュリアさんが「おかえりなさい」と嬉しそうにつぶやく。

「ご迷惑おかけしました。何とか生きてます」
「話はローリエちゃんから聞いているわ、ずいぶん頑張っているようね」
シュリアさんがお茶を出してくれた。
「私には時間がないんです。少しでも早く強くなりたくて」
「そうなのね、詳しくは聞かないけど、無理はしないでね」
気を遣わせているのがわかる。
「ありがとうございます」

「あのー、真司は?」
日中だからもしかしたらフォースとクエストに行っているのかもしれない。
あの日から話をしていない、喧嘩してこんなにも
期間が空くのは初めてだからどうしたらいいのか分からないでいた。

「シンジくんはねー、、、」
シュリアは話していいものなのか分からないでいた。
(ローリエちゃんが話さないでいるようなら私からも言わないほうがいいのかしら?)

「緊急クエストに向かってますよ?」

カンパネリに来たのは、シンシアだった。

「ローリエさんは本日は外出の予定でしょう」
「なぜ、あなたがそれを知っているのですか?」
「流石のローリエさんでも国王からの呼び出しには逆らえないでしょうからね」
この人がなぜここにいるのか、私は頭を巡らす。

「シンジくんは、緊急クエストで南西の嘆きの森へ向かってます。
本日は出発してから3日目、そろそろ魔物と戦っているか頃かもしれませんね~」
「本当ですか、、、それは」
ユーリの纏う雰囲気が変わる。

シンシアはにっこり笑う。
「そこにいらっしゃるシュリアさんに聞いてみればいいじゃないですか」

「シュリアさん本当ですか。
シンジはクエストで魔物と戦っているのですか!」
「えぇ、大量の魔物討伐に向かったわ、私たちが送り出したもの」
悲しそうな、不安そうな顔をするシュリアさん。
嘘をつく必要がないものね、、、
「そうなんですね」

シンシアはユーリは直ぐにでもシンジを助けに向かうと踏んでいたが、ユーリは動かずにいた。
(咲くかと思ったが、不発か?)
いや違う、小刻みにでも震えている。
今は行きたいと思うユーリ自身と行くなと思考とで混乱しているのだ。
(彼女ローリエは抜かりないな、、)
いつのまに思考の魔術を彼女に、、、禁忌に片足突っ込んでるようなものだ。
(そこまでして止めたいのですね…)

「正直今回のクエストにシンジくんは
それでも貴方に近づきたいと思い、クエストに向かったのです」
「私のためだと言いたいの?」
悠理は、震えながらもシンシアに聞く。

「えぇ、貴方のためだと言っているのです。
そこまでも犠牲を出しているシンジくんに対し貴方は何も思わないのですか?」
悠理が目を閉じる。
(何も思わないのかって?愚問だわ…)

いつも隣で笑っててほしい。
貴方が笑うのは私の隣だけでいい。
いつもそう思っている。
そのためなら幾らだって私は汚れてもいい。
真司が隣に居てくれるなら、私は全てをさし出そう。


「今から向かえばどれくらいで着きますか?」
彼女ははシンジを追いかけることに決めたようだ。
久しぶりに感じるの魔力。
今の興奮状態に近いユーリでは抑えきれずに滲み出している。
(やはりシンジくんは起爆剤か…)

「ユーリちゃん、きっとシンジくんなら大丈夫よ!」
話を聞いていたシュリアさんが、肩を掴みユーリを行かせまいとする。

「いいえ、正直今回のクエストにいった冒険者はになるでしょう」
シンシアはシュリアさんの声よりも大きい声でユーリに訴える。
「貴方がいかなければ、シンジくんは死んでしまうかもしれない!
貴方は耐えられますか?シンジくんの居ない世界を貴方は生きれますか!」

悠理が薄く纏って、少しずつにじみ出ていたローリエの魔力が爆発した。
シュリアさんが悠理の方から手をどかす。

「場所を教えなさい、全て殺すわ」
まるで魔女のよう、いや魔女よりも巨悪な何かに見える。
「南門から出て、南西方向に40kmのところにいます」
シンシアは初めてローリエの魔術に勝ったことが嬉しかった。
「わかった」

「ユーリちゃん、待って!ローリエちゃんに言ってからでも…」

ユーリはシュリアさんの言葉を聞かずにカンパネリから森へ向かった。

「やはり、あの子は選ばれた子なのだな…!」
そう呟くとシンシアは笑いが止まらなかった。
自身もローリエからの魔術の訓練を受けたからわかるのだ
彼女はであると、こんな短期間でこれだけの魔力を使いこなすものなど
(とんでもなく恐ろしい、だが惹かれるな…)

パチン!

シンシアは右頬を叩かれた。叩いたのはシュリアだった。
「ユーリちゃんに何をしたの?答えなさい!」
シュリアは目を真っ赤にしてシンシアを叩いた。
シンシアは驚くも
「魔術など何もかけていませんよ。むしろかけていたのはローリエさんの方です。
あんな若い子に禁忌一歩手前の魔術など、、、」

パチン!

「だからってユーリちゃんまで森に行かせるなんて!」
「彼女の力は!選ばれた者しか得られない力だ!
何故それを個人の理由のみで匿うのか!もっともっと世に使うべきではないのか!」
「だとしても、どのように使うか、決めるのは彼女よ!」
「あぁ、そうだな。それで彼女は選んだのですよ。
今にきっとあの子の力は世に出るだろうね」

そういうと、シンシアは自身の服を軽く払い
カンパネリを出て行く。

「すでに動き始めた時は待ってくれないのです」

シュリアは膝から崩れ落ちた。


ダルタが食材の買い出しからカンパネリに戻ってきたのは
その日の昼過ぎだった。
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みんなの感想(2件)

アイゼン
2019.09.30 アイゼン

いやー巻き込まれ体質って普通にしてるだけなのにトラブルの方からやってくるみたいなことなのに、火に油を注ぎまくってるシンジが何を言ってるんだって話だよね
そこに火種があるってみんなわかってるのに、空気を読まないで言葉にするんだから
それで巻き込まれ体質とかそれはただの被害妄想と責任転嫁だよ!って突っ込んでた

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Elsur
2019.09.13 Elsur

ずっと勇者の話でシンジとユーリどうなったのかなーって思っていたら、2・3章同時進行なの今気づきました。紹介文に書いてあったorz 栞トラップ
面白いお話で更新が楽しみです。

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