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第2話 これが醍醐味ってやつか……

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 騎士団を退職し晴れて無職となった俺は大陸一の冒険者国家ルアーク王国の王都ルエリアスへと向かった。

 2、3日馬車に乗り無事にルエリアスへと到着。

 そして俺は王都の中央にそびえ立つ冒険者ギルドの門を叩いた。
 ギルド内は広大なスペースが広がっており、人も多い。

 さすが大陸一の冒険者国家の王都だ。

 受付のようなものがいくつかあり、そこでは職員と冒険者がカウンター越しに何か話している。

 さっそく空いている窓口に行ってみる。
 受付には若い女性の職員が座っていた。

 「すまない。冒険者登録をしたいのだが」

 「かしこまりました。では、こちらの用紙に記入をお願いします」

 職員から渡された紙には自分の名前と得意魔法の記入欄が設けてあった。

 俺は名前欄に『ラムダ』と記述し、得意な魔法欄に『身体強化魔法ライズ』と記述する。

 人の身体は脳の限界リミッターによって約5分の1の力しか出ない。
 しかし、危機的状況の中では、稀に限界リミッターを解除し、普段の3倍から5倍の力を出すことがある。

 それがいわゆる『火事場の馬鹿力』である。

 ライズはその限界リミッター、つまりは脳の抑制を無視し強制的に筋肉の出力を上げる。それにより意識的に出せる力を倍に増加させるというもの。簡単に言い換えるなら火事場の馬鹿力を無理やりに引き出すということだ。

 俺は騎士団で前線を務める先駆けさきがけをしていた。前線を務めるものは死亡率が高い。それでも生き残れたのはこの魔法のおかげと言っても過言ではない。

 ついたあだ名が不死身の一般兵。

 ただの一般兵なのに、不死身なんてたいそう強そうな二つ名とは。
 不釣り合いで歪な名だと我ながら思う。

 まぁ、他の魔法はからっきしなのだが……。

 「ラムダ様ですね、承りました。こちらがギルドカードになります。新人の冒険者はFランクからのスタートとなります。掲示板の依頼書からFランクを受注してください。功績に応じてランクが上がっていきゆくゆくは上位ランクの依頼を受けれるようになります。では、お気をつけて」

 「助かる」

 礼を言い受付嬢から受け取ったギルドカードにはFランクという文字が記載されている。
 初めから高難易度に挑めないようランクという制度があるようだ。

 地道にやっていこう。
 命を落とすような危険な戦いはしばらくごめんだからな。

 近くの掲示板に行きFランクの依頼に目を通す。

 初めはやはりこれだな。

 『Fランク ゴブリン討伐』 

 まさに新米という依頼だ。

 俺は依頼書を引きちぎりギルドを出て森へと向かった。


◆◆◆


 「あれか」

 俺は森の茂みで人型の緑色の生物――ゴブリンを発見した。

 「ライズ」

 そうつぶやき力の出力を普段の2倍に引き上げる。

 剣を握りしめ後ろから一気に加速しゴブリンに接近する。

 「ンガッ!」

    ゴブリンがこちらの気配に気づき振り向く。

 「はぁっ!」

 首に狙いを定め一閃。ゴブリンは断末魔をあげることなくその場で息絶えた。
 
 「ふぅ」

 やはり余裕だな。長いこと一般兵をしていたのだ。これくらいできて当然だろう。
 とはいっても長い間騎士団に所属していたのである程度の蓄えはあり金銭的には余裕がある。
 焦る必要はない。自分の適性ランクをゆっくり吟味していこう。

 そんなことを考えていると何かの気配を感じた。

 (あれは獣人?)

 気配をたどり見つけた先には猫耳の少女がいた。
 よく見ると首には首輪が付いておりメイド服を着ている。

 (奴隷か…。となると持ち主が近くにいるはずなのだが、何か様子が変だな。何かに怯えている?)

 猫耳娘は何かにおびえるように小刻みに震えあたりを見回していた。

 「ひっ!」

 猫耳娘が悲鳴を上げた先には獰猛そうな虎のような生物が佇んでいた。

 (あれは、たしか狂暴な猛虎サーベルタイガー。Cランク級の魔物)

   猫耳娘が恐怖に怯え後ずさる。

   狂暴な猛虎サーベルタイガーの血走った目は確実に猫耳娘に狙いを定めている。
 助けるにしてもFランクなりたての俺にはまだ早い魔物である。
 助けに行き二人仲良く命を落とすということも安易に考えられる。

 「すまないな……」

 そうつぶやくと猫耳娘の耳がピクピクと動く。

 (……いやな予感がする)

 その嫌な予感は見事に的中することとなる。

 「だずげでくださいいいぃぃぃぃぃ!!」

 猫耳娘は狂暴な猛虎サーベルタイガーを引き連れ駆けだしてきた。

 「ははは。これが冒険の醍醐味ってやつか……」

 俺は前途多難な冒険の幕開けに乾いた笑いを漏らすしかなかった。
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