上 下
21 / 27

第20話 賢者の洞窟

しおりを挟む
「ここが賢者の洞窟か」

賢者の洞窟。街をでて道を外れた森の中にそれはある。人同士の争いの絶えない時代、平和を願った賢者が洞窟の奥底に生命の湖を作ったと言い伝えられている。その泉を飲めば体の傷が嘘のように消えると言われているがいまだその湖は見つかっていない。

「あまり奥に行くと高ランクの魔物が出てくるから気をつけなさい」

洞窟の中は思っていたよりも広くひんやりとしていた。薄暗くどこから魔物が飛び出してくるかわからないが、耳がいいシアがいるから敵が近づけいてくればすぐに察知できるだろう。

「シア、武器の調子はどうだ?」

「はい! だいぶ慣れてきました」

シアの今の武器は両腕の上腕から指先までを鉄で覆っている武具。いわゆるガントレットや籠手と言われるものだ。剣や短剣なども考えたのだが地面に手を着き四足歩行で走るシアには邪魔になってしまう。

「でも、いいのでしょうか? こんな高いものを買ってもらって」

「先行投資のようなものだ。それにシアのおかげで順調に報酬も上がっているからな。問題ない」

ガントレットはお世辞にも安い買い物とは言えないが、リズベルからもらった金貨も含めれば二人で生活する分には当分余裕がある。

しばらく洞窟の中を歩いていると、シアの耳が動く。

「奥に何かいます」

シアの呼び止めと同時に洞窟の奥から魔物が姿を現す。それは全長3メートルほどのサソリだった。サソリと言っての大きく違っているのはしっぽがないこと。そして、口からカマキリの手のよな長い鎌が二本伸びている点だ。

「あれはノーテイルスパイダーね。口にある鎌には毒があるから気を付けなさい」

「了解だ。ライズ」

――出力二倍。

「はぁッ!」

キンッ。

俺がノーテイルスパイダーに放った斬撃は口元の鎌で防がれた。

「いまだッ! シア!」

「はい! シッ!」

俺の掛け声とともにいつの間にかノーテイルスパイダ―の背後へと回り込んでいたシアが急速に肉薄しその横腹に鋼鉄の拳をお見舞いする。

「ギイイイイイイイイ!」

悲鳴をあげ、ノーテイルスパイダ―は洞窟の壁へとたたきつけらる。俺はすかさず接近し頭に剣を突き刺しとどめの一撃をくらわせる。

これが今の俺とシアの戦闘スタイル。俺が囮となりその間にシアが敵の死角に回り込み攻撃する。

ライズの多重詠唱は俺が倒れてしまう可能性があるため極力使わないようにしている。もし俺が囮役で怪我をしても治癒の力ですぐ治すことができるためこのスタイルが一番安全だろう。最初シアに説明したときは不服そうな顔をしていたが…。

「ラムダさん! あっち見てください」

「これは…川か」

洞窟の先。そこには澄んだ水が流れていた。
しおりを挟む

処理中です...