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3章 此花美桜 2
真璃への気持ち
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病院一階の端に位置する集中治療室。あまり喉を通らなかった朝食の時間を終えた私は、その入り口である厳重な扉の前に立っていた。
……真璃は、今この扉の向こうにいる。
昨日意識を失って集中治療室に運ばれた真璃への面会は許可されていない。
でも出来るだけ真璃の近くにいたいと思った。……そうすれば、『私の気持ち』を理解する助けになる気がしたから。
私は集中治療室に出入りする病院の先生や看護師さんの邪魔にならないよう、扉の端から少しだけずれた位置にしゃがみ込み、廊下の壁に背中を付ける。
そして、手に持っていた四冊の日記帳に目を向けた。
昨日先生から受け取った後、一睡もしないまま何度も読み返した日記帳。そこには、私の知らない私が確かに存在していて……。
未だに混乱から抜け出せない頭を休ませようと顔を上げると、集中治療室から続く廊下の奥にツインテールの女の子がこちらを窺うように立っているのが見えた。——咲だ。
……正直、今は咲に構っている余裕など無いのだが。
しかし、このまま一人で頭を抱え続ける気力もまた、今の私には無かった。
「……私に何か用事?」
少し声を大きくしてそう声をかけると、咲は白いフワフワとしたコートの裾を左右に揺らしながら、ゆっくり近寄ってくる。
「昨日から思ってたけど、そうやって遠くからじっと見るの、やめた方が良いよ」
私のもとまで歩いてきた咲を確認して言うと、咲はしゅんとした顔で口を開いた。
「……ごめんなさい。気を付けてるんですけど、癖みたいな感じになってて……。気になったりする物を、じっと見るの」
咲の言葉を聞き、私は思わず苦笑いが出てしまう。
「なにそれ。私みたい」
「え?」
不思議そうにこちらを見る咲に、私は思い出すように話し始めた。
「私もね、そうやってじっと見ちゃう癖があるみたいで、よくお母さんに注意されたんだ。遠くからじっと見てるだけじゃ駄目だよって。……なかなか直んないんだけどね」
私の言葉に耳を傾けていた咲は、それを聞いた途端顔を伏せてしまう。どうしたのかと覗き込むと、咲の目には涙が浮かんでいた。
注意されたことを気にしたのだろうか。別に怒ったわけではなかったんだけど。
「だ、大丈夫? ごめんね、私、怒ってないよ?」
なだめるように言うと、咲は首を横に振る。
「違います。……ちょっと、嬉しかったっていうか。……似てたんですね、私達」
言いながら、笑って顔を上げる咲。
正直その言葉の意味はよく分からなかったが、私はそれ以上突っ込むことはしなかった。
ちょっとした沈黙が流れた後、私はふと気になって聞いてみる。
「ねぇ、咲。……咲はさ、私の事、知ってるの?」
試すような聞き方。
私が把握していない期間の私の事を知っているのかという問いかけをしたつもりだ。
咲は「えっと」と少し考えて、何故か緊張したような面持ちで言葉を紡ぐ。
「此花、美桜さん。……ですよね」
「……うん」
その後、咲の口から言葉が続くことはなかった。
……真面目に言う咲を見て思う。多分この子は、私が記憶を失っている事について何も知らないのだろう。
一息ついて、私は咲に語り掛ける。
「ちょっと私の話、聞いてもらえるかな?」
せっかく話せる人が目の前にいるのだ。このまま一人で悩むよりは、誰かに話した方が、色々と整理出来るかもしれない。
咲が頷いたのを見て、私は昨日病室で先生や萌姉と話した時の事を回顧しながら話し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「此花さん。あなたはこの一年と一ヶ月、ずっと意識不明だったわけではありません」
にわかには信じられなった。
だって、その一年の記憶が私には無い。無いものをあると信じろと言われても、そんなの無理に決まってる。
……でも私の目には、間違いなく私の字で書かれている2018年の5月の日記が映っていた。
「……どういう事ですか」
自身がひどく狼狽するのを感じながら、震える声で聞き返す。
「あなたはある事故で意識不明になり、この病院に運ばれました。そしてその一週間後、目を覚ましたのです。それが去年の2月の事でした」
そう言って、先生は私の前に置いてある日記帳を改めて並べなおした。その数は四冊。
「ご存じの通り、その間の記憶は此花さんにはありませんね。つまり記憶を失っているわけですが。……それは、ただ記憶を失っているわけではありません」
並べなおした四冊の日記帳を手で指し示しながら、先生は続けた。
「此花さんはこの一年、何度も記憶を失っています。初めて目を覚ました後、雛本さんと知り合い、そして記憶を失い、また雛本さんと知り合い。再び記憶を失い、また雛本さんと知り合う。……それを数度繰り返して、今に至っています」
——意味が分からなかった。
ただ単純に、この一年間の記憶を失っていると言われた方が、まだ納得出来ただろう。
「記憶を失って目覚めるたびに、此花さんには別の日記帳に日記をつけてもらっていました」
動揺でうまく動かせない手をどうにか動かして、別の日記帳を開く。中途半端なページから、その日記帳は始まっていた。
「……萌姉?」
どうしてもこの状況が信じられず、私は萌姉に救いを求めるように目を向ける。
萌姉は、悲壮な面持ちのまま顔を逸らすだけだった。
「……どうして、そんな事になってるんですか……?」
突きつけられた現実を受け入れられない中、しかし話を前進させるため、なんとか声を絞り出す。
ここまで説明してきてくれていた先生は、その私の質問に答えてはくれなかった。
「それは、まだ言えません」
「……言えないってどういう事ですか? ここまで来て、まだ私に何か隠さなきゃいけない事があるんですか?」
先生の返事に納得出来るわけもなく、言葉を返す。
「まだ、と言いました。いずれ話すつもりです。……しかし、その前に此花さんには考えてほしい事があるのです」
「考えてほしい事……?」
「はい。此花さんの、雛本さんへの気持ちです」
急に真璃の名前を出されたことで、一瞬思考が停止した。
なんで今、真璃の名前が出るんだろう。
「真璃への……、気持ち?」
しかもついさっき告白されて、自分でも気持ちの整理が出来ていない所だったというのに。
……まるで今の私の状況を狙いすましたかのような話題だ。
「私の真璃への気持ちと、私の記憶が何度も失われている事に、何の関係があるんですか?」
「いえ。その二つに直接的な関係はありません」
そうして、先生は私の目をしっかりと見て、言い繋げる。
「此花さんがなぜ何度も記憶を失ってしまうのか、いずれ話すことは約束しましょう。しかしそれは、あなたが雛本さんへの気持ちを整理出来た後です。……これが、雛本さんの望みです」
「真璃の?」
「はい。……本来であれば、この説明も雛本さんが行うはずでした。しかし、今の雛本さんにはそれが叶いません。私は代理です」
「……真璃と先生は、私に何をさせたいんですか? ……何がしたいんですか?」
言い返した私の言葉に答えず、代わりに先生は頭を下げた。
「お母さんの事や、ご自身の事が、非常に気がかりなのは重々承知しています。……しかし、今だけは、雛本さんへの気持ちを整理する事を考えてください。……薄々気付かれているでしょうが、雛本さんはもう長くありません。その彼女の最後の望みなんです。雛本さんの必死の思いを、無駄にしないであげてください……!」
深く頭を下げる先生を見て、私に返す言葉は、もう無かった。
◇ ◇ ◇ ◇
話し終えた私は、肩の力を抜くように息を吐く。
……結局、どうして私の事を知るのに真璃への気持ちを考えなきゃいけないのか、全く理解は出来ていないけど。
でも、真璃に告白された時に感じた複雑な感情に答えを出したいと思っていたのも、事実だった。
それが真璃の最後の望みだというなら、私は『私の気持ち』を理解する事を優先しよう。
昨日一晩考えて、私はそう結論を出した。
咲は、黙って話を聞いてくれていた。
私は壁から背を離して立ち上がると、咲に向き直る。
「ありがとね、話聞いてくれて。急にこんな事話されてわけ分かんなかったでしょ。ごめん」
咲が「いえ」と首を振ってくれる。
そんな咲に感謝しつつ、私は集中治療室の方に目を向けた。
「そういうわけで、私は今あそこにいる真璃って子のために、ちょっと自分の気持ちを考えなきゃいけないの。この日記さ、なんか真璃と過ごした事ばっかり書いてあるし、今日はこれ見ながら病院の中回ってみようかなって思ってたんだ」
そして私は日記帳をしっかり持ち直すと、もう一度咲を振り返り、改めてお礼を言う。
「ほんとにありがとう。咲にも聞きたいこと色々あったけど、また会えたら話そうね。じゃ、私行くから」
そう話を締めくくり、私は咲に背を向けた。
しかし、咲は私の背中に言葉を投げて引き留めてくる。
「あの、ちょっと待ってください」
「ん?」
「それ、私もついて行っちゃダメですか?」
咲の言葉に、私は少し困惑した。
誰かに話せば少しは楽になるかも、と思いつい話してしまったが、これはとてつもなく個人的な問題だ。
本来事情も何も知らない人間に突然話すような内容ではない。話された方も反応に困るだろう。
なのに、この子はそんな話を聞いたうえで、さらに私について行きたいと言うのだ。
「えっと……。多分、何も楽しい事無いよ?」
「美桜さんの邪魔は絶対しません。ただ美桜さんと一緒にいたいというか……。それに、美桜さんの答え、私も見てみたいんです」
「…………えー、っと……」
正直、判断に迷った。なんでこの子がこんなに私に近づいてくるのか分からない。
記憶を失う前の私と知り合いだったわけでもなさそうだし……。
それとも、木花神社関係で私にすり寄ろうとしているのか……?
色々と考えが巡るも、私に真剣な眼差しを向ける咲を見て、邪推かもしれないと思いなおす。
正体が見えない不可解さはあるが、この子は悪い子ではない。……なんとなく、そんな気がした。
「分かった。ついてきて良いよ」
そう答えると、嬉しそうに返事をして、咲は私の後ろについてくる。
……真璃。待っててね。
真璃が私に何を求めてるのか、よく分からないけど。
私の気持ちには、ちゃんと答えを出してくるから。
だからもう少し、待ってて。
……真璃は、今この扉の向こうにいる。
昨日意識を失って集中治療室に運ばれた真璃への面会は許可されていない。
でも出来るだけ真璃の近くにいたいと思った。……そうすれば、『私の気持ち』を理解する助けになる気がしたから。
私は集中治療室に出入りする病院の先生や看護師さんの邪魔にならないよう、扉の端から少しだけずれた位置にしゃがみ込み、廊下の壁に背中を付ける。
そして、手に持っていた四冊の日記帳に目を向けた。
昨日先生から受け取った後、一睡もしないまま何度も読み返した日記帳。そこには、私の知らない私が確かに存在していて……。
未だに混乱から抜け出せない頭を休ませようと顔を上げると、集中治療室から続く廊下の奥にツインテールの女の子がこちらを窺うように立っているのが見えた。——咲だ。
……正直、今は咲に構っている余裕など無いのだが。
しかし、このまま一人で頭を抱え続ける気力もまた、今の私には無かった。
「……私に何か用事?」
少し声を大きくしてそう声をかけると、咲は白いフワフワとしたコートの裾を左右に揺らしながら、ゆっくり近寄ってくる。
「昨日から思ってたけど、そうやって遠くからじっと見るの、やめた方が良いよ」
私のもとまで歩いてきた咲を確認して言うと、咲はしゅんとした顔で口を開いた。
「……ごめんなさい。気を付けてるんですけど、癖みたいな感じになってて……。気になったりする物を、じっと見るの」
咲の言葉を聞き、私は思わず苦笑いが出てしまう。
「なにそれ。私みたい」
「え?」
不思議そうにこちらを見る咲に、私は思い出すように話し始めた。
「私もね、そうやってじっと見ちゃう癖があるみたいで、よくお母さんに注意されたんだ。遠くからじっと見てるだけじゃ駄目だよって。……なかなか直んないんだけどね」
私の言葉に耳を傾けていた咲は、それを聞いた途端顔を伏せてしまう。どうしたのかと覗き込むと、咲の目には涙が浮かんでいた。
注意されたことを気にしたのだろうか。別に怒ったわけではなかったんだけど。
「だ、大丈夫? ごめんね、私、怒ってないよ?」
なだめるように言うと、咲は首を横に振る。
「違います。……ちょっと、嬉しかったっていうか。……似てたんですね、私達」
言いながら、笑って顔を上げる咲。
正直その言葉の意味はよく分からなかったが、私はそれ以上突っ込むことはしなかった。
ちょっとした沈黙が流れた後、私はふと気になって聞いてみる。
「ねぇ、咲。……咲はさ、私の事、知ってるの?」
試すような聞き方。
私が把握していない期間の私の事を知っているのかという問いかけをしたつもりだ。
咲は「えっと」と少し考えて、何故か緊張したような面持ちで言葉を紡ぐ。
「此花、美桜さん。……ですよね」
「……うん」
その後、咲の口から言葉が続くことはなかった。
……真面目に言う咲を見て思う。多分この子は、私が記憶を失っている事について何も知らないのだろう。
一息ついて、私は咲に語り掛ける。
「ちょっと私の話、聞いてもらえるかな?」
せっかく話せる人が目の前にいるのだ。このまま一人で悩むよりは、誰かに話した方が、色々と整理出来るかもしれない。
咲が頷いたのを見て、私は昨日病室で先生や萌姉と話した時の事を回顧しながら話し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「此花さん。あなたはこの一年と一ヶ月、ずっと意識不明だったわけではありません」
にわかには信じられなった。
だって、その一年の記憶が私には無い。無いものをあると信じろと言われても、そんなの無理に決まってる。
……でも私の目には、間違いなく私の字で書かれている2018年の5月の日記が映っていた。
「……どういう事ですか」
自身がひどく狼狽するのを感じながら、震える声で聞き返す。
「あなたはある事故で意識不明になり、この病院に運ばれました。そしてその一週間後、目を覚ましたのです。それが去年の2月の事でした」
そう言って、先生は私の前に置いてある日記帳を改めて並べなおした。その数は四冊。
「ご存じの通り、その間の記憶は此花さんにはありませんね。つまり記憶を失っているわけですが。……それは、ただ記憶を失っているわけではありません」
並べなおした四冊の日記帳を手で指し示しながら、先生は続けた。
「此花さんはこの一年、何度も記憶を失っています。初めて目を覚ました後、雛本さんと知り合い、そして記憶を失い、また雛本さんと知り合い。再び記憶を失い、また雛本さんと知り合う。……それを数度繰り返して、今に至っています」
——意味が分からなかった。
ただ単純に、この一年間の記憶を失っていると言われた方が、まだ納得出来ただろう。
「記憶を失って目覚めるたびに、此花さんには別の日記帳に日記をつけてもらっていました」
動揺でうまく動かせない手をどうにか動かして、別の日記帳を開く。中途半端なページから、その日記帳は始まっていた。
「……萌姉?」
どうしてもこの状況が信じられず、私は萌姉に救いを求めるように目を向ける。
萌姉は、悲壮な面持ちのまま顔を逸らすだけだった。
「……どうして、そんな事になってるんですか……?」
突きつけられた現実を受け入れられない中、しかし話を前進させるため、なんとか声を絞り出す。
ここまで説明してきてくれていた先生は、その私の質問に答えてはくれなかった。
「それは、まだ言えません」
「……言えないってどういう事ですか? ここまで来て、まだ私に何か隠さなきゃいけない事があるんですか?」
先生の返事に納得出来るわけもなく、言葉を返す。
「まだ、と言いました。いずれ話すつもりです。……しかし、その前に此花さんには考えてほしい事があるのです」
「考えてほしい事……?」
「はい。此花さんの、雛本さんへの気持ちです」
急に真璃の名前を出されたことで、一瞬思考が停止した。
なんで今、真璃の名前が出るんだろう。
「真璃への……、気持ち?」
しかもついさっき告白されて、自分でも気持ちの整理が出来ていない所だったというのに。
……まるで今の私の状況を狙いすましたかのような話題だ。
「私の真璃への気持ちと、私の記憶が何度も失われている事に、何の関係があるんですか?」
「いえ。その二つに直接的な関係はありません」
そうして、先生は私の目をしっかりと見て、言い繋げる。
「此花さんがなぜ何度も記憶を失ってしまうのか、いずれ話すことは約束しましょう。しかしそれは、あなたが雛本さんへの気持ちを整理出来た後です。……これが、雛本さんの望みです」
「真璃の?」
「はい。……本来であれば、この説明も雛本さんが行うはずでした。しかし、今の雛本さんにはそれが叶いません。私は代理です」
「……真璃と先生は、私に何をさせたいんですか? ……何がしたいんですか?」
言い返した私の言葉に答えず、代わりに先生は頭を下げた。
「お母さんの事や、ご自身の事が、非常に気がかりなのは重々承知しています。……しかし、今だけは、雛本さんへの気持ちを整理する事を考えてください。……薄々気付かれているでしょうが、雛本さんはもう長くありません。その彼女の最後の望みなんです。雛本さんの必死の思いを、無駄にしないであげてください……!」
深く頭を下げる先生を見て、私に返す言葉は、もう無かった。
◇ ◇ ◇ ◇
話し終えた私は、肩の力を抜くように息を吐く。
……結局、どうして私の事を知るのに真璃への気持ちを考えなきゃいけないのか、全く理解は出来ていないけど。
でも、真璃に告白された時に感じた複雑な感情に答えを出したいと思っていたのも、事実だった。
それが真璃の最後の望みだというなら、私は『私の気持ち』を理解する事を優先しよう。
昨日一晩考えて、私はそう結論を出した。
咲は、黙って話を聞いてくれていた。
私は壁から背を離して立ち上がると、咲に向き直る。
「ありがとね、話聞いてくれて。急にこんな事話されてわけ分かんなかったでしょ。ごめん」
咲が「いえ」と首を振ってくれる。
そんな咲に感謝しつつ、私は集中治療室の方に目を向けた。
「そういうわけで、私は今あそこにいる真璃って子のために、ちょっと自分の気持ちを考えなきゃいけないの。この日記さ、なんか真璃と過ごした事ばっかり書いてあるし、今日はこれ見ながら病院の中回ってみようかなって思ってたんだ」
そして私は日記帳をしっかり持ち直すと、もう一度咲を振り返り、改めてお礼を言う。
「ほんとにありがとう。咲にも聞きたいこと色々あったけど、また会えたら話そうね。じゃ、私行くから」
そう話を締めくくり、私は咲に背を向けた。
しかし、咲は私の背中に言葉を投げて引き留めてくる。
「あの、ちょっと待ってください」
「ん?」
「それ、私もついて行っちゃダメですか?」
咲の言葉に、私は少し困惑した。
誰かに話せば少しは楽になるかも、と思いつい話してしまったが、これはとてつもなく個人的な問題だ。
本来事情も何も知らない人間に突然話すような内容ではない。話された方も反応に困るだろう。
なのに、この子はそんな話を聞いたうえで、さらに私について行きたいと言うのだ。
「えっと……。多分、何も楽しい事無いよ?」
「美桜さんの邪魔は絶対しません。ただ美桜さんと一緒にいたいというか……。それに、美桜さんの答え、私も見てみたいんです」
「…………えー、っと……」
正直、判断に迷った。なんでこの子がこんなに私に近づいてくるのか分からない。
記憶を失う前の私と知り合いだったわけでもなさそうだし……。
それとも、木花神社関係で私にすり寄ろうとしているのか……?
色々と考えが巡るも、私に真剣な眼差しを向ける咲を見て、邪推かもしれないと思いなおす。
正体が見えない不可解さはあるが、この子は悪い子ではない。……なんとなく、そんな気がした。
「分かった。ついてきて良いよ」
そう答えると、嬉しそうに返事をして、咲は私の後ろについてくる。
……真璃。待っててね。
真璃が私に何を求めてるのか、よく分からないけど。
私の気持ちには、ちゃんと答えを出してくるから。
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