盾の騎士は魔法に憧れる

めぐ

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再び手にした決意

魔人襲撃

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「おい。この、優しいガグギエラ様が、もう一度だけ聞いてやるぞぉ?」

 男は何が面白いのか?嫌な嗤い声を上げる。
 ジュディさんもこいつのヤバさを感じたらしく、あたしを庇うように少し前に出ようとする。
 ハリルもずっと、低く唸り声をあげている。尻尾は下がり股に挟まれているが・・・。

 ダメ!ジュディさん・・・、早く中に戻って!

「ここにぃ、神器があるんだろぉ??えぇっ?!」

 ガグギエラと名乗った邪悪な男は、さっきまで一人で愉しそうに嗤っていたのに急に凄まじい威圧を放ってくる。

「──っ!?」「ひっ!?」「キャインっ!」

 ジュディさんは堪らず後ずさる。
 そのまま、中に戻って──

「んん~~?答えないつもりかぁ?いくら優しい俺様でも、返事する気がねぇ奴等に、優しくは出来ねぇぞぉ?」

 また、ガグギエラは邪悪に嗤う。
 な、何なのコイツっ──!

「あ、あんたが何を探してるかのかは、わ、分からないけど・・・じ、『ジンギ』なんてものは、知らないわよっ!!」

 震える足に、無理矢理力を入れて答える。
 実際、『ジンギ』なんてものは知らない。もしかしたらあたしの知らない何かがこの家にあるのかもしれないけど、知らないものは知らない。

「あぁっ?!」

 あたしの返答が頭にきたのか……。さっき以上のとてつもない威圧を向けられる。

 ヤバい──もう、立ってられない。・・・足はガクガクいつ崩れてもおかしくない。

「おかしぃなぁ?ザンズエルのやつが、確かにここだって言ってたんだけどなぁ」

 別の名?まだ、他にもこんな奴がいるっていうの?!

 ガグギエラは、しばらく何かを考えている。大袈裟に身振り手振りを加えてまるでピエロのよう。

 しばらくして急にその動きがピタッと止まる。ゆっくりとこちらに顔を向けながら、またニタァと邪悪な笑みを浮かべる。

「まぁ、どっちでもいいかぁ。ここを全部吹き飛ばして、確かめりゃいい。ククク・・・」

 マズイ!マズイ!マズイ!
 何かする気だ!

 あたしで守れるの?!ジュディさんを・・・。中にいる、カーラさんに、おじいちゃんおばあちゃん、子供達・・・店主のおじさんも。

 こんなヤバそうな奴から守れる……はすがない……。

「・・・ユ、ユリアお嬢様。お、お逃げ下さい!わ、私が時間を稼ぎますっ!!」

 ジュディさんがまたあたしの前に出る。身体であたしを隠す。
 ハリルも足はガタガタ震えているが、ジュディさんの横に並ぶ。

 ダメ。あたしじゃ守れない!・・・どんなに憧れてたって、昨日盾を持ったばかりのあたしなんかじゃ、誰も守れないっ!!

 勝手に足が、身体が、逃げようと後ずさるーー

 逃げなきゃ・・・。あたしじゃこいつには敵わない。
 逃げて、おじいちゃんを呼ばなきゃ・・・。でも、おじいちゃんは東門に居る
 すぐには来れない!
 じ、じゃあ、ミリアーナさん?!それとも王様、フリオおじさんを呼んでくる?!

 ダメ──きっと逃げられない。皆こいつに殺されてしまう。

 ガグギエラの手に、冷たく輝くような魔力の光が灯る。それは、どんどんと密度を、大きさを増し、周囲全てを氷つかせる様な威圧を放つ。

 あ、あれじゃ今から逃げたって、家の回り全部吹き飛んでしまいそう・・・。

 ダメ・・・あたし・・・皆・・・殺されちゃう・・・

 誰か・・・おじいちゃん・・・助けて・・・皆を・・・あたしを

 守って──!!!




 ──あたしは、どうして盾を欲しいと思ったんだっけ?

 小さい頃に見た、おじいちゃんの盾が綺麗だったから?

 おばあさまに聞いた、おじいちゃんの活躍に心が踊ったから?

 おじいちゃんの様に、誰かを守りたいと憧れたから?

 それもある

 でも、どうしておじいちゃんは自分の盾をキライなんだろう?

 なるべく近づかないようにしてるのは、あたしでもわかる

 剣や弓、格闘術は教えてくれるけど、盾のことは教えてくれない

 おばあさまを守り、フリオおじさんを守り、それ以外にもきっとたくさんの人を守って、魔王まで倒したのに・・・

 小さい頃に一度、そんなおじいちゃんをキライになった

 そんなに強いおじいちゃんが、なんでそれを威張らないんだろう

 それを誇りに想わないんだろうと

 フリオおじさんの右腕が無いことと、右目が見えない理由を知ったとき、なんとなくおじいちゃんの気持ちが分かった

 ああ、おじいちゃんはきっと自分を責めてるんだ

 フリオおじさんを守れなかった自分を責めてるんだ

 だったら、おじいちゃんが守れなかったものを

 おじいちゃんも

 あたしが、守るんだっ!!!



 不思議と、足が自然に怯えきった身体を前に進める。
 身体は絶対に無理だと、震えて力が上手く入らないのに、心は前へと進む。

 あたしの気持ちは──

 皆を、あたし自身を、おじいちゃんの誇りを守りたいと叫んでる!!

「消えちまいなぁぁぁぁぁ!!!」

 ガグギエラの手から、恐ろしいほどの邪悪な魔力を放つ青白い塊が解き放たれる。

 あたしは、力の入らない足を踏ん張り、盾で身体を隠すように構える。

 さあ、こいっ!!あたしが、絶対に守るんだ!!


 そのとき──

 不思議なことが起こった

 あたしの盾が、優しい緑色の綺麗な光に包まれる

 頭の中に声が聴こえる──


(我が眷属たる盾に 一時 我が力を貸し与える)


 ガグギエラの放った魔法が、盾にぶつかる

 でも、不思議とそれほど辛くはない

 盾からは、緑と青の光が広がり、あたしの周囲を守っている

 すぐに、魔法の暴威は収まる。

 恐る恐る目を開けると、目の前のガグギエラは驚いた顔をしている。あたしはすぐに後ろを振り向く。

 良かった──ジュディさんもハリルも無事だ。

 家は、入口の扉や周りの壁は吹き飛んでしまっているけど、他は大丈夫そうだ。中の皆もきっと無事だろう。

「ククク・・・」

 邪悪な嗤い声が聞こえる。ガグギエラを見ると、込み上げる笑いを抑えているかのようだ。一体何を・・・。

「なぁんだぁ。やっぱりあるじゃねぇか。『神器』がよぉ!!」

 ガグギエラの視線の先、あたしの後方?!

 バッと振り返り、壊れた扉の奥を見る。

 そこには、さっきあたしの盾を包んだのと同じ、優しい緑色の光を纏うおじいちゃんの盾があった。

『ジンギ』は、おじいちゃんの盾?!

 すぐにまたガグギエラに目を向けると、その後方から誰かが凄い早さで近付いてくる。その姿を見て自然とひきつった顔が綻んだ。


 そこには──

 あたしが一番頼りにしてる、そう・・・

 強いおじいちゃんの姿があった──







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