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本編

王様に挨拶(前)

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 王様に会うということで、いつもより早く起こされて、朝から念入りに身支度を整えられた。

 ポワソン少年には悪いけど、風呂の世話はずっと拒否しているから、今朝も自分で全身を洗い上げた。
 風呂から上がると風と火を組み合わせたドライヤーみたいな魔法で、髪の毛を乾かしてから少し掌で温めた良い匂いのする油を、髪全体をケアするように塗り込んでくれた。
 それから器用に両サイドの毛を編み込むと、シンプルなシルバーのピンで留めてくれた。
 アシンメトリーな前髪も少し伸びていたんだけど、ポワソン少年が前と同じくらいに整えてくれたおかげでそのままでも邪魔にはならない。
 本当は短くしたいんだけど、後ろの毛は編み込んだり髪飾りを着けたりするから、このまま少し伸ばして欲しいって言われて伸ばし中……。

 それで服だけどさ……。
 いつものラフな格好は流石にまずいとは思うけど、それにしてもこれは派手すぎだろ!
 物語や漫画なんかに出てくるような、王子様みたいな服を用意されるとは思わなかったよ!
 とにかくヒラヒラしているしキラキラしているのが物凄く気になる……。
 全身白一色に統一されていて汚しそうで怖い。
 ブーツまで白だから、髪の毛以外全部白で落ち着かない。
 
 黒髪の俺には白が似合うと言ってルシアンが前々から用意させていたものらしい。
 だからなのか、ジャケットの裏地とボタン、更に編み上げブーツの紐がエメラルドグリーンだったのだ。
 まだ正式に婚約者でもないのに、王様の前でこんなルシアンの色ばっかり纏わされていたら勘違いされるじゃないか! 
 真っ白な正装はどうしても元の世界の結婚式を連想させるから、絶対に着たくない!

 だからこれは、少し悲しそうな顔をしているポワソン少年には悪いけど却下して、もう一着用意されていた紺色の衣装を着た。
 中のシャツは白で、ヒラヒラしてるところは金糸で縁取られていて、ジャケットの袖の裾部分にも金糸でお洒落に刺繍が施してあった。
 ズボンはシンプルな細身の紺色のスラックスで、その上から黒の短めのショートブーツを履いた。
 ブーツは金色の紐で編み上げられている……。

 金色もルシアンの髪の色だと思わせるかもしれないが、マリオンも金髪だし王族には多い色だそうだから、特定の誰かに結び付けて連想されることはないらしいと聞いてホッと胸を撫でおろした。
 俺がブーツを見た瞬間に紐を黒に変えて欲しいって言ったら、ポワソン少年がそう言って安心させてくれたから紐は金色のままだ。

 俺はまだ誰とも婚約をするつもりなんてないんだから、勘違いされるようなことはしたらダメだと思う訳だ。
 ましてや王様に勘違いされてしまったら、もうそこから逃げられなくなりそうで怖いし……。
 まぁ実際、元の世界に戻ることはもう出来ないから、この世界からは逃げられないんだけどな……。

 着替え終わって朝食を食べるために席に着くと、塔の食堂にルシアンがやってきた。
 毎朝朝食を一緒に摂ることになっているからな。
 しかし入って来るなり俺の格好を見て固まってしまった。

 俺は見せものじゃないしそんなにじっくり見るなよと言っても、しばらく俺から視線を外すことはなかった。
 じゃなくても着慣れない服を着て、こっちも落ち着かないっていうのにそんなにジロジロ見られたらいい気はしない。
 それに食後に予定も詰まっているんだから、こんなところで時間をとるわけにはいかないのだ。

「ほら、そんなところに突っ立っていないでさっさと席に座れよ! 食べたら王様のところに行くんだろ?」

 俺が声を掛けてもまだ無反応だ……。

「ルシアン‼」

 大声で名前を呼ぶとやっと我に返ったように急いで席に着いた。

「申し訳ありません。姫があまりにも美しかったので見惚れておりました……」

「男相手に美しいとか言ってんじゃねぇよ」

「いえ、姫が美しいことは紛れもない事実ですから! 紺と金色で、更に姫の美しさが際立っていて、目を離すことが出来ません」

 真剣な顔して恥ずかし気もなくそう答えるルシアン……。
 王子っていう生き物は、息つくように誉め言葉がスルスル出るような教育でも受けているのかね?
 毎度の事ながら、そのバリエーションに富んだ誉め言葉には感心させられる。

「いつか白い衣装を着た姫も見せてくださいね」

 そのセリフにはノーコメントで!

 朝食を食べ終えると歯を磨いた。
 これもこの世界の人は、浄化魔法で済ますらしいけど、俺は魔石に頼らなければならない。
 魔具を使う時とは違って人体に使う場合は、その部位に魔石を触れさせる必要がある。
 そのため歯磨きの浄化魔法の場合は、唇に押し当てないとならない……。
 歯の浄化をやっているところを何度かルシアンに見られているんだけど、その時に少し頬を赤らめた様に凝視しているものだから不審に思っていた。
 それが何度か続けば、さすがに鈍い俺でも気が付いてしまったんだ。
 ただの歯の浄化だけど傍から見れば、俺がルシアンの魔石にキスしている様に見えるっていうことに……。

 ――これは恥ずかしすぎる。
 気付いてからはいちいち呼び出して悪いけど、セインに口中の浄化魔法を掛けてもらっている。

 準備も終わって、いよいよ王様に会いに行くことになった。
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