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大魔導士との生活①
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まずこの世界について教えてもらうと、元の世界と同じように魔法があり魔獣などもいる世界だった。私を拘束したのもそうだが、現れた時もここに移った時も息をするように魔法を展開していたのだから、魔法のある世界だということは分かっていたけれど――。
元の世界との違いは魔法の使い方が多少違うことと、貴族の体制が違う位で何とかこちらの世界でも生活出来そうだと思った。
私を拘束した男性の名前は、ケビン=ピスタチオと言って二十三歳の魔導士だそうだ。年齢より落ち着いて見えるのは彼の貫禄のせいだろうか。
黒い髪のケビンは、私の銀の髪色と瞳の碧はこの国では王族の色なのだと言った。さらには、見付かれば王族に関係があると疑われ、王家に囲われることになるかもしれないと言った。私の姿を見た後に固まっていたのはこういった理由があったのだろう。
碧の瞳は辛うじて存在するようだけど、銀髪は本当に王族の血縁にしか現れないらしく、このままの姿で街になど出れば大騒ぎになるということは理解できた。
街に出るには何らかの対策を取る必要がありそうだな……。もし彼と出会わずに何の情報もないまま街に出ていたら、速やかにお城に連れて行かれてしまったことだろう。そうならなかったことにまずはホッと胸を撫でおろした。
第二王子の婚約者として、王族らしい振る舞いなどは学んで身に付けているけれど、婚約が破棄されて自由の身になったのだから、再び堅苦しい暮らしはしたくない。せっかくなんの柵もない世界に来たのだから、のびのびと生きて行きたいと思うのは前向きで素晴らしい考えだと思う。元より贅沢な生活への執着などなく、騎士団の遠征などへの同行の方が生き生きしていたと思うほどだ。そしてこの世界での私は、王子の婚約者でもなければ侯爵令嬢でもなくただのアンジェリカなのだ。悲しんでいても先には進めないし、さっさ現状を受け入れて今後どうやってここで生活していくのかを考える方が余程建設的だろう。
「髪の色は絶対に変えなければなりませんね」
「そうだな、そのままでは必ず厄介ごとに巻き込まれるだろう」
「事前情報なしに街に出ることにならずに済んで助かりました」
「市井では異世界という概念がない者がほとんどだ。異世界人という発想もないのだから、間違いなく王族関係だと騒ぎになるだろうな」
街に出る前に髪の色を変えることは大前提だとしても、この世界にはどういう仕事があるのだろうか。ボランティアで治療院のお手伝いをしていたし、治療院に務めるのも良いかもしれない。それとも、孤児院で子供たちのお世話をするのはどうかしら? 考えただけでもワクワクしてきた。全くやったことのないことに挑戦するのもアリよね。
様々な話をするうちに警戒心が和らいだのか、ケビンの表情が柔らかくなった。そして私に、とても素敵な提案をしてくれた。
この塔でケビンの仕事を手伝ってくれないかと――。
このケビンの塔には訪問する者もなく人目に付かないことから、この世界に慣れていない私でも困ることはないだろうと言ってくれた。
手伝いと言っても研究は専門色の濃い物で、すぐに手伝ってもらうという訳にはいかないため、掃除洗濯食事の支度といったケビンの身の回りの世話を頼みたいということだった。
「立ち居振る舞いや格好を見るに高位貴族なのだろう。迷惑かもしれないがどうだろうか?」
「ご心配には及びませんわ。今の私の身分は平民ですし、ケビン様のお申し出に感謝こそすれど迷惑だなんて思っておりません。寧ろ私の方がご迷惑かと……」
「いや迷惑だと思っていたら誘ってはいない。それに募集を掛けようかと思っていたところだったんだ」
ケビンは隣国との境目にある立ち入り禁止の森の番をしている魔導士で、国境を守りながらこの塔で研究をしているらしい。しかし多忙を極めるため自身のことが疎かになっており、身の回りの世話をしてくれる人を雇おうかと考えていたところだそう。
「タイミングが良かったこともあるが、まず仕事の条件などを話す前に、お互いに真実しか話すことが出来ない制約を掛けたいと思うのだがどうだろうか?」
「そうですね。私自身も嘘は申しておりませんが、真実であると証明することは難しいので構いません」
てっきりケビンが掛けるものと思っていた制約魔法だが私が掛けることになった。
「君は制約魔法を掛けることが出来るだろうか?」
「はい。出来ますが、ケビン様が掛けた方が宜しいのではないでしょうか?」
「では君に掛けてもらうことにしよう。会ったばかりの男に魔法を掛けられるのは君も不安だろう?」
「それはケビン様も一緒ではないですか」
「異世界からたった一人でこちらにやって来ただけでも心細いことだろう。そこで初対面の男に好条件の仕事を紹介される。それだけでも十分怪しい。これは俺自身の身の潔白を証明することにも繋がるんだ」
「しかしもしかしたら私が怪しげな魔法を掛けるかもしれませんよ?」
この世界と前の世界では魔法の構造が少し違うようで、それが正しい魔法なのかお互いに判断することは難しいだろう。私の不安が顔に出ていたのだろう。ケビンは安心させるようにこう切り出した。
「機密事項も扱うこの塔では諜報魔法は勿論だが、人を害するような呪いや攻撃の類は使用できないことになっている。それに君はそんなことはしないだろう?」
無表情ではあるけれど、優しい声音でそう言ってくれてケビンの人の好さが窺えた。この短時間で私もケビンのことを信頼している自覚があるのだ。突然現れた不審人物である私にこんなにも心を砕いてくれているのだから。
元の世界との違いは魔法の使い方が多少違うことと、貴族の体制が違う位で何とかこちらの世界でも生活出来そうだと思った。
私を拘束した男性の名前は、ケビン=ピスタチオと言って二十三歳の魔導士だそうだ。年齢より落ち着いて見えるのは彼の貫禄のせいだろうか。
黒い髪のケビンは、私の銀の髪色と瞳の碧はこの国では王族の色なのだと言った。さらには、見付かれば王族に関係があると疑われ、王家に囲われることになるかもしれないと言った。私の姿を見た後に固まっていたのはこういった理由があったのだろう。
碧の瞳は辛うじて存在するようだけど、銀髪は本当に王族の血縁にしか現れないらしく、このままの姿で街になど出れば大騒ぎになるということは理解できた。
街に出るには何らかの対策を取る必要がありそうだな……。もし彼と出会わずに何の情報もないまま街に出ていたら、速やかにお城に連れて行かれてしまったことだろう。そうならなかったことにまずはホッと胸を撫でおろした。
第二王子の婚約者として、王族らしい振る舞いなどは学んで身に付けているけれど、婚約が破棄されて自由の身になったのだから、再び堅苦しい暮らしはしたくない。せっかくなんの柵もない世界に来たのだから、のびのびと生きて行きたいと思うのは前向きで素晴らしい考えだと思う。元より贅沢な生活への執着などなく、騎士団の遠征などへの同行の方が生き生きしていたと思うほどだ。そしてこの世界での私は、王子の婚約者でもなければ侯爵令嬢でもなくただのアンジェリカなのだ。悲しんでいても先には進めないし、さっさ現状を受け入れて今後どうやってここで生活していくのかを考える方が余程建設的だろう。
「髪の色は絶対に変えなければなりませんね」
「そうだな、そのままでは必ず厄介ごとに巻き込まれるだろう」
「事前情報なしに街に出ることにならずに済んで助かりました」
「市井では異世界という概念がない者がほとんどだ。異世界人という発想もないのだから、間違いなく王族関係だと騒ぎになるだろうな」
街に出る前に髪の色を変えることは大前提だとしても、この世界にはどういう仕事があるのだろうか。ボランティアで治療院のお手伝いをしていたし、治療院に務めるのも良いかもしれない。それとも、孤児院で子供たちのお世話をするのはどうかしら? 考えただけでもワクワクしてきた。全くやったことのないことに挑戦するのもアリよね。
様々な話をするうちに警戒心が和らいだのか、ケビンの表情が柔らかくなった。そして私に、とても素敵な提案をしてくれた。
この塔でケビンの仕事を手伝ってくれないかと――。
このケビンの塔には訪問する者もなく人目に付かないことから、この世界に慣れていない私でも困ることはないだろうと言ってくれた。
手伝いと言っても研究は専門色の濃い物で、すぐに手伝ってもらうという訳にはいかないため、掃除洗濯食事の支度といったケビンの身の回りの世話を頼みたいということだった。
「立ち居振る舞いや格好を見るに高位貴族なのだろう。迷惑かもしれないがどうだろうか?」
「ご心配には及びませんわ。今の私の身分は平民ですし、ケビン様のお申し出に感謝こそすれど迷惑だなんて思っておりません。寧ろ私の方がご迷惑かと……」
「いや迷惑だと思っていたら誘ってはいない。それに募集を掛けようかと思っていたところだったんだ」
ケビンは隣国との境目にある立ち入り禁止の森の番をしている魔導士で、国境を守りながらこの塔で研究をしているらしい。しかし多忙を極めるため自身のことが疎かになっており、身の回りの世話をしてくれる人を雇おうかと考えていたところだそう。
「タイミングが良かったこともあるが、まず仕事の条件などを話す前に、お互いに真実しか話すことが出来ない制約を掛けたいと思うのだがどうだろうか?」
「そうですね。私自身も嘘は申しておりませんが、真実であると証明することは難しいので構いません」
てっきりケビンが掛けるものと思っていた制約魔法だが私が掛けることになった。
「君は制約魔法を掛けることが出来るだろうか?」
「はい。出来ますが、ケビン様が掛けた方が宜しいのではないでしょうか?」
「では君に掛けてもらうことにしよう。会ったばかりの男に魔法を掛けられるのは君も不安だろう?」
「それはケビン様も一緒ではないですか」
「異世界からたった一人でこちらにやって来ただけでも心細いことだろう。そこで初対面の男に好条件の仕事を紹介される。それだけでも十分怪しい。これは俺自身の身の潔白を証明することにも繋がるんだ」
「しかしもしかしたら私が怪しげな魔法を掛けるかもしれませんよ?」
この世界と前の世界では魔法の構造が少し違うようで、それが正しい魔法なのかお互いに判断することは難しいだろう。私の不安が顔に出ていたのだろう。ケビンは安心させるようにこう切り出した。
「機密事項も扱うこの塔では諜報魔法は勿論だが、人を害するような呪いや攻撃の類は使用できないことになっている。それに君はそんなことはしないだろう?」
無表情ではあるけれど、優しい声音でそう言ってくれてケビンの人の好さが窺えた。この短時間で私もケビンのことを信頼している自覚があるのだ。突然現れた不審人物である私にこんなにも心を砕いてくれているのだから。
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