【完結】婚約破棄して異世界に追放したくせに今さら迎えに来られたって私には素敵な旦那様がいるので元の世界には帰りません!

ネオン

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大魔導士との生活③

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 塔で生活することになった私は、四階の空き部屋の一室を使わせてもらうことになった。

 まずはここで生活するにあたって、街まで着替えなど必要なものを買いに連れて行ってくれると言う。女性の必要なものは分からないから、自分で選んだ方が良いだろうと言ってもらえて、その心遣いと優しさに心が温かくなる。

 身一つで異世界に追放された私には、当然持ち物など何一つなく、ケビンの提案はとても有難いものだった。

「残念ながらここには女性に必要なものは揃っていない。色々なことがあって疲れているとは思うが、買い出しに行かないか?」

「ありがとう。私の持ち物は今身に着けている物だけだから、そう言ってもらえてすごく助かるわ」

 一先ず銀色の髪が人目に付くのは不味いということで、私は魔法で髪の色をこの世界に馴染む茶色に変えた。

 パーティーの最中での出来事だったため、私が身に着けているのは派手ではないけれど、殿下の婚約者として恥じないようなそれなりに華やかなドレスだったため、ケビンに借りたマントのフードを纏いドレスを隠した。魔法で茶色になった髪は、自然な色だから大丈夫だとは思うのだけど、私自身が見慣れなくて少し違和感を覚えてしまうので、今回は念のためにフードを被って髪も隠すことにした。

「じゃあ行こうか」

 ケビンは私の手をとると、鮮やかな魔法で街まで転移した。

 街は賑やかで多くの人が行き交っている。明るい表情の人々を見るだけで、ここが治安の良い平和な場所なのだということが窺い知れる。

 あまり時間をかけるのは申し訳ないと、最低限必要な枚数の服や下着を買ってもらい、他にも生活に必要な物をテキパキと揃えた。それから、幾らかの食材を購入して塔に戻る。

 それらの購入代金は給料から天引きして欲しいと言ったけれど、雇い主が制服を用意するのと同じで、経費だから必要ないと言われてしまい、結局お言葉に甘えさせもらうことにした。

 連れて行ってもらった街は、活気に溢れており人も多く、お店もたくさんあって楽しそうな所だった。けれどとても入り組んでいて、慣れるまでは迷子になること間違いなしだと思った。

 自信をもって言うことではないけれど、一人だったら私は確実に迷子になる。元の世界では一人で出歩くことは決してなかったから少し不安だ。地図があれば迷わないとは思うけれど、土地勘のないここではそれも自信がない。

 街で一番驚いたのはケビンが有名人だったことだ。フードを被って顔を隠しているにも関わらず「大魔導士様」と声を掛けられ、「どうぞこれをお持ちください」と次々と果物やパンなどをもらっていて、とても人気が高いことが分かった。

「大魔導士様じゃないですか! 良かったらこれ食べてって下さいよ! 大魔導士様ならお代は結構ですから。お連れさんも是非ご一緒に~」

 そう言って渡されたのが串に刺さったお肉で、香ばしいタレを塗って炭火で焼いた物だった。騎士団の遠征先の野営で、庶民の食事を頂くこともあったから抵抗はないけれど、食べ歩きというものはしたことがなかったので、渡されたお肉をどうしたら良いのか考えてしまった。そんな私の様子を見たケビンは、クスリと笑って食べ方を教えてくれた。

「これは焼き鳥という料理で、豪快に齧り付いて食べるんだ。街にはこういう屋台がたくさんあるから、気になるものを食べ歩きをするのも買い物の楽しみの一つだ」

 大きな口を開けて、タレが垂れないように豪快に齧り付く様子を見て、私も真似をしてみた。ケビンほど大きく口を開けることは出来なかったけど、噛り付いて嚙み切ったお肉は、甘辛いタレが合っていてとても美味しかった。

「お嬢ちゃん焼き鳥は初めてかい? どうだうちの焼き鳥は美味いだろう? 宣伝してくれても構わないんだぜ~」

「はい、とても美味しくてびっくりです。このタレがお肉に絡んでいて、シンプルなのに奥深い味わいですね」

 あまりの美味しさに目を輝かせて夢中で食べてしまい、ケビンにまたしても笑われてしまった。パーティー前に食べた軽食以来何も口にしていなかったので、お腹が空いていたのだから仕方がないと心の中で言い訳をしつつ、ご機嫌な店主にお礼を言って他のお店も見て回ることにした。
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