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買い物中に①
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大人気の大魔導士様と一緒に買い物をしていれば、あらぬ疑いを掛けられるもので、私服巡回中の騎士団員さんたちに揶揄われるのは仕方ないとしても落ち着かない。
ケビン自身は自分で言っていた通り、人と仲良くすることに自信がないらしいけど、私からみたら騎士団の人たちにも慕われているし、街の人たちからも人望があって凄いと思うんだけど。
「おばちゃん、この野菜はどうやって食べるのがおすすめ?」
「おやアンジェリカちゃんじゃないか、いらっしゃい。今日も旦那さんと一緒で仲良くって羨ましいねえ」
八百屋のおばちゃんは毎度のことながら、ケビンと私のことを夫婦のように言って揶揄ってくる。他の人も似たり寄ったりで、その都度ただの家政婦だって言うんだけど、照れてるんでしょって言われたりとかで全然聞いてくれない。これさえなければみんな優しくって良い人ばかりなんだけどね。
ケビンはこの件に関しては好きに言わせておけば良いっていうスタンスだから、率先して誤解を解いてくれる気はなさそうだ。否定すればする程疑わしく思われるだけだというのも分かるけど、事実私たちは雇用主と従業員の関係でしかないのだから、もういい加減止めて欲しい。
嫌な訳ではないのだけど、大魔導士で騎士団長のケビンに申し訳ないという気持ちが強くて……。自分で言っていて虚しくなるけど、こんな得体もしれない異世界から来た女と噂になるなど不本意なことだろう。本人は迷惑じゃないと言ってくれてはいるけれど、このままでは恋人も作れないのではないだろうかと心配になる。ケビンは人望もあってこれだけ素敵なのだから、いつまでも独身という訳にもいかないだろうし。私のせいで出会いがなくなってしまうのは申し訳が立たない。
「もう、おばちゃんったらっ‼ 私と夫婦なんて勘違いされたら、ピスタチオ様に失礼だからね?」
「そんなことないと思うけどねぇ。アンジェリカちゃん若くて可愛くって働き者で、ここいらでも評判になる程の器量良しなんだから自信をお持ちなさいな。ほら、オマケしとくから機嫌直しておくれよ」
「もう揶揄うのはやめてね? 私おばちゃんのところの野菜大好きだから、これからも来たいし……」
「ちなみにこの野菜は油で焼くと香ばしっくって、中はトロっとして美味いからおすすめだよ」
「ありがとう。じゃあそれと、こっちのフルーツも一緒にお願いするわね」
「あいよっ。アンジェリカちゃんも、もうすっかり買い物に慣れたもんだね」
「みんなが優しく教えてくれたおかげだよ。おばちゃんもありがとう」
野菜を受け取り料金を支払うと、八百屋のおばちゃんに挨拶をして他のお店に移動した。
ケビンと一緒に塔に戻ると、早速買ってきたものを片付ける。それから、夕食の下準備を済ませると、一息つくためにお茶の準備を始めた。
「ケビン、今日もお買い物に付き合ってくれてありがとう。休憩にしましょ?」
ケビンと向かい合わせにテーブルに着くと、今日買ってきたお茶菓子と一緒に温かい紅茶を頂いた。
ケビンの実家から送られてくるという茶葉は、とても風味が豊かで砂糖を入れなくてもほんのり甘いのだ。それは、茶葉と一緒に入っている乾燥させた果物のおかげなのだけど、元の世界にはなかった味わいでとても気に入っている。
「アンジェリカは、本当にこの紅茶が好きなんだな」
頬が緩んでいる自覚があったので、少し恥ずかしくなったけれど素直に頷いた。
「今までは一人だったから、茶葉が送られてきても入れるのが面倒で腐らせてしまっていたんだ……」
「えっ!? 勿体ない……。私の国にもあったら毎日でも飲みたいくらい美味しいのに」
「そうだな。アンジェリカのおかげで、この紅茶の美味さを知ることが出来たよ」
「これからはご実家から送られてきたら、傷む前に楽しみましょうね」
ケビンの話を聞くところによると、一人で住んでいたころは休憩すら取っていなかったらしく、態々湯を沸かしてお茶を入れるような生活ではなかったと言う。
喉が渇いたら水でも飲めば良いという考えだし、私が声を掛けなかったら寝食も疎かに研究に没頭するところを目の当たりにしたから本当にそうなのだろうというのは疑いようもない。拘りがあるものには時間も労力も掛けるけど、自分のことに関しては必要最低限で良いというスタンスらしい。今は若いからどうにかなっているのだろうけれど、このままの生活が長く続けば身体を壊しかねない。いくら魔法が堪能であっても万能ではないのだから、彼の生活を改善するのが今後の私の最優先事項だろう。
初めて会った時よりも今の方が顔色も良いし血色も良い。元々どこに出しても恥ずかしくないほどの美丈夫ではあるのだけれど、最近は益々男らしさに磨きがかかってきたと思うのだ。
私が育てましたといった感じで、誇らしくこっそりご満悦のしたり顔だ。
だからなのか、以前から人気者だったとは思うけれど、最近は街に出る度に年頃の女の子たちに囲まれることが増えたような気がする。そしてそんな女の子たちにとって私はお邪魔虫だから、物凄い敵意の籠った視線で睨まれることも少なくない。しかもケビンは、囲まれても相手をしないから、余計に女の子たちの視線が痛いのだ。
突然現れた平民の女を住み込みで雇っているなどと聞いたら、今までは貴族のケビンに近寄りがたいと思っていた女の子たちも、チャンスがあるのではないかと思うのは仕方がないのかもしれないけど……。
ケビン自身は自分で言っていた通り、人と仲良くすることに自信がないらしいけど、私からみたら騎士団の人たちにも慕われているし、街の人たちからも人望があって凄いと思うんだけど。
「おばちゃん、この野菜はどうやって食べるのがおすすめ?」
「おやアンジェリカちゃんじゃないか、いらっしゃい。今日も旦那さんと一緒で仲良くって羨ましいねえ」
八百屋のおばちゃんは毎度のことながら、ケビンと私のことを夫婦のように言って揶揄ってくる。他の人も似たり寄ったりで、その都度ただの家政婦だって言うんだけど、照れてるんでしょって言われたりとかで全然聞いてくれない。これさえなければみんな優しくって良い人ばかりなんだけどね。
ケビンはこの件に関しては好きに言わせておけば良いっていうスタンスだから、率先して誤解を解いてくれる気はなさそうだ。否定すればする程疑わしく思われるだけだというのも分かるけど、事実私たちは雇用主と従業員の関係でしかないのだから、もういい加減止めて欲しい。
嫌な訳ではないのだけど、大魔導士で騎士団長のケビンに申し訳ないという気持ちが強くて……。自分で言っていて虚しくなるけど、こんな得体もしれない異世界から来た女と噂になるなど不本意なことだろう。本人は迷惑じゃないと言ってくれてはいるけれど、このままでは恋人も作れないのではないだろうかと心配になる。ケビンは人望もあってこれだけ素敵なのだから、いつまでも独身という訳にもいかないだろうし。私のせいで出会いがなくなってしまうのは申し訳が立たない。
「もう、おばちゃんったらっ‼ 私と夫婦なんて勘違いされたら、ピスタチオ様に失礼だからね?」
「そんなことないと思うけどねぇ。アンジェリカちゃん若くて可愛くって働き者で、ここいらでも評判になる程の器量良しなんだから自信をお持ちなさいな。ほら、オマケしとくから機嫌直しておくれよ」
「もう揶揄うのはやめてね? 私おばちゃんのところの野菜大好きだから、これからも来たいし……」
「ちなみにこの野菜は油で焼くと香ばしっくって、中はトロっとして美味いからおすすめだよ」
「ありがとう。じゃあそれと、こっちのフルーツも一緒にお願いするわね」
「あいよっ。アンジェリカちゃんも、もうすっかり買い物に慣れたもんだね」
「みんなが優しく教えてくれたおかげだよ。おばちゃんもありがとう」
野菜を受け取り料金を支払うと、八百屋のおばちゃんに挨拶をして他のお店に移動した。
ケビンと一緒に塔に戻ると、早速買ってきたものを片付ける。それから、夕食の下準備を済ませると、一息つくためにお茶の準備を始めた。
「ケビン、今日もお買い物に付き合ってくれてありがとう。休憩にしましょ?」
ケビンと向かい合わせにテーブルに着くと、今日買ってきたお茶菓子と一緒に温かい紅茶を頂いた。
ケビンの実家から送られてくるという茶葉は、とても風味が豊かで砂糖を入れなくてもほんのり甘いのだ。それは、茶葉と一緒に入っている乾燥させた果物のおかげなのだけど、元の世界にはなかった味わいでとても気に入っている。
「アンジェリカは、本当にこの紅茶が好きなんだな」
頬が緩んでいる自覚があったので、少し恥ずかしくなったけれど素直に頷いた。
「今までは一人だったから、茶葉が送られてきても入れるのが面倒で腐らせてしまっていたんだ……」
「えっ!? 勿体ない……。私の国にもあったら毎日でも飲みたいくらい美味しいのに」
「そうだな。アンジェリカのおかげで、この紅茶の美味さを知ることが出来たよ」
「これからはご実家から送られてきたら、傷む前に楽しみましょうね」
ケビンの話を聞くところによると、一人で住んでいたころは休憩すら取っていなかったらしく、態々湯を沸かしてお茶を入れるような生活ではなかったと言う。
喉が渇いたら水でも飲めば良いという考えだし、私が声を掛けなかったら寝食も疎かに研究に没頭するところを目の当たりにしたから本当にそうなのだろうというのは疑いようもない。拘りがあるものには時間も労力も掛けるけど、自分のことに関しては必要最低限で良いというスタンスらしい。今は若いからどうにかなっているのだろうけれど、このままの生活が長く続けば身体を壊しかねない。いくら魔法が堪能であっても万能ではないのだから、彼の生活を改善するのが今後の私の最優先事項だろう。
初めて会った時よりも今の方が顔色も良いし血色も良い。元々どこに出しても恥ずかしくないほどの美丈夫ではあるのだけれど、最近は益々男らしさに磨きがかかってきたと思うのだ。
私が育てましたといった感じで、誇らしくこっそりご満悦のしたり顔だ。
だからなのか、以前から人気者だったとは思うけれど、最近は街に出る度に年頃の女の子たちに囲まれることが増えたような気がする。そしてそんな女の子たちにとって私はお邪魔虫だから、物凄い敵意の籠った視線で睨まれることも少なくない。しかもケビンは、囲まれても相手をしないから、余計に女の子たちの視線が痛いのだ。
突然現れた平民の女を住み込みで雇っているなどと聞いたら、今までは貴族のケビンに近寄りがたいと思っていた女の子たちも、チャンスがあるのではないかと思うのは仕方がないのかもしれないけど……。
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