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買い物中に②
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私たちはあくまでも雇い主と従業員の関係でしか無いわけで、毎度毎度ご丁寧に敵意の籠った視線で射貫くように睨むのは止めて欲しい。
それで、そろそろ街での買い物にも慣れてきたことだし、前々から聞いてみたかったことを訊ねることにした。
「ねぇケビンは、買い物の度に私との関係を揶揄われて嫌じゃない?」
何度か訊ねたことのある問い掛けをする。つい先ほど買い出しから戻って、今は買ってきた物を分担して収納しているところだった。ケビンは高い場所にある棚に収納してくれている手を止めて私を振り返る。
「俺は気にしないといつも言っている」
少しだけ眉間に皺が寄った気がする。ほんの一瞬だったけれど、私が同じことを何度も聞くからしつこいと思ったのかもしれない。
「ごめん。しつこかったよね……」
いつも温厚で優しいケビンに不快な思いをさせてしまったと、俯きながら小さな声で謝罪する。
「いや、怒っている訳ではないんだ。でも本当に俺は気にしていないんだ」
落ち込んだ様子の私に気付いたのか慌ててそう言った。
「怒ってないのなら良いんだけど……。ほら、最近街に出ると女の子たちに囲まれることが増えたじゃない?」
「まあアンジェリカがここに来る前より増えたことは事実だが、あんなのは放っておけば良いのだ」
「…………」
「何か気になることでもあるのか? この際だから何でも言ってくれ」
ケビンは何てことないようにそう言ったけれど、私は以前より気になっていたことを聞くチャンスだと、意を決して訊ねることにした。
「こんなこと私が言うのもおかしいのかもしれないけど」
「構わない。続けてくれ」
ケビンに再度促されて私は続けた。
「ケビンは二十三歳だったわよね?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「地位も権力もあって、人望も実力もある」
「いきなりどうした?」
「容姿だって整っていて格好いい」
「なんだなんだ」
「年頃の女の子たちがあなたの周りに群がるのは、あなたがかなりの優良物件だから。結婚適齢期だけど、貴族だし団長だし大魔導士だしで、高嶺の花だと思っていたあなたの傍に私。突然現れた素性の分からない女。雇われていることから身分は低いと予想が付く」
「さっきから何を言っているんだ?」
「単刀直入に言うと結婚適齢期であるあなたが、恋人を作るのに私との噂が邪魔になっているんじゃないかっていう話よ」
私の言いたいことが伝わったのか驚いた顔をしていた。
「言いたいことは分かった」
「うん。だから買い出しはこれからは私一人で出掛けた方が良いと思うの」
前から考えていたことを提案すると、また驚いた顔をされてしまった。
「それはだめだ」
「え、何で?」
「危険だ」
「大丈夫よ。大分あの街にも慣れたし。私のせいでケビンの婚期が遅れたら申し訳ないもの」
これは本当の気持ちだけど、本音は女の子たちに囲まれてチヤホヤされているケビンを見たくないだけ。今はケビンも相手にしていないけれど、いつか気になる女の子と出会うかもしれない。それを邪魔したくないのだ。そしてケビンに恋人が出来たら、私はこの塔を出ようと思っている。幸せな二人の傍にいつまでも年若い女がいるのは迷惑だろう。そうなってまでケビンの優しさに甘え続けるほど私は神経が太くない。
「アンジェラ。君は一人で結論を急ぎ過ぎじゃないか?」
「え? でも女の子たちに囲まれても私がいるからお話も出来ないじゃない」
「俺が街の娘たちと話せなくて残念そうにしていたことがあったか?」
ケビンは真剣な表情で私にそう訊ねる。
「残念がってはいなかったと、思うけど……」
「寧ろ迷惑そうにしていなかったか?」
「……言われてみればそう言う風にも見えるけど」
「君は一人で考え過ぎだ。俺は街娘たちと話したいと思っていないし、取り急ぎ恋人が欲しいとも思っていない。そもそもあのように自分からガツガツとアピールしてくるような女性は好まない」
少し呆れたような表情で結構辛辣なことを言うケビン。優しい人当たりの良い部分しか知らなかった私は少し驚いた。
「恋人は今はいらないって言うのは分かったけど、私とあなたがそういう関係だと思われたままで良いのかなって」
「それこそずっと言い続けているが、俺は気にしていない」
まだ食い下がろうとする私に、この話はもうおしまいと言うように部屋を出て行ってしまった。
ケビンの出会いの邪魔になるんじゃないかって心配していたけど、そもそも出会いを求めている訳ではなかったのか。なら良いのかな? 寧ろ私との関係を噂されている方が都合が良いのかもしれない。街の女の子たちはまだ納得いってないみたいだけど、良い虫よけになるのかもしれないわね。
何から何までお世話になっているケビンの役に立てるのなら、虫よけ役を頑張るのも悪くない。
しかし殿下に婚約破棄され異世界に転移させられた日から、まさか初対面の異性とひとつ屋根の下で暮らすことになるとは思ってもいなかったなぁ……。
最初は年頃の異性との生活がどうなるのかと不安だったけれど、雇ってもらう時に言ってくれた通り、男女ということを意識することも意識させられることもなく、住み込みの従業員として接してくれているため、私も雇用主と割り切って生活出来ているのは有難い。
ケビンは日中の殆どの時間を三階の仕事部屋で過ごしているため、食事や休憩の時間以外は顔を合わせることもなく、居心地が悪いことなど一切ない。おかげで私は案外のびのびと快適に過ごさせてもらっているのだ。
家事も順調にこなせていると思う。二人しか住んでいないので、こまめに片付けをしていればそこまで汚れることもないため掃除も苦痛ではない。料理に関しては世界の違いもあって、私が作る物は彼にとって未知の料理ばかりだったみたいだけど、嫌な顔一つせずに食べてくれるし、美味しいとも言ってもらえた。それに何品かはお気に入りも出来たようだ。目の前で嬉しそうに食べてくれるから、私も作り甲斐があるというものだ。
仕事部屋に籠ると、私が声を掛けなければ食事や休憩を忘れて没頭してしまうので助かるとも言ってもらえて、私でも役に立てるのだと嬉しくなったものだ。
住み込みで働くようになって半年ほどたった頃には、表情の変化に乏しい彼の機嫌の良し悪しも見分けることが出来るようになってきたし、この塔もすっかり居心地の良い我が家だと思えるようになった。
それで、そろそろ街での買い物にも慣れてきたことだし、前々から聞いてみたかったことを訊ねることにした。
「ねぇケビンは、買い物の度に私との関係を揶揄われて嫌じゃない?」
何度か訊ねたことのある問い掛けをする。つい先ほど買い出しから戻って、今は買ってきた物を分担して収納しているところだった。ケビンは高い場所にある棚に収納してくれている手を止めて私を振り返る。
「俺は気にしないといつも言っている」
少しだけ眉間に皺が寄った気がする。ほんの一瞬だったけれど、私が同じことを何度も聞くからしつこいと思ったのかもしれない。
「ごめん。しつこかったよね……」
いつも温厚で優しいケビンに不快な思いをさせてしまったと、俯きながら小さな声で謝罪する。
「いや、怒っている訳ではないんだ。でも本当に俺は気にしていないんだ」
落ち込んだ様子の私に気付いたのか慌ててそう言った。
「怒ってないのなら良いんだけど……。ほら、最近街に出ると女の子たちに囲まれることが増えたじゃない?」
「まあアンジェリカがここに来る前より増えたことは事実だが、あんなのは放っておけば良いのだ」
「…………」
「何か気になることでもあるのか? この際だから何でも言ってくれ」
ケビンは何てことないようにそう言ったけれど、私は以前より気になっていたことを聞くチャンスだと、意を決して訊ねることにした。
「こんなこと私が言うのもおかしいのかもしれないけど」
「構わない。続けてくれ」
ケビンに再度促されて私は続けた。
「ケビンは二十三歳だったわよね?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「地位も権力もあって、人望も実力もある」
「いきなりどうした?」
「容姿だって整っていて格好いい」
「なんだなんだ」
「年頃の女の子たちがあなたの周りに群がるのは、あなたがかなりの優良物件だから。結婚適齢期だけど、貴族だし団長だし大魔導士だしで、高嶺の花だと思っていたあなたの傍に私。突然現れた素性の分からない女。雇われていることから身分は低いと予想が付く」
「さっきから何を言っているんだ?」
「単刀直入に言うと結婚適齢期であるあなたが、恋人を作るのに私との噂が邪魔になっているんじゃないかっていう話よ」
私の言いたいことが伝わったのか驚いた顔をしていた。
「言いたいことは分かった」
「うん。だから買い出しはこれからは私一人で出掛けた方が良いと思うの」
前から考えていたことを提案すると、また驚いた顔をされてしまった。
「それはだめだ」
「え、何で?」
「危険だ」
「大丈夫よ。大分あの街にも慣れたし。私のせいでケビンの婚期が遅れたら申し訳ないもの」
これは本当の気持ちだけど、本音は女の子たちに囲まれてチヤホヤされているケビンを見たくないだけ。今はケビンも相手にしていないけれど、いつか気になる女の子と出会うかもしれない。それを邪魔したくないのだ。そしてケビンに恋人が出来たら、私はこの塔を出ようと思っている。幸せな二人の傍にいつまでも年若い女がいるのは迷惑だろう。そうなってまでケビンの優しさに甘え続けるほど私は神経が太くない。
「アンジェラ。君は一人で結論を急ぎ過ぎじゃないか?」
「え? でも女の子たちに囲まれても私がいるからお話も出来ないじゃない」
「俺が街の娘たちと話せなくて残念そうにしていたことがあったか?」
ケビンは真剣な表情で私にそう訊ねる。
「残念がってはいなかったと、思うけど……」
「寧ろ迷惑そうにしていなかったか?」
「……言われてみればそう言う風にも見えるけど」
「君は一人で考え過ぎだ。俺は街娘たちと話したいと思っていないし、取り急ぎ恋人が欲しいとも思っていない。そもそもあのように自分からガツガツとアピールしてくるような女性は好まない」
少し呆れたような表情で結構辛辣なことを言うケビン。優しい人当たりの良い部分しか知らなかった私は少し驚いた。
「恋人は今はいらないって言うのは分かったけど、私とあなたがそういう関係だと思われたままで良いのかなって」
「それこそずっと言い続けているが、俺は気にしていない」
まだ食い下がろうとする私に、この話はもうおしまいと言うように部屋を出て行ってしまった。
ケビンの出会いの邪魔になるんじゃないかって心配していたけど、そもそも出会いを求めている訳ではなかったのか。なら良いのかな? 寧ろ私との関係を噂されている方が都合が良いのかもしれない。街の女の子たちはまだ納得いってないみたいだけど、良い虫よけになるのかもしれないわね。
何から何までお世話になっているケビンの役に立てるのなら、虫よけ役を頑張るのも悪くない。
しかし殿下に婚約破棄され異世界に転移させられた日から、まさか初対面の異性とひとつ屋根の下で暮らすことになるとは思ってもいなかったなぁ……。
最初は年頃の異性との生活がどうなるのかと不安だったけれど、雇ってもらう時に言ってくれた通り、男女ということを意識することも意識させられることもなく、住み込みの従業員として接してくれているため、私も雇用主と割り切って生活出来ているのは有難い。
ケビンは日中の殆どの時間を三階の仕事部屋で過ごしているため、食事や休憩の時間以外は顔を合わせることもなく、居心地が悪いことなど一切ない。おかげで私は案外のびのびと快適に過ごさせてもらっているのだ。
家事も順調にこなせていると思う。二人しか住んでいないので、こまめに片付けをしていればそこまで汚れることもないため掃除も苦痛ではない。料理に関しては世界の違いもあって、私が作る物は彼にとって未知の料理ばかりだったみたいだけど、嫌な顔一つせずに食べてくれるし、美味しいとも言ってもらえた。それに何品かはお気に入りも出来たようだ。目の前で嬉しそうに食べてくれるから、私も作り甲斐があるというものだ。
仕事部屋に籠ると、私が声を掛けなければ食事や休憩を忘れて没頭してしまうので助かるとも言ってもらえて、私でも役に立てるのだと嬉しくなったものだ。
住み込みで働くようになって半年ほどたった頃には、表情の変化に乏しい彼の機嫌の良し悪しも見分けることが出来るようになってきたし、この塔もすっかり居心地の良い我が家だと思えるようになった。
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