17 / 365
第一篇 ~銀弾でも貫かれない父娘の狼~
15話
しおりを挟む「―――というわけでです」
「そっか、ありがと」
アマゾナイト軍基地内のとある通路。
そこをブムカイと彼の部下は歩いていた。
軍ならではの内容を色々と話し合っているところであったが、そこへもう一人の部下が駆け寄ってきた。
「隊長!」
「おう、廊下は一応走んなよ」
駆け足で近付く部下の手には、先の―――アーサガが遭遇した襲撃事件の詳細が書かれた報告書が握られていた。
「これが今回の事件の被害内容をまとめたものです」
用紙を受け取ったブムカイはすぐさまその文面に目を通していく。
と、部下は彼の隣で報告内容に書かれていない情報を補足する。
「今回ディレイツが襲撃した酒店ですが、やはりいつも通り旧王国時代では賭博場として使われていた場所のようです。現在はそのようなことに使用されてはいなかったようですが……かつて賭博場を利用していた客の情報によると、以前店主はあの場所を『清められた聖なる場所』と言っていたそうです」
「清められた…?」
「聖なる場所、ですか」
報告する部下の言葉に、ブムカイと傍らにいた別の部下が顔を見合わせる。
「賭博場が清められてるとは思えないけどねえ。で、その店主さんは?」
「それが例の如く…」
「行方不明…ねぇ」
受け渡された数枚の報告書には、彼の言葉通り被害者でもあった店主は火災時、避難した後から行方不明になっていると書かれている。
ブムカイは一通り目を通し終えると小さく吐息を洩らし、報告に来た部下の肩を軽く叩いた。
「なるほどね。報告ありがとさん」
それから彼にその用紙を返し、再度通路を歩き出していく。
連れ立って歩いていた部下の男もまた、付き添うように後を追っていった。
「このディレイツって組織、目的がいまいちわかんないんだよなあ。闇賭博や闇競売所といった暗い部分ばかりを襲い、火災現場の主は必ず行方不明になる……義賊気取りだって言っても襲う場所は全部“元”が付く場所で、今は何の疚しい事もされてないってのにさ…」
ぼやくようにブムカイは部下に話しながら辿り着いた一室の扉をおもむろに開ける。
自身の部隊室の中へ入っていく最中、部下が足を止め、口を開く。
「あの…少し宜しいでしょうか?」
「ん、どうしたの?」
扉が反動でゆっくりとしまっていく中、部下は俯いたまま、静かに言った。
「この事件と直接関係があるか解らないのですが…実は昔、自分はあの近辺で暮らしていたことがありまして。それで……当時ある噂を耳にしたことがあるのです……」
「噂…?」
ブムカイは僅かに眉を顰めた。
「アーサガさん。ディレイツ事件の資料、持って来ましたよ!」
ノックもなしに扉を開き、ベッドで眠っていたアーサガへと駆け寄る男性リュ=ジェン。
「せっかく寝てたってのに…少しは静かに来やがれ」
「はい、すみません!」
心のない返事をしながらリュ=ジェンは上体を起こしたアーサガの膝元に地図を広げていく。
「既に赤で○つけてますけど、それが今までに襲撃された現場っす。…あ、これが被害状況の報告書ですが…」
「いや、これだけあれば良い」
男は数十枚に及ぶ紙束を渡そうとするが、アーサガは地図に集中したいため断る。
じっくり時間を掛けて地図へと目を走らせていくアーサガ。
そんな彼に対し、リュ=ジェンは時折背後のドアを振り向きながら、どこかそわそわしている様子を見せる。
「あの…コレ見せたこと言わないでくださいよ。特にハイリ副隊長にばれたときには…」
「…絵に描いたような生真面目みてえだからな」
不安そうにため息を洩らす彼へアーサガが口を開く。
ちょっとした同情心のつもりで返答したアーサガだったが、それが嬉しかったらしく、リュ=ジェンは今にも泣きそうな顔で何度も強く頷いていた。
「そうなんっすよー! 歩く規則みたいな人なんすけど、副隊長元々はムト帝国出身者なんすよ。だから肩身が狭いっていうのもあって…」
「この地区からすりゃあ元敵国者だかんな。目の敵にしてる連中に対抗するためあんな説明機械になったってことか」
此処アマゾナイト軍クレストリカ地区東基地には旧国から各々抜擢されただろう兵士たちも配属されているわけなのだが、未だ一枚岩とは言えず。
そこには旧国家時代からの確執や対立、思惑といったものが今も根強く続いているためであった。
ムト帝国とはアドレーヌ王国が建国される以前に存在していた三国の内一つであり、この地域―――元クレストリカ王国の者たちにとってはかつての仇敵。
クレストリカ出身者の比率が多いこの基地内において、そういった他国から配属されてきた者たちは肩身の狭い思いをしているというわけだ。
「もっと愛想よくいれば良いってのに…要は不器用なんっすよね。だから放っておけないってブムカイ隊長に拾われたっていうか…」
そう言ってリュ=ジェンは肩を竦めながらため息をつく。
「それはお前も似たようなもんだろが」
アーサガにそう言われグサリと胸に何かが突き刺さり、胸元を押さえ付ける仕草を見せるリュ=ジェン。
旧ジステル皇国出身者である彼もまた、軍人としての素行の不適切さも重なって周囲に目を付けられていたところをブムカイに拾われた口であった。
(だからブムカイ<アイツ>が拾ったわけか。相変わらずの変わり者が…)
アーサガは不意にハイリの姿を過らせた。
如何にも自他ともに厳しいといった雰囲気をまき散らし、真面目に―――必死にやっているとアピールし続けていた彼女の様子が思い出される。
と、そう思ったところでアーサガは即座に軽く頭を振り、顔を顰めながら目の前の事へと集中し直した。
0
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる