75 / 365
第二篇 ~乙女には成れない野の花~
3連
しおりを挟む再度響くノックの音。
今度は「失礼します」の声と共に扉を開けて、先ほどの女性―――基、リャン=ノウが姿を見せた。
リャン=ノウは着替え終わったエミレスを見るなり、満面の笑みを浮かべる。
「めっちゃええやん、かわいーわ!」
綺麗な装飾が施された淡い黄色のドレスを着ているエミレスは、リャン=ノウに絶賛されるなり顔を真っ赤にさせてしまう。
嬉しさ、というよりエミレスは恥ずかしさで一杯一杯だった。
しかし、勿論これが初めてというわけではなく。
「そんな…私には全然似合わないから…」
毎度毎度、綺麗なドレスへ着替える度。
彼女はそう言って羞恥心に胸が張り裂けそうな思いでいた。
「何ゆーてんの。もっと自分に自信持たなあかんて! こんなにかわいーのに!」
俯くエミレスをリャン=ノウは力一杯抱きしめる。
優しく温かな彼女の言葉。
だがそんな言葉を何回聞こうとも、エミレスは否定せずにはいられない。
全く以って、信じられないのだ。
「そんなことない…私は綺麗でも可愛くもないから……だから……」
リャン=ノウを引き離し、強く頭を振るエミレス。
その一方で、侍女たちはエミレスの言動には気にも留めずそそくさと退室していく。
彼女達は次いで、お茶会へ出向くべく準備をしなくてはならないからだ。
二人きりになる室内。
だからこそ、余計にエミレスの胸の内が吐露されていく。
「…だからみんなから嫌われてる…だから…お兄様たちからも見放されているんだわ―――」
と、感情を昂らせ始めるエミレスへ、リャン=ノウは食指でその口を噤む。
続けて彼女はエミレスの頭を優しく撫でた。
「それはお門違いやってゆーとるやろ。スティンバル国王様たちは皆急がしいだけやって」
エミレスが現在住む屋敷は、国の中心地である王都エクソルティスから遥か離れた東方の地にある。
本来は避暑地で年に一度訪れるかどうかというこの地に、彼女は10年ほど前から世話係数人と暮らしていた。
一方で唯一の兄スティンバル・タト・リンクス国王は王都に居る。
かつてはとても優しかった兄だったが、離れて暮らすようになってから一度も会いに来てはくれない。
今も欠かさず手紙を出し続けてはいるが、返事さえ来ることもない。
そもそも、エミレスは何故自分がこんな遠地で暮らさなければいけなくなったのか。
その理由を聞かされてもいなかった。
だが、彼女は決して聞くことはしない。
王都へ帰りたいとも言わないし、兄に会いたいとも言ったことはない。
聞かずとも、エミレスは察してしまったからだ。
愛しかった兄たちに嫌われているのだと。
「ほらほらっ。こないだも手紙出したばっかやし…今度こそきっと返事が来るはずやって!」
笑みを浮かべ、リャン=ノウはエミレスを見つめる。
エミレスはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
リャン=ノウに手を引かれるエミレスは屋敷の玄関へと辿り着く。
そこでは既に侍女たちが待っており、赤絨毯の前で整列していた。
エミレスが通ると腰を曲げ、「いってらっしゃいませ」と挨拶をする。
赤絨毯を歩いたその先―――屋敷の外には一台の馬車とリョウ=ノウが待っていた。
「お待ちしていました。さ、お乗り下さい」
リョウ=ノウは馬車のドアを開け、エミレスを車内へ案内する。
そうして自分も馬車の中へと入り、静かにドアを閉めた。
「今回のお相手はここらを統治するお偉いさんのやからな。くれぐれも粗相のないようがんばりや! リョウもエミレスを手伝ったれや」
「了解しました」
御者の手綱を叩く音が響き、馬車はゆっくりと進み始める。
リャン=ノウはその馬車が地平線の彼方に消えるまでずっと手を振り続け、応援の言葉を叫んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる