106 / 365
第二篇 ~乙女には成れない野の花~
34連
しおりを挟むエミレスを乗せた荷馬車はゆっくりと丸一日かけ、王都へと辿り着いた。
大事になるようなことも、騒動に巻き込まれることもなく。
至って平穏に、彼らは王都入り口の門をくぐる。
「思ったより何にもなくて拍子抜けだったな」
「…となると、返って気掛かりじゃの」
手綱を握りながらポツリと漏らしたゴンズに、ラライは尋ねる。
「と、言うと?」
「エミレス様を逃した襲撃者は確実にこの移動中を狙うと思っとった…何せ、エミレス様を王都まで逃がしてしまっては簡単に狙うことが出来なくなるからじゃ」
そう言ってゴンズは現在通行中である門を見上げる。
荷馬車も簡単に通行出来る巨大なこの門は、頑丈な石素材で出来ている。
鉄製の両開き式の扉は今やほとんど使われていない“エナ”の力で開閉されている希少な扉だ。
そんな堅牢な巨大門と壁は、王都エクソルティスをぐるりと囲うように作られている。
「そして王城は湖上にあり、唯一の架け橋を渡る他に登城する手立てはない」
「襲撃者にとって王都まで逃げこまれちまうとお姫様を襲いにくくなるってことか」
肯定に頷くゴンズ。
ラライは視線をそんな師匠から車内で座っているお姫様―――エミレスへと向ける。
色々なことがあって疲れたのだろう、彼女は座ったまま寝息を立てていた。
「なのに全く襲ってくる気配すら感じんかった…」
「慎重になり過ぎただけってわけでもなく、か?」
ゆっくりと、馬車は王都内へと入っていく。
そこでは多くの露店が並び、各々やりたいように品々を売買している様子が見られた。
様々な容姿の、老若男女たちが行き交い、賑わっている。
「それもあるかもしれんが…そもそもエミレス様を襲うタイミングも可笑し過ぎる」
「あー…確かにそれは俺も思ったぜ。リャン=ノウ姐さんの連絡書じゃ最近は一人で街まで出かけてたって話だろ。こっそり警護兵はつけてたらしいが……何でそんな襲いやすいタイミングじゃなく、わざわざ屋敷を襲ったのか」
まるで、エミレスを敢て王城へ逃がすことこそが、襲撃者の目的かのような。
そんな憶測に至り、二人は不穏な予感に眉を顰める。
「ってことは…結論言うとお姫様はわざと招かれたかもしれないってこと、か…」
「城についたとて、用心しておいた方が良いと言うことじゃ…わかったか?」
ラライはもう一度、その顰めた顔でエミレスを一瞥する。
苦しそうな顔で眠り続ける彼女を見つめ、それから深いため息を洩らした。
「ったく、面倒くせー話だな…」
いつの間にか眠ってしまっていたエミレスが目を覚ますと、馬車は止まっていた。
「着いたぜ」
ラライの声に大きく肩を揺らし、驚くエミレス。
「ご、ごめんなさい…」
素早く謝罪してしまう彼女に、「なんで謝ってんだ」とラライはぼやく。
「ほら」
と、彼は急かすように戸惑うエミレスの腕を引っ張り、無理やり起こした。
この『手を掴まれる』という行為が未だ慣れず、びくりと肩を震わしてしまう。
だがラライは構わずに荷馬車の外へ行くよう促し、背を押した。
「お帰りなさいませ、エミレス様」
幌から顔を覗いたエミレスはその光景に目を丸くする。
目の前には何十人という兵士と侍女たちが並び、エミレスを待ち構えていた。
ノーテルの別邸でも似たような光景は見てきたが、その人数が圧倒的に違った。
そして何よりも圧巻であったのが、傅く彼らの後方に聳え立つ居城。
「お城…」
幼い頃に見た以来、久々の王城だった。
0
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる