146 / 365
第二篇 ~乙女には成れない野の花~
74連
しおりを挟む「なッ!?」
「ラライッ!!」
と、城内に入り込んだ先には、偶然にもゴンズの姿があった。
彼は老体ながらも素早い身のこなしで突入して来たラライの喉元目掛けて刃を突き刺そうとした。
あと少し反応が遅ければラライは今頃致命傷を受けていたかもしれない。
「オレを殺す気かじいさん!」
「敵の侵入かと思わせたお前が悪い。というより儂の弟子ならこれくらい避けんか」
理不尽な物の言い合いに互いは顔を顰め、閉口する。
するとそのときだ、ゴンズの背後にあった扉がおもむろに開いた。
反射的に腰に携えていたナイフに手を伸ばすラライ。
が、それを止めたのはゴンズであった。
「待てラライ!」
「ッ…お前は…!?」
「―――まさか、こんな場所で会うとはな…」
そこから姿を現したのは剣を手に戦闘態勢を見せていたスティンバルだった。
「国王が何でこんなところでじいさんに守られてるんだ? 謁見の間前じゃ下っ端兵が必死に戦ってたぞ」
ラライの言葉にスティンバルは眉を顰め、顔を逸らす。
「解っている…このような事態の中、私は此処にいるべきではない…前戦へと赴き自ら指揮を取るべきだ」
だが今にも最前線に飛び出て行きそうな彼を引き留めているのが、ゴンズや彼の背後に隠れていた大臣たちだった。
「止めてくだせえ国王様! 貴方様に何かあればこの国はどうなっちまいますか…!」
「そうですとも! こういう時のために兵たちは日頃剣を持ち、自らを磨いてきたのですぞ!」
「だが…その肝心な精鋭部隊が総出で居ないのだ。ならば私自らが剣を持たなければならないだろう!」
今度は彼らが揉め始め、この場は更に混乱していく。
と、ラライはそんな揉め事も気にせずゴンズの肩を掴んだ。
「じいさん、襲ってきた連中はネフ族だって…?」
「ああ、あの特徴はまず間違いないじゃろう…」
ネフ族は元々、国外の秘境に住まう少数民族だという。
しかし近年、彼らは新エネルギーであった『エナ』に対する危険性を各地で訴え回っていたと言う。
「まさかこのようなことをしてくる民族だとは思わなかったがな…」
ラライたちの会話を聞いていたスティンバルが、おもむろにそう呟く。
それから彼はラライが突き破ってきた窓の外へ、視線を向ける。
湖の畔には大きな砲台が幾つか配置されていた。
あれは王国が所持するものではない―――そもそも、王国は一般民の兵器所持や武装を禁止していた。
民間の平和維持軍、通称アマゾナイトでさえも使用してはいない代物を何故白尽くめの集団は用意出来たのか。
「この襲撃…ネフ族以外の者が一枚噛んでいることは間違いあるまい…」
相当な地位の者か、開発者等が関与していなければあのような兵器は、先ず用意出来ない。
そう言うとスティンバルは更に眉を顰め、握りこぶしに力を込める。
一方でラライがずっと気になっていた点はそこではなかった。
「なあじいさん…ネフ族の特徴って―――もしかして髪が蒼かったりするのか…?」
「なんじゃ、包帯の中を見たわけではなかったんか…?」
ラライとしてはあくまでも可能性の低い予想であった。
が、ゴンズの反応により、それは確信へと変わる。
「ネフ族は古代語で紅蓮と蒼穹と言う由来の通り、赤い瞳と蒼い髪を持っとる」
ゴンズの言葉を聞き、ラライは顔を顰めた。
ゴンズを掴んでいた手を放し、代わりに自分の髪を掻きむしった。
「くそっ! なら余計にエミレスが危ない!」
「おい、どういうことだ…?」
ラライの大声が耳に入ったスティンバルは、それまでの揉め事を止め、彼へと尋ねる。
しかし、スティンバルの中で妹が狙われているとなれば、予想は容易いものであった。
それは、恐ろしい最悪の結末。
それを否定してくれと言わんばかりの表情で、スティンバルはラライを見つめていた。
だがラライは臆することなく、青ざめていくスティンバルに言い放つ。
「アンタならもう察してるだろ…その眼の傷と同じことが起ころうとしてんだよ」
その言葉にスティンバルの表情は更に青白く、険しく変わっていく。
ラライが何故その事実を知っているかという疑問以上に、これから起こるかもしれない恐怖に、彼は動揺を隠せずにいる。
一方で周囲にいた兵士たちは国王の動揺が理解出来ず、困惑している様子だった。
スティンバルと同じ反応を示していたのは、この場では大臣とゴンズのみであった。
「…『あの日』について、調べたんだな?」
「ああ」
ゴンズに尋ねられ、ラライは静かに答える。
思い出すだけでも身の毛がよだつ内容に、ラライの眼光は自然と鋭くなる。
0
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編)
平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる