そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

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第二篇 ~乙女には成れない野の花~

74連

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「なッ!?」
「ラライッ!!」

 と、城内に入り込んだ先には、偶然にもゴンズの姿があった。
 彼は老体ながらも素早い身のこなしで突入して来たラライの喉元目掛けて刃を突き刺そうとした。
 あと少し反応が遅ければラライは今頃致命傷を受けていたかもしれない。

「オレを殺す気かじいさん!」
「敵の侵入かと思わせたお前が悪い。というより儂の弟子ならこれくらい避けんか」

 理不尽な物の言い合いに互いは顔を顰め、閉口する。
 するとそのときだ、ゴンズの背後にあった扉がおもむろに開いた。
 反射的に腰に携えていたナイフに手を伸ばすラライ。
 が、それを止めたのはゴンズであった。

「待てラライ!」
「ッ…お前は…!?」
「―――まさか、こんな場所で会うとはな…」

 そこから姿を現したのは剣を手に戦闘態勢を見せていたスティンバルだった。

「国王が何でこんなところでじいさんに守られてるんだ? 謁見の間前じゃ下っ端兵が必死に戦ってたぞ」

 ラライの言葉にスティンバルは眉を顰め、顔を逸らす。
 
「解っている…このような事態の中、私は此処にいるべきではない…前戦へと赴き自ら指揮を取るべきだ」

 だが今にも最前線に飛び出て行きそうな彼を引き留めているのが、ゴンズや彼の背後に隠れていた大臣たちだった。

「止めてくだせえ国王様! 貴方様に何かあればこの国はどうなっちまいますか…!」
「そうですとも! こういう時のために兵たちは日頃剣を持ち、自らを磨いてきたのですぞ!」
「だが…その肝心な精鋭部隊が総出で居ないのだ。ならば私自らが剣を持たなければならないだろう!」

 今度は彼らが揉め始め、この場は更に混乱していく。
 と、ラライはそんな揉め事も気にせずゴンズの肩を掴んだ。

「じいさん、襲ってきた連中はネフ族だって…?」
「ああ、あの特徴はまず間違いないじゃろう…」




 ネフ族は元々、国外の秘境に住まう少数民族だという。
 しかし近年、彼らは新エネルギーであった『エナ』に対する危険性を各地で訴え回っていたと言う。

「まさかこのようなことをしてくる民族だとは思わなかったがな…」

 ラライたちの会話を聞いていたスティンバルが、おもむろにそう呟く。
 それから彼はラライが突き破ってきた窓の外へ、視線を向ける。
 湖の畔には大きな砲台が幾つか配置されていた。
 あれは王国が所持するものではない―――そもそも、王国は一般民の兵器所持や武装を禁止していた。
 民間の平和維持軍、通称アマゾナイトでさえも使用してはいない代物を何故白尽くめの集団は用意出来たのか。

「この襲撃…ネフ族以外の者が一枚噛んでいることは間違いあるまい…」

 相当な地位の者か、開発者等が関与していなければあのような兵器は、先ず用意出来ない。
 そう言うとスティンバルは更に眉を顰め、握りこぶしに力を込める。



 一方でラライがずっと気になっていた点はそこではなかった。

「なあじいさん…ネフ族の特徴って―――もしかして髪が蒼かったりするのか…?」
「なんじゃ、包帯の中を見たわけではなかったんか…?」

 ラライとしてはあくまでも可能性の低い予想であった。
 が、ゴンズの反応により、それは確信へと変わる。

「ネフ族は古代語で紅蓮蒼穹と言う由来の通り、赤い瞳と蒼い髪を持っとる」

 ゴンズの言葉を聞き、ラライは顔を顰めた。
 ゴンズを掴んでいた手を放し、代わりに自分の髪を掻きむしった。

「くそっ! なら余計にエミレスが危ない!」
「おい、どういうことだ…?」

 ラライの大声が耳に入ったスティンバルは、それまでの揉め事を止め、彼へと尋ねる。
 しかし、スティンバルの中で妹が狙われているとなれば、予想は容易いものであった。
 それは、恐ろしい最悪の結末シナリオ
 それを否定してくれと言わんばかりの表情で、スティンバルはラライを見つめていた。



 だがラライは臆することなく、青ざめていくスティンバルに言い放つ。

「アンタならもう察してるだろ…その眼の傷と同じことが起ころうとしてんだよ」

 その言葉にスティンバルの表情は更に青白く、険しく変わっていく。
 ラライが何故その事実を知っているかという疑問以上に、これから起こるかもしれない恐怖に、彼は動揺を隠せずにいる。
 一方で周囲にいた兵士たちは国王の動揺が理解出来ず、困惑している様子だった。
 スティンバルと同じ反応を示していたのは、この場では大臣とゴンズのみであった。

「…『あの日』について、調べたんだな?」
「ああ」

 ゴンズに尋ねられ、ラライは静かに答える。
 思い出すだけでも身の毛がよだつ内容に、ラライの眼光は自然と鋭くなる。






   
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