そして、アドレーヌは眠る。

緋島礼桜

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第四篇 ~蘇芳に染まらない情熱の空~

88項

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 レイラとソラはほぼ同時に両手を合わせ、今度はちゃんとした説明と懇願をする。

「おじさんもを知ってるなら話が早いわ。その人は村を助けてくれた恩人なのに、いつの間にか何も言わず村から出ていっちゃってたのよ。それで王都に行ったかもしれないって話になって、彼を追いかけにいくところなの」
「だからお願い…あたしたちを王都に連れてって!」

 その真っ直ぐな彼女たち眼差しが、ジャスティンを見つめる。

「こらこら…ソラもレイラもワガママ言うなって…ブルックマンさんの仕事の邪魔になるだろ? すみません…今すぐ降ろすんで」

 片やカムフは深いため息を吐きつつ、アマゾナイト用車エナカーに乗り込んでしまったソラたちを降ろそうとした。
 が、しかし。

「なるほど……わかった。特例中の特例で! 乗車を許可しようではないか」
「へ?」

 意外にも、ジャスティンは少しばかり思案顔を浮かべた後、かぶりを縦に振ったのだ。

「やったー!」
「ありがと、おじさん!」

 両手を振って喜びを表すソラとレイラ。そして静かに喜ぶキース。
 その一方でカムフは予想外の返答に目を丸くしながら、ジャスティンへ改めて尋ねた。

「いや、あの…本当にいいんですか? めちゃくちゃ自分勝手な頼みですし、それにお仕事の邪魔をしてしまうんじゃ…」
「構わん。本部に向かう手前で降ろせば任務の邪魔にもならんし。まあ…こういう人助け行為もアマゾナイトの仕事だ。感謝するんだぞ!」

 何故か誇らしげに語るジャスティンを見つめつつ、カムフは何度も頭を下げ乗車した。

「本当にありがとうございます」
「それに……王都に入りたいのならば、エナカーこれに乗っていた方が何かと都合が良いだろうからな」
「え、それってどういう…?」

 誰に言うわけでもなく呟いたジャスティン。
 そんな彼の呟きが耳に入り、思わずカムフは聞き返したのだが。ジャスティンから返答はなく。
 程なくしてアマゾナイト用車エナカーは動き出した。

(ソラはもう『ペンダント』を持っていないし、灰燼の怪物グリートもそのことを知ってるって聞いたけど……まさか、まだ灰燼の怪物グリートに狙われるかもしれないってことなのか?)

 そんなことを考えるカムフ。
 だが、間もなくして始まったジャスティンの運転テクニックが始まると、カムフは思考の全てがぶっ飛んでしまった。

(そうだった…この運転…やっぱ、慣れそうにはない…!)

 それ以後もカムフに考える余裕は全くなく。アマゾナイト用車エナカーは一直線にエクソルティス王都へと向かっていく。







 アマゾナイト用車エナカーで深夜の道中を走り続けるジャスティンたち一行。道中を照らす明かりと言えば月の輝きとライトくらいだ。
 小型であるアマゾナイト用車エナカーでの運転は大型の集団移動用車エナバとは全く違う緊張感があり、ソラたちは好奇心と驚愕と恐怖にと、様々な悲鳴を上げていた。
 しまいにはキースが具合を悪くし、吐き気を催すほどの事態となったが、それでもジャスティンはアマゾナイト用車エナカーを止めようとはせず。
 最終的には全てが限界に達したのか、後部座席の三人はいつの間にか眠ってしまっていた。もしくは気絶していたのかもしれないが。




「―――おそらくだが、明日には王都は全通行禁止…完全封鎖となるだろう」
「え?」

 ジャスティンがそう口を開いたのは、ソラたちが寝静まったのを確認して間もなくのことだった。
 突然の言葉、その内容にカムフは半分眠っていた頭を覚醒させる。
 
「完全封鎖って…門を全て閉じるってことですか?」
「ああ」

 大きく目を見開くカムフに、ジャスティンは小さく頷き答える。
 王都エクソルティスには、王城が浮かぶエクソル湖をぐるりと大きく囲うよう、外壁が造られている。襲撃者から民や城を護るため、アドレーヌ王国建国時に造られたものと云われている。
 そのため、王都の出入には八か所ある門を通なければならないのだが。その門全てが閉鎖されるということは、王都エクソルティスは完全に孤立する。
 そんな事態は今までの歴史上、聞いたことがなかった。

「そんな…大事件じゃないですか!?」

 思わず声を大きくさせるカムフにジャスティンは眉を顰める。

「あまり大声を上げるな。彼女たちに聞かれると色々うるさいから今話しているのだ」

 その意図を察し、カムフは慌てて手で自分の口を覆う。

「す、すみません…でも、どうして閉鎖なんか…しかも急に……」

 ジャスティンは運転を続けながら、会話も続ける。

「どうやら灰燼の怪物グリートが王都へ向かっているという情報タレコミが国王の奴の耳に入ったらしい…とのことだ。ここ一月半近く、奴による被害は王国各地で急増していたからな。当然と言えば当然の対応かもしれんが…」
「確かに村の惨状やソラたちのことを思えばその警戒もわかりますが…だとしても、王都の完全閉鎖は少し大げさな気もします。だって相手はたった一人だっていうのに…」

 思案顔を浮かべながらそう囁くカムフ。

「あっ…」

 カムフはある推測に行き着き、思わずそんな声を洩らした。






    
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