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予想外の現実
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しおりを挟む「嘘だろ…だって、魔女が…現れていたのって結構昔の話じゃ…?」
「ガキの姿のまんまで悪かったわね。ほら、ケビンが言ってたじゃん、禁術には副作用があるって。そのせいであたしは肉体が退行していったのよ。ま、若くなるってのは悪くないけど」
レンナは陽気にくるりと回転して見せる。そんな彼女の話が受け入れられず、思わず閉口するアスレイ。
ずっと隣に居た少女が実は噂に聞く悪名高い魔女であり、禁術に手を染め数多の人を手に掛けていたなどと、誰が想像出来るだろうか。
「レンナが…まさか…」
同じ言葉の繰り返ししか、出て来ない。突き付けられた現実にアスレイの頭は追いつかず、呼吸ばかりが浅く荒くなっていく。
「ああっ…ッ!」
と、またしてもユリの悲鳴が夜空に響き渡っていく。
彼女は涙を浮かべながらとある一体の傀儡へ手を伸ばしていた。が、拘束されたままであるため、その傀儡に駆け寄ることも、掴むことも叶わずにいる。
「そんな…ご、めんなさい…ごめん、なさい……」
声を震わせ泣き崩れ、傀儡に懺悔するユリ。いつも沈着冷静でいた彼女が、ここまで取り乱すほどに驚愕する傀儡。
それはアスレイも見覚えのある人物であった。見覚えがあったからこそ、信じたくはなかった。
「あ、あ…な、んで……」
アスレイもまた驚愕に声を震わせ、望まなかった再会に顔を歪ませる。
てっきり彼を抹殺した犯人はティルダか、手を組んでいるという賊たちだとアスレイは思い込んでいた。見せしめとして、始末されたのだと。
しかしそれは間違いだった。
「―――そんな…カズマ……!!」
土塊と化した亡骸たちに紛れていた懐かしい姿。生気のない無表情、無言でありつつも、別れたあの日のままの肩当てにズボンといった出で立ち。
それはまさしく行方不明となっていたカズマであった。
「だーから。さっき言ったじゃん。あたしの目的はコレなの……イケメン領主と傭兵をあたしのコレクションにするってこと。まあ…嫌いな呼び名とは言え、あたしの名を好き勝手利用したことの報復ってのが一番の理由だけど」
そう言ってレンナが片手を上げると、傀儡たちは一斉に携えていた剣を抜き取り、アスレイたちへと向ける。
未だ心の整理が付いていないアスレイだが、これだけは理解する。レンナは自分たちを生かすつもりはないのだと。
それはアスレイにとって絶望にも近い衝撃だった。
「今までずっとこのチャンスを待ってたわけだけど、アンタのおかげでこうして無事に目的は達成出来た。カズマの時といい今といい、ホント助かったわ。ありがとね」
彼女は不敵な笑みを浮かべ、月下によって黄金色に輝くナイフを高々と掲げる。
「報復って…そんな理由でカズマもティルダも殺したのか…!」
アスレイは声を絞り出し、レンナへと叫ぶ。しかし彼の言葉に対し、彼女は冷ややかな視線を向けるのみ。
「レンナはいつだって親切してくれたじゃないか。信じられる人だと思った。なのに…何でこんなひどいことが出来るんだよ!!」
レンナはこれまでも、文句を言いつつもアスレイの手助けをしてくれた。田舎者であった彼に色々と知識を与え、助言もしてくれた。
レンナと過ごしたこれまでの記憶が脳裏に次々と蘇っていき、アスレイはその度に顔を顰める。思い返せば思い返すほど、今目の前に居る彼女はまるで別物のように見えてしまい、結びつかなくなっていく。信じられなくなっていく。
と、レンナは両手を腰に当てながら、ため息交じりに答える。
「だーかーら…さっきから言ってんでしょ! あたしは自分の目的のためにずっと、ずっとず~っとアンタを利用してただけ…ティルダ・キャンスケットとカズマ・カムランを手に入れるためだけに色々やってあげてただけなの。それに何度も教えてたじゃん。あたしは良い人なんかじゃないって」
彼女は平然と信じたくもない、耳を塞ぎたくなる言葉を並べる。だが、それでもアスレイは耳も塞がず、目も逸らさずに彼女を見つめる。
それはレンナが『これが嘘ではなく真実だ』と『目を背けずに信じろ』と、そう伝えるような眼差しをしていたからだ。
「嘘じゃ…ないんだな…」
力無く、アスレイは尋ねる。
「この光景見てまだ夢だとか思ってるわけ? ったく…アンタよく言ってたじゃん。あたしを信じてよ」
それがとどめの一言だった。
深く突き刺さった言葉に、アスレイは更に顔を歪める。此処まで突き刺されて、突き放されてしまっては最早、彼はこの現状を受け入れるしかなかった。
彼女が黄昏誘う魔女であるということを。
自分の名を利用し悪行をしていたティルダたちに報復することが彼女の目的であったということを。
そのために自分を今まで利用していたことを。近付いていたのだということを。
そして今まさに、アスレイとユリの命をも奪おうとしているのだということを。
アスレイは深呼吸をし、それから真っ直ぐにレンナを見つめ、覚悟を決めた。
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