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1日目~4

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 僕はこのまま探索を続けてみることにした。
 まあ、何か可笑しなことがあれば直ぐに逃げれば良いだけだし、大丈夫だよね。



 玄関へと戻った僕は、今度は1階奥の通路を調べてみようと思った。
 そっちの方は食堂があるみたいで、更に奥の突当りには調理場もあった。
 食堂は元ホテルだっただけあって思った以上に広くて。
 町の子供たちでパーティをやっても充分なくらいの広さだ。
 でもテーブルも椅子も絨毯も、飾られている品々も豪華で。
 どう見ても子供のパーティをするような場所じゃないけど。

「…ここで夫人って、1人で食事してたのかな…?」

 僕はそう思ってテーブルに触れた。














                               クスクス















 何かが聞こえてきた。
 たぶん、声だ。
 でも、だって、人なんていないはず、なのに…。















                       クスクス

                                クスクス



                    クスクス















 まちがいない。
 人の―――それも子供の声だ。
 なんで?
 どうして?
 僕の呼吸が、心臓の音が、どんどん激しくなっていく。















 クスクス



 その声は耳元から聞こえてきた。
 遠くから聞こえていたはずの声が、だ。
 振り返ることも、怖くてできない。
 だけれど、このままここにいることは危険だ。
 今すぐに逃げなきゃと、本能が告げている。

「うわぁぁっ!」

 僕は悲鳴を上げて、直ぐに走り出した。
 それが何かも確認しないで。
 急いで食堂から飛び出した。





 無我夢中で駆けて戻って来た玄関。
 僕は慌てながらもその扉を開けて外へ逃げようとした。

「なんで!? 開かないっ!!?」

 けどなぜか扉が開かなかった。
 入ってきたときは鍵もかかってなくて直ぐに入れたのに。
 今はどんなに回そうとしても、押しても引いても開こうとしない。















よかった…わたしとあそんでくれるんだね?



 どこからともなく聞こえてくる声。
 怖いと叫ぶことも、なぜか出来ない。
 ランプもどこかで落としちゃったのに、女の子の姿がはっきりと見える。
 真っ白な可愛いドレスを着た女の子。
 三日月の笑顔が凄く不気味で、怖い。



いっしょに、ずっとあそぼう?



 ゆっくりと近づいてくる女の子。
 よく見ると顔は真っ白だった。
 そして足下は透けていて、何もない。
 怖くて怖くて、僕は逃げたかった。
 だけど、扉は開かないし、腰が抜けちゃってもう足が動かない。



だいじょうぶだよ…いっしょならすごくたのしいから



 女の子が僕の手に触れた瞬間。
 僕の世界はぐるんとひっくり返った。
 上が下で。
 右手と左手が逆になったような感覚。
 めまいのような感覚。
 気持ち悪いはずなのに、少しずつ気持ちよくなっていく。
 なんだか。
 なにもかもが。
 どうでもよくなってくる。














          
―――タ キ テ ッナ ク ヨ モ デ ウ ド 、カ ダ ン ナ















   ◆◆◆















 …残念です、オットー様。
 約束を破り、夜の前に屋敷の外へ戻って来なかったのですね。
 きっともう貴方を見つけることは、私には出来ません。
 とても残念です。
 





 さようなら、オットー様。








     ~fin~







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