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2日目~2
しおりを挟むアンと出会うことの出来た僕はとりあえずもう一度屋敷の中へと戻る。
扉が閉まり、再度真っ暗になっていく屋内。
すかさずアンが持っていた僕のランプを照らしてくれた。
「それはアンが持っていて。僕が探したり調べたりするから」
アンは静かにうなずく。
よく考えたら女の子に虫やネズミが出るかもしれない屋敷内を調べさせるのは可哀想だった。
それに明かりを灯してくれるだけでもありがたいし。
何よりも、1人じゃないことが嬉しかった。
ガタッ
物音が聞こえ、僕は驚き悲鳴を上げる。
「うぁっ!」
だけどアンはとても冷静に僕へ言った。
「お兄ちゃん、今のはネズミが動いた音よ」
その言葉に僕の顔はすぐに真っ赤になったことだろう。
僕はアンと一緒にまた食堂へと戻ってきた。
ここには何かがあるかもしれない。
そんな気がしたからだ。
だけど、改めて見ても食堂にはこれといって目に付くようなものはない。
高そうな壷とか華やかそうな景色の絵画はあるけど。
どれも夫人とは関係なさそうな気がする。
「…」
「どうしたの、アン?」
アンがなぜかランプを動かす手を止めていた。
それが気になって尋ねるとアンはその指である方向を指した。
「あれは……」
食堂奥にあった暖炉。
煤にまみれて真っ黒になっているその暖炉へ近づいてみる。
するとそこに光るものが落ちていた。
「ペンダント…?」
特に豪華ともきれいとも言える感じではない、銀に輝くペンダント。
なんだ、大したものじゃないや。
僕がそう思っているとアンはそれを「触ってみせて」と言った。
言われるまま彼女に手渡すと、彼女は次の瞬間、ペンダントをスルりと動かした。
「え? どうやったの?」
「これ…ロケットペンダントみたい」
手前の飾りを横にずらすと、奥から肖像画が姿を見せた。
驚く暇もなく、僕はその肖像画を見つめる。
「女の人…と、男の人かな……」
年齢はどちらも見る限り若そうだけど、残念ながら長い年月によって色あせていて。
詳しい顔まではよくわからない。
「もしかしたら夫人のものかもしれない。ちゃんと記録しとかないと…」
そう言って僕は鞄に入れてあったスケッチブックを取り出した。
ようやくコイツの出番だ。
「…わざわざ肖像画を描くの?」
他人から見たら肖像画の絵を描くなんて、不思議かもしれないけど。
エーデルヴァイス夫人の私物は持って出てはいけないから、こうやってメモ描きするしかないんだ。
「少しずつ夫人のことを描いていけば、きっと夫人の笑顔が描けると思うんだ」
「そういうものなんだ…」
ランプを片手に「ふうん」と首を傾げるアン。
けれど、どこか興味も津々みたいで。
絵を描く僕をじっと見ている。
「アンは絵は描くの?」
ふと思った質問をアンにしてみた。
するとアンは首を振った。
「私は上手じゃないって言われたから…描いたことはなくて」
「そうか。けれど絵を描くことに上手い下手なんて関係ないよ」
そんな会話をしているうちに肖像画を描き終えた。
この他に目立ったものも、夫人のことを知れるような品物もなさそうで。
僕たちは食堂を後にする。
クス
次に調べるのは1階最奥にある調理場だ。
この大きさの食堂からすると、調理場もそれなりに大きいのだろうと思われた。
「…あれ、どうしたの…?」
するとアンがなぜか通路で立ち止まっていた。
そのまま動こうともしない。
彼女にランプを渡しているから、彼女が照らしてくれないと僕も前に進めない。
「お腹痛い? それとも怖くなった……?」
頭を振るアン。
なのに俯いたまま、一向に歩き出してくれない。
僕が困っていると、アンは静かにその口を開いた。
「……行かない方が良い」
「どうして?」
率直な疑問だった。
だけど僕の言葉にアンは口を閉ざしちゃって。
何も言おうとしない。
なぜ調理場へ行ってはいけないのか。話してはくれない。
「でも行かないと……夫人の手掛かりがあるかもしれないし……」
そう思う反面、アンの態度の変化も僕は見過ごせなかった。
前にテレーザが言っていたんだ、女の直感は信じなさいって。
そもそも、こんなにも怯えているのに無視も出来ない。
アンの顔はよく見ると真っ青になっていた。
「どうしようかな……」
・「このまま調理場に進もうか」―――2日目~3へと続きます。
・「わかった、調理場は後回しだ」―――2日目~4へと続きます。
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