エーデルヴァイス夫人は笑わない

緋島礼桜

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3日目~1

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 この日、僕はくしゃみをして目覚めた。
 射し込む光がいつもよりも明るいと思っていたら―――そうだった、僕は昨夜野宿をしたんだった。
 そしてテントの方をアンに貸してあげたんだった。

「おはよう、オットー…風邪引いてない?」

 丁度よくテントから顔を出したアンは心配そうに僕を見つめていた。
 僕は笑顔で元気を見せて答える。

「大丈夫、僕の家はすきま風だらけで野宿みたいなものだからさ。こんなのいつも通りだよ」

 そう言うとアンはクスクスと笑って「そうなのね」と返した。





 それから僕たちは簡素な朝食を終えて、早速この日の屋敷探索を開始することにした。
 今日は2階の探索…これまでよりも何か嫌な予感がしてならない。

「気をつけていこう。1階よりも不気味だから…」

 外は相変わらずの濃霧だというのに、屋敷の中は中で相変わらずの真っ暗闇だった。
 アンにランプで照らす役を今日も任せて、僕たち2人は2階に続くらせん階段を上り始める。
 一段一段上る度、階段はギシギシと嫌な音を立てていく。
 もしかすると床板が腐っていて、突然穴が開くんじゃないかという不安もある。
 
「床板が抜けたら危険だから手をつないでいこうか」

 そう言って差し出す手に、アンはうなずいてから強く握る。
 相変わらずあの湖のように冷たい手。
 そんな彼女の手を温めるように、僕はしっかりと握りながら階段を上りきった。






「2階も1階と同じ造りみたいだね。左右と奥にそれぞれ通路がある」

 ただそれだけじゃなく。
 奥に続く通路も正面から見て左右2つ存在していた。
 つまり通路は全部で4か所あるということだ。
 さて、一体どこから探索しようか…。

「まずは手前左右の通路が良いと思うの」

 僕が迷っているとアンはそう言って指の代わりに持っているランプで道を示す。
 特にアンの提案を否定する理由もない。
 僕は賛成だとうなずくと、まずは手前左の通路から探索を始めた。





 手前左側の通路は1階と同じくいくつもの扉がずらりと並んでいた。
 ただ、1階と違ったのは扉にはそれぞれ名前が書かれたプレートが張り付けられていた。

「カミラ…そっちはヒルダ…たぶん仕えていた人たちの部屋だったのかも」

 僕はそう言いながら1つの扉を開ける。
 室内も1階と全く同じ構造で、埃のかぶり具合も同じだった。
 クモの巣に気をつけながら僕は夫人の手掛かりがないか、くまなく探す。
 ベッドの下から、ベッドの中から、窓際に置かれたタンスの中も探した。






「……あっ、これ……!」



 そうして探索していく最中、ある部屋でとある書物を拾った。
 タンスから見つけたそれはたぶん、誰かの日記だった。






   ◆






『   ○月×日

 今日は快晴。夫人の機嫌はいつもの通りすこぶる悪い。

 だからいつもの通り気をつけて焼き菓子を用意しておく。

 とても甘くしないといけないから大変だ。』

 

『   △月□日

 今日は雨。夫人の機嫌は良いらしい。

 こういう日は焼き菓子を用意し忘れても怒らないし、置物をずらしても怒らないから安心。

 けれど、いつも通り夜の外出は絶対に禁止と口うるさく言う。もううんざり。』
 





   ◆






 これは良いものを拾ったと僕は心躍った。
 これでエーデルヴァイス夫人のことが解りそうだからだ。

「けれど、この日記の感じだと夫人はすごくわがままな人だったみたいだ…」

 もう1頁めくって日記の内容を確認する。
 よくよく読んでいくとこれは日記というよりも、夫人への愚痴ぐちを書き連ねたものという感じのものだった。






   ◆






『   □月〇日

 今日は晴れのち曇り。夫人の機嫌は悪い。

 もういい歳だからか、最近は可笑しなことばかりしている。

 カーテンは開けたくないとか、水は飲みたくないとか。年寄りってあんな感じなのかしら。』



『   ✖月△日

 今日は雨。夫人は今日も可笑しい。

 今日はいつも以上に変だった。いつものお菓子もいらないと言った。

 あんなに大事にしていたアクセサリーも宝石も全部窓から捨てた。もったいない。』
 


『   △月〇日

 今日は雨。けれど夫人は。





 突然息を引き取った。

 事故ではない。それに病気でもなかったはずなのに。

 息を引き取る直前、夫人はまた可笑しなことを言っていた。

 貴方たちは逃げなさい、と。どういうことだったのだろう?』

 



   ◆






 日記はその日を最後に途絶えていて、それ以降は何も書かれていなかった。

「夫人に一体何があったんだろう…」

 僕の疑問にアンも沈黙するだけで、何も答えられないようだった。
 






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