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3日目~2
しおりを挟む日記の内容をちゃんとメモに取った僕は、他にも何かないか探した。
けれど、その通路では他に手がかりになるような私物は見つからなかった。
念のため懐中時計を見ると、それほど時間は掛かっていないように感じていたのに、やっぱりもうお昼は過ぎていた。
時間の早さに本当、驚いてしまう。
「日が暮れないよう気をつけながら右側もさっさと調べちゃおうか」
僕の言葉にアンは小さくうなずく。
けどなぜだろう。
今日のアンは少し寂しそうで、哀しそうに見える。
「もしかして…疲れちゃった?」
そう尋ねるとアンは首を左右に振ってみせる。
黙ったままで、でも明らかに不機嫌そうな顔に僕は困ってしまう。
ただでさえ真っ暗な空間の中なんだ。
2人の空気までどんよりにはさせたくない。
「…そうだ。じゃあ何か元気になる話でもしようか」
「元気になる、話…?」
ようやく僕の顔を見てくれたアンに、僕は力強く頷く。
「気持ちが暗くなるときはさ、楽しいことを考えると元気になるでしょ? アンにとって楽しいことって何?」
「私は……」
そう言うとまた俯くアン。
けれどさっきとは違ってその横顔に哀しみのような不機嫌さはない。
真剣に考え込むアンを横目に、僕が先に答えた。
「僕はね、やっぱり画家だし絵を描いてるときが一番楽しいよ」
「そうなの?」
アンの目がキラキラと輝く。
期待を寄せてくれるその顔が、僕にはちょっぴり眩しすぎる。
「風景も人の顔も動物も。色んな絵を描いていると楽しいんだ。喜んでもらえると嬉しいし、それに僕が描いたことによってその光景や姿が後々にも残っていくと思うと楽しいよ」
アンにはちょっと難しい話だったかもしれない。
けれどアンは僕の話をしっかり聞いて、何度もうなずいてくれていた。
それから、ちょっとした沈黙をおいてから、アンは口を開いた。
「私はね…歌を歌っているときが楽しいかな…」
そう言ってからすぐに「誰にも言わないでね」と真っ赤な顔で年相応の顔をみせる。
「独りで寂しいときはこっそり歌うの。そうしたら寂しい気持ちも忘れられるから」
「じゃあ今も歌ってみる?」
「えっ?」
「さっきから寂しそうな顔してるから…あ、それとも僕の前じゃ歌うの嫌?」
アンは強く頭を振って「そんなことない」と、答えた。
けれどドンドンと顔色は真っ赤になっていって。耳まで紅くなる。
相当恥ずかしいんだろうなと、僕は思わず苦笑してしまった。
少しずつ、鼻歌でも良いよ。聞かせて。
僕の言葉にアンはしばらくの間をおいてから、小さな声で歌い始めた。
最初は照れ隠しの、ささやくような声で。
けれどだんだんとその声は大きくなっていく。
身体をゆらしてリズムをとっていて、つられるように僕も肩をゆらす。
歌自体は僕も知っている、昔からある歌だった。
◆
哀しいけれど 花は咲く
明日もきっと 花は咲く
大雨だって 花は咲いている
嵐だって 花は咲いている
明日散るとしても 花は哀しまない
咲くことが 花であることだから
◆
「その歌…良い歌だよね」
「うん。歌詞の意味はあまりよくわからないけど、好きな歌なの」
そう言ってほほえむアンに、僕はようやく安心する。
やっと明るい顔に戻ったアンと共に僕は改めて、手前右側の通路を探索し始めた。
「ねえ、これはどうかな?」
「似顔絵かな…でも夫人のじゃないかも」
同じく客室らしき部屋が連なる中で見つけたのは、落書きのような似顔絵が1つ。
後はぬいぐるみや人形、風景画や花瓶と言ったものだった。
「こっち側の部屋は色んなものが飾られているみたいだね」
「そうね」
他にも絵画が飾られているのは嬉しかったけれど、動物の絵ばかりで夫人の人物画は全くない。
夫人の人物像は大体想像できてきたけど、このままじゃあ夫人の外見が全くわからないままだ。
「けど夫人の絵がほとんど無いなんて…描かせたくなかったのかな…」
「きっと描かれるのが恥ずかしかったのよ」
独り言だった僕の言葉にアンがそう答える。
答えてくれたついでに僕は他にも思っていた不思議をアンに聞いてもらった。
「ちょっと思ったんだけど…夫人って子供いたのかな?」
「どうして?」
絵画や高価そうな置物、花瓶などがある一方で、なぜか屋敷内には子供が好きそうな人形やぬいぐるみも飾られている。
見つけた似顔絵もそうだ。まるで子供が描いたような絵だった。
「…どうなんだろうね、私にはわからないよ」
アンはそう言って答えるだけだった。
けどまあそうだよね。
夫人のことが何もわからないから、知りたいから、こうして僕たちは探索しているんだから。
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