エーデルヴァイス夫人は笑わない

緋島礼桜

文字の大きさ
14 / 25

3日目~3

しおりを挟む
   








 手前右側通路も調べ終えた僕たちは、これ以上は日が暮れてしまうと思い、今日は屋敷を出ることにした。
 全然何の手掛かりも見つけていないことに、少しばかりの焦りを感じながら。
 僕とアンは再度らせん階段から1階へ降りようとした。

「ちょっと待って」

 僕はそう言ってある壁の前で立ち止まった。
 それは1日目、最初に見つけたあの大きな絵画だった。
 エーデルヴァイス夫人の旦那様だと思われる人の肖像画。
 僕が抱いた違和感はその絵画自体にではなくて。

「よく見ると下の方が少し浮いてるみたいだ……」

 遠目で見ていたときには気づかなかったけれど、近づいてみてようやくわかった違和感。
 壁際まで寄ってよく見ると、絵画の裏に何かが挟まっていた。
 しっかりと糊で貼り付けられていたそれは、手紙の入った封筒だった。 

「何でこんなものが……?」

 アンも驚いた様子で手紙へとランプを寄せて照らす。

「もしかして夫人の手紙なのかな……」

 出来ることならこの中に夫人の似顔絵が入っていたら。
 と、そんな願いも込めつつ僕は手紙を開く。
 だけどその手紙は夫人のものではなくて。
 そして夫人へ宛てたものでもなかった。






   ◆






『初めに―――この手紙を見つけた貴方は、この屋敷に仕えることになった人でしょうか?

 もしそうでしたら、今すぐにこの屋敷から出て行くことをおすすめします。

 変に思うかもしれませんが、私はまじめで本気です。

 そしてこれから書くことも、全てが本当のこと…事実です。

 驚かず、笑わずに絶対読んでくださることを願います。





 私はエーデルヴァイス夫人の屋敷に仕えることになったただのメイドです。

 ですが、人一倍霊感が強く、この屋敷にきたときから嫌な気配を感じていました。

 そしてあるとき、私はこの眼でハッキリと見てしまったのです。

 それは10歳くらいの女の子の霊でした。

 その霊は夜になると屋敷中を走ったり飛んだりして騒いでいました。

 私はすぐにそれをエーデルヴァイス夫人に報告しました。

 すると驚いたことに夫人もその女の子の霊を知っていて、しかも会話までしていました。

 どうやら夫人も霊感が強いようで、そのせいで色々辛い経験もしていたそうです。

 そんな夫人の話によると、女の子の霊は決まりごとさえ守れば何ら害はないと、おっしゃっていました。

 その決まりごと、と言うのは。



 1.食堂には常に甘い甘いお菓子を置いておいて。

 2.ぬいぐるみや人形は友達だから絶対に勝手に動かさないで。

 3.夜はいっぱい遊びたいから邪魔しないで。

 4.名前で呼ばないで。___じゃなくて、___って呼んで。



 というものだそうです。

 まさに子供のわがままのような決まりごとです。

 なのに、夫人はきちんと守っているようでした。

 きっと女の子の霊の寂しさが、夫人にもわかってしまったのでしょう。




 ですが、それが間違いでした。

 この時点で夫人は既にその霊に憑りつかれていたのです。

 そのやつれてしまったお姿に、誰も気づけないでいたのですから。

 これがこの霊の恐ろしさなのだと知り、私はその霊について密かに調べることにしました。





 私は古い新聞を読み調べ、ようやく女の子の霊の正体を知りました。

 その子はこの屋敷の前に営んでいたホテルオーナーの娘。

 新聞の記事では湖の事故で亡くなったとのことです。

 両親は湖のせいだと、ひどく湖のことを責めていたそうです。

 

 私は何とか女の子の霊を除霊する方法がないかと探していました。

 ですが、そんな私に夫人はいとまを与えました。

 どうやら私は女の子の霊に嫌われてしまったらしく、彼女が怒り出す前に逃げなくてはならないと。

 そう夫人に言われました。




 夫人は女の子の霊の危険性を知った上で、自らを犠牲ぎせいにして霊を抑えていたのです。

 他の従者たちに危害が加えられないよう、嫌われ者になるくらい厳しく言いつけて。

 夜中はずっと女の子の霊の相手をしていたらしいのです。

 彼女に憑りつかれて逃げられない夫人には、もうこうする他に手段がなかったのでしょう。

 それに自分が犠牲ぎせいになってさえいれば、雇っている従者たちが路頭に迷うことはない、とも話していました。





 こんな話を聞いてしまっては、私にはもうどうすることも出来ませんでした。

 どうにかしようにも、調べもののために女の子の私物を持ち出した私は彼女に嫌われてしまったらしく。

 この身に何が起こるかわからないため、屋敷に戻ることさえ許されませんでした。

 もう、この屋敷を去ることしか出来ません。

 



 けれど、せめて最後に。

 霊におそわれる覚悟で、私はこの手紙を残すことにしました。

 こんな場所にしか隠せませんでしたが、どうかお許しください。

 ですが、いつか誰かがこの手紙に気づき、この事実を知ることを願って。





 そして最後に。

 自らを犠牲ぎせいにしてしまっているエーデルヴァイス夫人が自由になる日を願っています。』






   ◆







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

処理中です...