エーデルヴァイス夫人は笑わない

緋島礼桜

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4日目~1

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 目を覚まし、欠伸をしながら僕は両手を頭上高く伸ばす。
 ふととなりを見るとそこにはアンが眠っていて。
 その寝顔に僕は苦笑した。

「ん…オットー…?」
「あ、起こしちゃったかな。おはよう」
 
 するとアンもまた目を覚まし、まぶたを擦りながら起き上がった。
 アンも僕と同じく小さく欠伸をして、それからはにかみながら「おはよう」と答えた。



「今日で4日目か…」

 ヨハンネスさんが迎えに来てくれるまであと2日。
 もしそれまでにエーデルヴァイス夫人の絵が完成しなかったらどうなるのだろう。
 いや、それよりも、あと2日経ったらやっぱりアンとお別れになるのだろうか。
 僕はそんなことを考え、複雑な気持ちになる。
 
「どうしたの、もしかして怖い?」

 アンはそう言って僕の顔を覗き込む。
 僕がいつまで経っても屋敷の中に入ろうとしなかったからだろう。
 僕は頭を振って笑顔を向けた。

「そんなことないよ。探す場所もあと2つだけだなって思って」

 するとアンは頷き「そうだね」と、返してくれた。
 そうだ、探索する場所も残すはあと2か所。
 2階奥の左右の通路。
 未だ夫人の部屋と旦那様の部屋を見つけていないことから、そのどちらかに2人の部屋があると思われた。
 そして、夫人の部屋ならば絶対に夫人の肖像画も飾られているはず。
 僕はアンの手を引き、アンはランプの灯りを付けて。
 僕たちは屋敷の中へと入っていく。















                        クスクス






 これが運命を大きく変える日になるとも知らないで。




 
 右と左、まずどちらの通路から探索しようかと迷っていると、アンが「右が良い」と言ったから、僕たちは右の通路へと進む。
 その通路には奥に扉が1つだけあった。
 気をつけながら開けてみると、その部屋はどうやら夫人の部屋のようだった。
 これまで同様に室内はボロボロであったが、それでもまだきれいに残されている方だ。

「あ、これってもしかして…」

 そこで僕はようやく1枚の絵を見つけた。
 色あせているが金製の豪華な額縁に飾られた女性の肖像画。

「これが…エーデルヴァイス夫人……」

 そこに描かれていた女性は30代くらいだろうか。
 大人らしくも見え、若くも見える美しい顔立ちをしていて。
 それでいてどこか悲しそうな、すました顔をしていた。

「確かに笑ってない」

 こんなきれいな女性を、どうやって笑顔にして描けばいいのか。
 僕は思わずうなり声をあげてしまう。

「ほ、他には…夫人の絵ってないのかな」

 そう思って僕は本棚や衣装ダンスも開けて調べてみた。
 けれど、その辺りには手がかりになるようなものすらなくて。
 自然とため息がこぼれる。



 と、そのとき僕はアンが先ほどからずっと黙ったままでいたことに気づいた。

「どうしたの、アン。疲れちゃった…?」

 アンは静かに頭を振る。

「少しだけ…寂しいなって思っただけよ」
「寂しい?」
「うん。だってこの絵を描き終えたらオットーとお別れしちゃうから」

 本当に寂しそうな顔で俯いているアンに、僕はほほえみかける。

「そんなことないよ。町に行けばいつでも会えるし…っていうよりアンも町に住めばいいんだよ」

 迷い込んでこの屋敷にたどり着いたと話していたアン。
 それが本当かどうか、今はもう聞くつもりもないけれど。
 けどもし、アンが町に行きたいと望むならば、僕は出来るかぎり手伝ってあげたい。
 友だちが望むことを、僕は手助けしたい。
 そう話すとアンは嬉しそうに日向のように温かな笑顔を見せてくれた。

「本当? ありがとう…」

 するとそのときだ。
 僕の足下でカツンと何かが当たった。
 それはベッドの下にあった。
 覗き込んでみるとどうやらトランクケースのようだった。

「アン、ちょっと待ってて…何か入ってるみたいだ」

 引っ張り出したトランクケースは頑丈そうな革造りで。
 時が経った今でも平気で使えそうなくらい、立派なものだった。
 そんなトランクケースを僕は開けてみる。
 中から出てきたのは意外にも1冊のノートだった。



 僕は慎重にノートをめくっていく。
 書かれていた内容からそれは日記らしく、そして書いたのはおそらく夫人だと思われた。







 
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