エーデルヴァイス夫人は笑わない

緋島礼桜

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5日目~1

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 周囲が明るくなり始めて、朝がきたことに気づく。
 相変わらずの霧で何も見えない状態だけど、僕はその明るさに心の底からホッとした。

「僕は…どうしたら……」

 ヨハンネスさんが迎えにくるのは明日。
 だけどもう屋敷には入れそうもない。
 入ったら、アンナは今度こそ僕を捕まえてくる。
 捕まったら最後、どうなるか、想像もつかない。

「怖い……」

 独りだからかなおさらに怖い。
 そう思ってしばらくうずくまっていた。
 けれど、だんだんと可笑しくなって僕は思わず笑ってしまった。



「怖い、だって…これまでずっと幽霊の子と一緒にいたくせにさ」

 色々手伝ってくれたり、話しもしたり、歌も歌ったし、手もつないでいた。
 歳は離れていたかもしれないけれど、そんなこと関係ない。
 幽霊だったって事実も、怖いけれど、関係ない。
 たった2,3日の付き合いだったとしても、アンはまちがいなく僕の友だちだから。

「僕が…助けないと…アンを助けてあげないと……」

 じゃないとアンはまた、ずっと独りぼっちになってしまう。
 僕はそう思い、立ち上がった。
 覚悟を決めて歩き出した。
 もう、依頼なんて関係なかった。
 僕は、僕が助けたいと思ったから彼女を助けにいく。
 そうして僕は湖の方へと向かった。





 エーデルヴァイス夫人の日記によると、アンを助ける方法はこの湖にあると書かれていた。
 この湖の底で眠るアンを供養してあげれば、アンはきっともう独りぼっちで屋敷をさまようことはないという。
 けれど、残念だけど僕は神官や霊媒師れいばいしじゃないから祈ってもどうにもならないし。
 どうしたら供養できるかも、よくわからない。

「どうしよう…」

 静かにさざめく湖を見つめながら、僕は呆然と立っていた。
 そんなときだった。















オニイチャン……





 アンの声が聞こえた。
 と思ったら、その次には僕は湖の中に引き込まれていた。



(うぅ……いき、が…!)

 冷たい冷たい湖の、暗い底へ底へと僕は引きずり込まれていく。
 真っ暗な湖の底は、屋敷の真っ暗闇とよく似ていた。
 そんなところから、アンが呼んでいる気がした。





オニイチャン…





 どこからともなく聞こえてくるアンの声。
 アンが、彼女が呼んでいる。
 きっと、アンを助けるためにはこうするしかない。
 僕は彼女の―――アンの本当の名前を叫んだ。
 













     ・「アンナ!」―――5日目~2へと続きます。



     ・「アネット!」―――5日目~3へと続きます。







    
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