光がさしこむ、その日まで

隠れた瞳

　白のデニムは右膝のところが破けて真っ赤な血が大きく滲んでた。僕自身がナイフを突きつけられてるみたいな感覚。全身、どこも動かなかない。
　後ろから誰かに抱きかかえられて・・・、そこから記憶が途切れたまままなんだ、今でも。

　ニュースで知ったんだけど、事故を起こした運転手は突発性の心臓発作だったんだ。被害者の怒りや悲しみは、どこにも受け皿のないまま二週間経った。あの事故で死者が2人でてる。皮肉にも事故を起こした車の助手席には運転手の奥さんが乗ってたんだけど、かすり傷だけ。もし、君が事故に巻き込まれてなければ、ふーん、そうなんだ、で終わってるはず。でも、今回は気まぐれな神の不公平ではすまされない。すまないことを思い知らせてやりたい。
　君は、あの事故の唯一の重傷者になってしまったんだ。どうして・・・、どうして、君だけが植物状態にならなければいけなかったのか・・・。
　僕は、毎日、病院で君の手を握ってる。大きな瞳はまぶたの下に隠れたまま。ただ呼吸してるだけの君。
　これで生きてるって言える？　
　死ぬということは世の中から存在がなくなるってこと。だとすると、君は確かに生きてる・・・。
　気まぐれな神は、こんなひどいことまで仕掛けてくるのかと思うと怒りで全身が震えてくる。死者は戻ってこないし、遺族の悲しみは永遠に続く。そんな中で君の命だけちゅうぶらりん、しかも、気まぐれの神の手にゆだねられてるなんて、悔しくて息が苦しくなる。