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本編
泣き虫な彼
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メイクもせず、部屋着の上にパーカーを羽織るだけの格好でこっそり家を抜け出す。
伊織がお風呂に入ってて良かった。
見つかったらスムーズに家を出ることは難しかったと思う。
心配性というか過保護というか…伊織の‘お母さん’っぷりがすごい。彼女できたら束縛しそうなタイプだよね…。良いお父さんにはなりそうだけど。
家から5分程の場所にある公園は広大な芝生と大きな噴水があって、休日には親子連れやカップルで賑わう場所でもある。
夜も公園内でランニングや筋トレをしてる人がチラホラ居るみたいだけど、伊織に夜はダメって言われているからこの時間に来るのは初めてかもしれない。
ぼんやりと街灯が照らす公園の入口に人影が見える。アーチスタンドに腰掛け、俯いているため顔がよく見えない。
私はゆっくりと近づき声をかけた。
「蓮…?」
「み…美優っ!」
ぱっと顔を上げた蓮の目には涙が滲んでいた。制服のままの彼はコートも着ていない。
視線が合うや否やガバッと抱き締められ触れあった頬はとても冷たくて…。
「蓮…もしかしてずっとここに居たの?身体がすごく冷えてる…。どうして…」
最近春めいてきたものの、4月の夜はまだ冷える。学校で別れた後ずっと外に居たとしたら、かれこれ2時間になる。
「美優、ごめんね…。ごめんなさい。ねぇ、痛い所ない?もう、あんな事絶対しないから……」
泣きながら謝罪を口にする蓮に私の言葉は届いていないようで、ひたすら『ごめんなさい』を繰り返す姿に胸が苦しくなる。
「蓮、私はどこも怪我してないよ。大丈夫だから…。落ち着いて」
そっと背中に腕を回し、トントンと優しく撫でる。
そんな私達の姿を通行人が何事かと視線を向ける。
日が暮れた公園の前で高校生カップルが抱き合ってるだけで目立つのに、イケメンの彼が泣いているのは注目されるのも当たり前だ。
「蓮、ここじゃ目立つから…。ちょっと移動しよう?」
涙の止まらない蓮の手を引き、公園のベンチへと向かう。大人しくついてくる蓮はまるで子犬の様で、不謹慎にも可愛いなと思ってしまう。
通りから見えない公園奥のベンチに蓮を座らせると、グイッと手を引かれそのまま抱き締められた。
「美優…美優…」
蓮の上に座るような形で後ろから抱き締められて、何度も名前を呼ばれる。
あまりにも弱々しい蓮の姿に拒む気も起こらず、落ち着くまで私は腕の中に居る事にした。
「美優…本当にごめん」
「私こそ…ごめんね。あの後考えたの…もし蓮が他の女の子の私物を使ってたらって…。それは…嫌だなって思った」
「本当に?美優も嫉妬してくれるの?」
「嫉妬……なのかな……そうかも…?」
もし蓮が他の女の子の服を借りて着ていたら?もし元カノさんから貰った物を今でも大切に使っていたら?
……うん、やっぱり少しやだなって思う。
「嬉しい…美優が嫉妬してくれてる」
蓮は私の首元にグリグリと顔を寄せる。
泣き虫で、甘えん坊で、強引で、真っ直ぐな彼に…私はそっと頭を撫でてあげる。
伊織がお風呂に入ってて良かった。
見つかったらスムーズに家を出ることは難しかったと思う。
心配性というか過保護というか…伊織の‘お母さん’っぷりがすごい。彼女できたら束縛しそうなタイプだよね…。良いお父さんにはなりそうだけど。
家から5分程の場所にある公園は広大な芝生と大きな噴水があって、休日には親子連れやカップルで賑わう場所でもある。
夜も公園内でランニングや筋トレをしてる人がチラホラ居るみたいだけど、伊織に夜はダメって言われているからこの時間に来るのは初めてかもしれない。
ぼんやりと街灯が照らす公園の入口に人影が見える。アーチスタンドに腰掛け、俯いているため顔がよく見えない。
私はゆっくりと近づき声をかけた。
「蓮…?」
「み…美優っ!」
ぱっと顔を上げた蓮の目には涙が滲んでいた。制服のままの彼はコートも着ていない。
視線が合うや否やガバッと抱き締められ触れあった頬はとても冷たくて…。
「蓮…もしかしてずっとここに居たの?身体がすごく冷えてる…。どうして…」
最近春めいてきたものの、4月の夜はまだ冷える。学校で別れた後ずっと外に居たとしたら、かれこれ2時間になる。
「美優、ごめんね…。ごめんなさい。ねぇ、痛い所ない?もう、あんな事絶対しないから……」
泣きながら謝罪を口にする蓮に私の言葉は届いていないようで、ひたすら『ごめんなさい』を繰り返す姿に胸が苦しくなる。
「蓮、私はどこも怪我してないよ。大丈夫だから…。落ち着いて」
そっと背中に腕を回し、トントンと優しく撫でる。
そんな私達の姿を通行人が何事かと視線を向ける。
日が暮れた公園の前で高校生カップルが抱き合ってるだけで目立つのに、イケメンの彼が泣いているのは注目されるのも当たり前だ。
「蓮、ここじゃ目立つから…。ちょっと移動しよう?」
涙の止まらない蓮の手を引き、公園のベンチへと向かう。大人しくついてくる蓮はまるで子犬の様で、不謹慎にも可愛いなと思ってしまう。
通りから見えない公園奥のベンチに蓮を座らせると、グイッと手を引かれそのまま抱き締められた。
「美優…美優…」
蓮の上に座るような形で後ろから抱き締められて、何度も名前を呼ばれる。
あまりにも弱々しい蓮の姿に拒む気も起こらず、落ち着くまで私は腕の中に居る事にした。
「美優…本当にごめん」
「私こそ…ごめんね。あの後考えたの…もし蓮が他の女の子の私物を使ってたらって…。それは…嫌だなって思った」
「本当に?美優も嫉妬してくれるの?」
「嫉妬……なのかな……そうかも…?」
もし蓮が他の女の子の服を借りて着ていたら?もし元カノさんから貰った物を今でも大切に使っていたら?
……うん、やっぱり少しやだなって思う。
「嬉しい…美優が嫉妬してくれてる」
蓮は私の首元にグリグリと顔を寄せる。
泣き虫で、甘えん坊で、強引で、真っ直ぐな彼に…私はそっと頭を撫でてあげる。
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