観客席のモブは、恋をする予定じゃなかった

しろうさぎ

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花屋の日常

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私の両親は、町で唯一の花屋「フルール・ド・ルミエール(光の花)」を営んでいる。

白い漆喰の壁に、淡い翡翠色の木枠の窓。
木の看板には、少し色褪せた花の絵。母が描いたものだ。
派手さはないけれど、朝の光を受けると、不思議とあたたかく見える二階建てのお家。

一階は花屋と小さな生活の場。
木の棚に並ぶ花瓶。水を含んだ茎の緑。
季節ごとに変わる花々が、所狭しと並んでいる。

店の奥には、小さなリビングとキッチン。
テーブルは古いけれど、いつも磨かれていて、窓辺の小さな花瓶にはアイリスが摘んできたピンク色の小さな花が風に揺れている。

階段はきしむ音を立てる木製で、何度も踏みしめられてきた跡が残っている。

二階は寝室だけ。
大きな部屋ではないけれど、窓からは川が見えて、朝になると水面の光が白いカーテンに揺れる。

花の香りに満ちたこの家には、いつも三人の笑い声が溢れていた。

パパの名前はセドリック。
淡い金色の髪は短く整えられていて、爽やかで清潔感がある。
アイリスの髪色は父譲りだ。

花屋は意外と力仕事が多い。細身だが無駄のない筋肉は毎日の仕事の賜物だと思う。所謂、細マッチョ、はどの世界でも人気なんだろう。
澄んだ琥珀色の瞳に微笑みを向けられれば、町の至る所から「きゃぁ」と黄色い声が聞こえる程、評判の美丈夫だった。


ママの名前はロザリア。
薔薇に由来していてるその名に違わず、薔薇に負けぬ美貌の持ち主だった。
母の髪は淡い桃色を帯びた金色で、光を受けるたびに柔らかく揺れる。
瞳は薄紅色に近いローズブラウン。見つめられると、春先の花に包まれるような錯覚を覚え目が離せない、と言うのは町の大人達がよく噂をしている。
白く、ほのかな血色を宿した肌は触れずとも温もりを感じさせ、そこに立っているだけで、周囲の空気がやさしく和らぐ。
派手な装いをせずとも、人の視線を引き寄せてしまう。


店先で花に囲まれて立つ両親は、まるで花のようだった。
花が引き立てているのか、二人が花を引き立てているのか――
分からなくなるほどに、よく似合っている。

(……美男美女すぎる)

思わず、心の中でそう呟いてしまう。
二人が並ぶと、どう見ても平民には見えない。
通りを歩く人が、一瞬だけ足を止める理由も分かる。

(……もしかして)
胸の奥で、小さな疑問が芽を出す。

(パパとママが、この世界の“主役”だったりしない?)
まるで乙女ゲームのスチルのような二人。
王都から離れた小さな町に似合わないその美貌は、どこか浮いて見える。

(でも……)
どれだけ記憶を辿っても、当てはまるゲームは思い出せない。
ゲームのハッピーエンド後の世界だと仮定しても、キャラクターの顔はそんなに大きく変わらないだろう。それなら、ゲームオタクだった私が気付かない訳がない。

(やっぱり…転生とか、ゲームとか、関係ないのかな?)
朝食のパンを頬張りながら、ゆっくり首を傾げた。


そんな美男美女の二人の間に生まれた、
たった一人の娘が――私、アイリス。

「アイリスは、花よりも綺麗だ」

父は、そんな台詞を少しも照れずに言う。

(……やめてほしい)
思わず、頬が熱くなる。
花屋でそんなことを言われたら、聞いている人の方が気まずくなるのに。

でも母は、くすくすと笑うだけで、父を止めようとしない。
「だって、本当のことだもの」
そんなふうに、軽く肩をすくめて。

(……また始まった)

娘を溺愛する両親は、今日も今日とて、アイリスの話題になると止まらない。

「この子はね、朝の光が一番似合うんですよ」

「ええ、それにね、花の名前を覚えるのがとても早くって」

気づけば、花を買いに来ただけのお客様にまで、
ここが可愛い、あそこが素晴らしい、と
まるで自分のことのように誇らしげに語り出す。

(……お願いだから、花の話をして)
そう思いながら、私は奥でそっと花瓶の水を替える。

お客様はというと、困ったように笑いながらもどこか楽しそうで。

「まぁ、本当に大切に育てられているのね」
そんな言葉を残して、花束を抱えて帰っていく。

(……恥ずかしい)
けれど、店先に流れるその空気は花の香りみたいに柔らかくて、温かくて、私の大好きな場所。

それが、私たち家族の日常だった。
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