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第七幕 転生歌姫と王都大祭
第七幕 2 『開宴』
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煌めくシャンデリアの光に照らされ、父様にエスコートされて私はパーティー会場に入る。
開け放たれた大扉からの主役の登場に会場にはどよめきが起きる。
先ずはカーテシーでご挨拶っと。
うう…当たり前だけど、みんな私を見てる…
やはり歌姫のときとは別種の緊張感があるよ。
(大丈夫だ。堂々としていろ。だが笑顔は忘れずにな)
父様が私の様子を見かねてコソッと声をかけてくれる。
(そうよ。ふふ…そう言えば昔はユリウスもあなたと同じ感じだったわ)
(…まぁな。俺は元々社交界とはとんと縁がなかったからなぁ…)
へぇ…父様も…意外だな。
でも、そう言われると少しは気が楽になった…かな?
そうこうしているうちに、私達は会場の奥に設けられた壇上へと上がる。
少し高い位置から会場を見渡すと、美しく着飾った多くの人々がこちらに注目している。
ざっと見積もっても100名は下らないだろうか。
しかし、それ程の人数を収容しても十分なスペースが確保できるくらいに会場は広々としたものだ。
会場の片隅では楽士隊がゆったりと優雅な曲を奏でている。
正に絵に書いたような社交界の光景といった感じだ。
招待客の中にはチラホラと見知った顔もある。
レティシアやルシェーラなど普段から交流している人はもちろん、邪神教団対策会議などで国家の重鎮たちには何回か顔合わせしているので彼らの事も覚えていた。
その点、私の記憶力の良さが大いに役に立ってる。
だが、顔見知りはほんの一部で、殆どは初めて見る知らない顔ばかりだ。
そして、楽士隊の奏でる曲が一区切りついた頃合いを見計らって父様が開催を宣言するべく話を始める。
「皆、良く集まってくれた。また遠路遥々お越しいただいた来賓の方々にも感謝申し上げる。本日は我が娘であるカティアをこうして皆に披露できることを嬉しく思う。…さて、カティアは特殊な事情によってこれまで市井の中で過ごしてきた。故にまだ王族の娘としてはまだ勉強中の身であり、多々至らぬ点もあろうかとは思うが、どうか温かく見守って欲しい」
うんうん、そこ重要だね。
猛特訓はしたけど、所詮は付け焼き刃だからさ…
多少のことは目を瞑ってくださいな。
っと…そんな事を考えてたら、もう父様の挨拶が終わったね。
さて、次は私か…
緊張はピークだけど、舞台で挨拶するときを思い出して…
「皆様はじめまして、私はカティアと申します。本日は皆様ご多忙の折、お集まりくださいまして誠にありがとうございます。先ほど父が申した通り…これまで私は市井の臣として過ごしてまいりました。今こうしてこの場に立っていることが不思議で…まるで夢をみているかの心地であります」
微笑みを絶やさないように気をつけながら、ゆっくりと噛みしめるように…語りかけるように話し始める。
当然の事ながら、皆は私に注目して静かに耳を傾ける。
話しながら顔を巡らせると、ふと、レティと視線があった。
彼女はニッコリと微笑んで…私を励ましてくれるかのようで、少し緊張が和らいだ。
「…先日、私はこの国に暮らす人々に誓いを立てました。これからも私は民に寄り添い同じ視点で未来を思い描き、そしてその為にこそ王族としての責務を果たす…と。それこそが、私がこれまで生きてきた意味であると思っております。私はまだまだ若輩の身ではございますが、日々精進し、国を導くものの一人として研鑽を積み重ね…皆さんと共に国を支えていきたいと思います」
パチパチパチパチ…!
私の挨拶というか…所信表明が終わると、会場中に拍手が鳴り響いた。
どうだろう…上手く話せたかな?
「さあ、話はこれくらいにして…今日は祝いの席を存分に楽しんでいってくれ」
父様が私の後を再び引き継いで、開演を宣言する。
こうして私のお披露目パーティーが始まった。
「ユリウス陛下、王妃様、この度のカティア様の晴れの舞台、臣下としてお祝い申し上げます。カティア様、先程のご挨拶は本当にご立派でございました」
先ず最初に私達のところに来て挨拶するのはモーリス公爵家の皆様。
リュシアンさんの婚約者として来ているルシェーラも一緒だ。
先ほど控えの間で既に挨拶は交わしているが、まぁ、これは儀礼的な意味が大きいだろう。
王に挨拶する順番というのは特に明確な決まりがあるわけではないみたいだが、大抵の場合は身分の高い者から行う事が慣習となっている。
モーリス公爵家は王家の傍流の血筋であり、国内の貴族家としては王家に次ぐ家格を持つため一番最初に…と言う事だ。
今回は国外からも賓客…王族の方も招待されていたりするのだが、国に序列は付けられないという理由で特に順番は決まっておらず(決められず)、彼らの好きなタイミングで…と言う事らしい。
「ありがとうございます。ちょっと緊張しましたけど…レティ、ありがとね。あなたの笑顔を見たら少し緊張が和らいだよ」
「えへへ、そお?…でも、全然緊張してた風には見えなかったけど。それこそ舞台で堂々と歌う時みたいだったよ。ねぇ、ルシェーラちゃん?」
「そうですわ。舞台での挨拶の時も思いましたけど、まさに王族のオーラが出ておりましたわ」
「そ、そうかな…なら良かったけど、でも本当に緊張したんだよ」
「ふふふ…まぁ、これからも機会はあるだろうし、直に慣れると思うよ」
「レティシアの言う通りだな。こう言うのは場数がものを言う。俺もそうだったし誰だってそうだ」
「そうですとも。陛下も最初の頃はガチガチで見てるこっちがハラハラしたものです。それに比べればカティア様はしっかりされておりましたぞ」
「…モーリス公爵、娘の前でそれは言わんでくれ…」
「ははは、これは失礼しました。やはり娘の前ではいい格好したいものですな、お互いに」
父様とアンリ様は歳こそ離れているけど結構気楽な間柄みたい。
控えの間で待っている間のやり取りでも思ったけど、親友…と言うよりは兄弟分みたいな感じ。
アンリ様が兄さん的な。
「さて…他の者が待ってるでしょうし、そろそろ私達は下がりますか」
アンリ様の言うとおり、他にも私達に挨拶をしたい人はまだ沢山いるので、モーリス公爵家の皆さんはこれで一旦下がるみたい。
全員が挨拶に来るわけではないけど、それでも結構な人数がいるので彼らだけに時間を費やす訳にも行かない。
「じゃあカティア、またね。大変だと思うけど、頑張ってね~」
「…大変って?」
何となく含みを感じたので聞いてみると、レティの代わりにルシェーラが答える。
「カティアさんは表向きまだ婚約者がいない事になってますからね。例え意中の人がいるのだとしても、それはこの場にいる方たちには分かりませんし…多分、殿方のアピール攻勢が凄いことになるのではないでしょうか?」
「うげっ、それは面倒な…」
ルシェーラの説明に、思わず姫サマらしくないうめき声を上げてしまう。
「でも、それを言ったらレティも同じなんじゃないの?」
婚約者がいなくて、家格が高い年頃の娘さん。
おまけにもの凄い美少女だ。
彼女だって引く手数多なのは同じだろう。
…そう思ったのだが。
「ま、まあ、私は社交界は初めてじゃないし…」
はて?
彼女にしては歯切れが悪いような?
「レティは一度やらかしてますからね…ただでさえ変わり者との評判ですし…」
リュシアンさんがため息をつきながら教えてくれる。
一体何をやらかしたんだ?と思ってレティを見ると。
にっこり。
…聞いてくれるな、と。
でも、目は笑ってないよ。
ま、まぁ、そっとしておきますか…
開け放たれた大扉からの主役の登場に会場にはどよめきが起きる。
先ずはカーテシーでご挨拶っと。
うう…当たり前だけど、みんな私を見てる…
やはり歌姫のときとは別種の緊張感があるよ。
(大丈夫だ。堂々としていろ。だが笑顔は忘れずにな)
父様が私の様子を見かねてコソッと声をかけてくれる。
(そうよ。ふふ…そう言えば昔はユリウスもあなたと同じ感じだったわ)
(…まぁな。俺は元々社交界とはとんと縁がなかったからなぁ…)
へぇ…父様も…意外だな。
でも、そう言われると少しは気が楽になった…かな?
そうこうしているうちに、私達は会場の奥に設けられた壇上へと上がる。
少し高い位置から会場を見渡すと、美しく着飾った多くの人々がこちらに注目している。
ざっと見積もっても100名は下らないだろうか。
しかし、それ程の人数を収容しても十分なスペースが確保できるくらいに会場は広々としたものだ。
会場の片隅では楽士隊がゆったりと優雅な曲を奏でている。
正に絵に書いたような社交界の光景といった感じだ。
招待客の中にはチラホラと見知った顔もある。
レティシアやルシェーラなど普段から交流している人はもちろん、邪神教団対策会議などで国家の重鎮たちには何回か顔合わせしているので彼らの事も覚えていた。
その点、私の記憶力の良さが大いに役に立ってる。
だが、顔見知りはほんの一部で、殆どは初めて見る知らない顔ばかりだ。
そして、楽士隊の奏でる曲が一区切りついた頃合いを見計らって父様が開催を宣言するべく話を始める。
「皆、良く集まってくれた。また遠路遥々お越しいただいた来賓の方々にも感謝申し上げる。本日は我が娘であるカティアをこうして皆に披露できることを嬉しく思う。…さて、カティアは特殊な事情によってこれまで市井の中で過ごしてきた。故にまだ王族の娘としてはまだ勉強中の身であり、多々至らぬ点もあろうかとは思うが、どうか温かく見守って欲しい」
うんうん、そこ重要だね。
猛特訓はしたけど、所詮は付け焼き刃だからさ…
多少のことは目を瞑ってくださいな。
っと…そんな事を考えてたら、もう父様の挨拶が終わったね。
さて、次は私か…
緊張はピークだけど、舞台で挨拶するときを思い出して…
「皆様はじめまして、私はカティアと申します。本日は皆様ご多忙の折、お集まりくださいまして誠にありがとうございます。先ほど父が申した通り…これまで私は市井の臣として過ごしてまいりました。今こうしてこの場に立っていることが不思議で…まるで夢をみているかの心地であります」
微笑みを絶やさないように気をつけながら、ゆっくりと噛みしめるように…語りかけるように話し始める。
当然の事ながら、皆は私に注目して静かに耳を傾ける。
話しながら顔を巡らせると、ふと、レティと視線があった。
彼女はニッコリと微笑んで…私を励ましてくれるかのようで、少し緊張が和らいだ。
「…先日、私はこの国に暮らす人々に誓いを立てました。これからも私は民に寄り添い同じ視点で未来を思い描き、そしてその為にこそ王族としての責務を果たす…と。それこそが、私がこれまで生きてきた意味であると思っております。私はまだまだ若輩の身ではございますが、日々精進し、国を導くものの一人として研鑽を積み重ね…皆さんと共に国を支えていきたいと思います」
パチパチパチパチ…!
私の挨拶というか…所信表明が終わると、会場中に拍手が鳴り響いた。
どうだろう…上手く話せたかな?
「さあ、話はこれくらいにして…今日は祝いの席を存分に楽しんでいってくれ」
父様が私の後を再び引き継いで、開演を宣言する。
こうして私のお披露目パーティーが始まった。
「ユリウス陛下、王妃様、この度のカティア様の晴れの舞台、臣下としてお祝い申し上げます。カティア様、先程のご挨拶は本当にご立派でございました」
先ず最初に私達のところに来て挨拶するのはモーリス公爵家の皆様。
リュシアンさんの婚約者として来ているルシェーラも一緒だ。
先ほど控えの間で既に挨拶は交わしているが、まぁ、これは儀礼的な意味が大きいだろう。
王に挨拶する順番というのは特に明確な決まりがあるわけではないみたいだが、大抵の場合は身分の高い者から行う事が慣習となっている。
モーリス公爵家は王家の傍流の血筋であり、国内の貴族家としては王家に次ぐ家格を持つため一番最初に…と言う事だ。
今回は国外からも賓客…王族の方も招待されていたりするのだが、国に序列は付けられないという理由で特に順番は決まっておらず(決められず)、彼らの好きなタイミングで…と言う事らしい。
「ありがとうございます。ちょっと緊張しましたけど…レティ、ありがとね。あなたの笑顔を見たら少し緊張が和らいだよ」
「えへへ、そお?…でも、全然緊張してた風には見えなかったけど。それこそ舞台で堂々と歌う時みたいだったよ。ねぇ、ルシェーラちゃん?」
「そうですわ。舞台での挨拶の時も思いましたけど、まさに王族のオーラが出ておりましたわ」
「そ、そうかな…なら良かったけど、でも本当に緊張したんだよ」
「ふふふ…まぁ、これからも機会はあるだろうし、直に慣れると思うよ」
「レティシアの言う通りだな。こう言うのは場数がものを言う。俺もそうだったし誰だってそうだ」
「そうですとも。陛下も最初の頃はガチガチで見てるこっちがハラハラしたものです。それに比べればカティア様はしっかりされておりましたぞ」
「…モーリス公爵、娘の前でそれは言わんでくれ…」
「ははは、これは失礼しました。やはり娘の前ではいい格好したいものですな、お互いに」
父様とアンリ様は歳こそ離れているけど結構気楽な間柄みたい。
控えの間で待っている間のやり取りでも思ったけど、親友…と言うよりは兄弟分みたいな感じ。
アンリ様が兄さん的な。
「さて…他の者が待ってるでしょうし、そろそろ私達は下がりますか」
アンリ様の言うとおり、他にも私達に挨拶をしたい人はまだ沢山いるので、モーリス公爵家の皆さんはこれで一旦下がるみたい。
全員が挨拶に来るわけではないけど、それでも結構な人数がいるので彼らだけに時間を費やす訳にも行かない。
「じゃあカティア、またね。大変だと思うけど、頑張ってね~」
「…大変って?」
何となく含みを感じたので聞いてみると、レティの代わりにルシェーラが答える。
「カティアさんは表向きまだ婚約者がいない事になってますからね。例え意中の人がいるのだとしても、それはこの場にいる方たちには分かりませんし…多分、殿方のアピール攻勢が凄いことになるのではないでしょうか?」
「うげっ、それは面倒な…」
ルシェーラの説明に、思わず姫サマらしくないうめき声を上げてしまう。
「でも、それを言ったらレティも同じなんじゃないの?」
婚約者がいなくて、家格が高い年頃の娘さん。
おまけにもの凄い美少女だ。
彼女だって引く手数多なのは同じだろう。
…そう思ったのだが。
「ま、まあ、私は社交界は初めてじゃないし…」
はて?
彼女にしては歯切れが悪いような?
「レティは一度やらかしてますからね…ただでさえ変わり者との評判ですし…」
リュシアンさんがため息をつきながら教えてくれる。
一体何をやらかしたんだ?と思ってレティを見ると。
にっこり。
…聞いてくれるな、と。
でも、目は笑ってないよ。
ま、まぁ、そっとしておきますか…
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