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第八幕 転生歌姫と母娘の絆
第八幕 14 『覚醒』
しおりを挟む………ママ
……ママ
ああ…ミーティアが呼んでる…
私は……どうなったんだろう?
あの魔族の攻撃は……直撃は避けたはずだけど…
爆風で吹き飛ばされて…打ち所が悪かったのかな…?
……ママ
…ママ
そうだ、こんなところで寝てる場合じゃない。
早くミーティアを迎えに行かないと…
私が離脱したら…皆が危ない。
早く戻らないと…
だけど…どうすればヤツを倒せるのか?
恐るべき魔族の力。
みんな攻撃を防ぐので手一杯だった。
私とカイトの印も、父さんの[鬼神降臨]でも。
いや、印は……
そうだ、私はまだ印の本当の力を引き出せていない。
進化するためのきっかけは掴んでる。
ミーティアを探そうとしたときの感覚だ。
元々、リル姉さんの印の力で『異界の魂』を祓うことは出来たのだ。
魔族だって本質は同じはず。
より根源的な部分…魂に届くように、強く…鋭く…
武器に……ディザール様の印も…
…
……
………
ーーーー カイト ーーーー
「カティア!!」
ヤツの[爆縮怒号烈気]によって俺たちは吹き飛ばされた。
かつてオーガエンペラーが放ったものとは比べ物にならない威力だったが、皆何とか直撃は免れた。
だが、最もヤツに近い位置にいたカティアは、爆風で大きく吹き飛ばされて壁に激突…おそらく生きてはいると思うが、気を失ってしまったのかピクリとも動かない。
急いで駆けつけて介抱したいのだが…
今ここで俺が離脱したら、もはや前衛は瓦解して一気に蹂躙されてしまう…!
落ち着け!冷静になれ!
カティアは大丈夫だ、アネッサさんの治癒魔法があるんだ。
今は前線を維持して後衛にヤツを近付けないようにするのが先決だ!
だが…冷静に考えても状況は良くない。
カティアが離脱したことで前線を維持するのは困難を極める。
ダードさんの[鬼神降臨]も、もうすぐ効果が切れてしまうだろう…
(おい、カイト、ティダ…)
と、ダードさんが小声で話しかけてきた。
(俺はもうすぐスキルの効果が切れちまう。そうしたらもはや前線維持は無理だろう。だから、そうなる前に…全開全力でヤツを抑え込むから、お前らは後ろの連中と逃げろ)
(馬鹿な!死ぬ気か!?)
(ダードさん!)
そんな事させられない!
(どのみちこのままじゃ全滅だ。ヤツの…魔族の力は本物だ、尋常じゃねぇ…この人数じゃどうにもならん。俺やお前たちクラスのやつがもっといれば、もう少し何とかなるかも知れねぇが…)
『くくくっ…何だ?作戦会議か?いいぞ、存分に練るといい』
調子に乗って追撃もしてこない…か。
本来なら付け入る隙なんだが…
(ヤツが調子ぶっこいてるうちがチャンスだ!行くぞっ!)
「ま、待っ……!?」
ダードさんが最後の力を振り絞って、ヤツに特攻を仕掛けようとした正にその時…!
背後から凄まじいまでの力の奔流を感じた!
思わず振り返って見ると…
「カティア!?」
気を失っていたはずの彼女がいつの間にか起き上がって…身体から眩い光を放っていた。
そして…印が二つ!?
エメリール様とディザール様の印を同時に発動してるのか!
青い光と、金銀の光が複雑に絡み合って…彼女が手にしたナギナタに集まり光の刃を形成する。
…?
何か呟いてると思ったら…これは歌か?
エメリール様の印を発動させるためなんだろうが…小さいのでなんの歌かは分からない。
と言うか、まだ意識がはっきりしていないのか、どこか茫洋とした表情だ。
大丈夫なのか…?
そう思ったとき…
ドンッ!!
カティアは踏み込みの爆音を響かせて、猛然とラルヴァに向かって飛び出した!!
まずいっ!フォローしなければ!!
俺も彼女の後を追って飛び出す!
ダードさんとティダさんも、一瞬遅れで奴に向かうのが横目に見えた。
『何だぁ?そのまま寝てりゃあ苦しまずにすんだのによ…オラァッ!!』
ブォンッ!!
目前に迫ったカティアに対して大剣が振り下ろされるが、彼女は難なくそれを躱して…光の刃を纏ったナギナタをヤツの脇腹に叩き込んだ!!
ザンッ!!
『ぐぎゃあーーーっっ!!!??』
ヤツの強固な防御力をあっさりと切り裂いた!
相当なダメージだったのか、ヤツは苦悶の叫びを上げる。
まだだ!
体勢が大きく崩れた今が追撃のチャンス!
印の力によって限界まで引き出された俺の渾身の力を振り絞って聖剣を叩き込む!!
「でりゃぁーーーっっ!!」
ザズンッ!!
『ぐがぁーーーっっ!!!?』
鈍い音を立てて肩口から袈裟に切り裂いた!
よし!これなら…!!
『ぐぅっ!!おのれ…おのれぇーーっ!!』
しかし、ヤツはあれ程のダメージを負ったにも関わらず、再び闘気を高めて…またあの技か!?
「させるかっ!!」
「ふっ!!」
そうはさせじと、ダードさん、ティダさんが左右から挟み込むように斬撃を浴びせる。
これもまともにくらい、集まっていた闘気が霧散する。
『ぐっ!?に、人間ごときが…!!』
更に、ヤツの背後に回っていたカティアが、止めとばかりに背後から斬り上げた!!
『がぁっ!?』
大きく背中を斬り裂かれ、流石のヤツもついに膝を付く。
『な、何故だ…?如何にエメリールの印の力であろうとも…魔族である俺にここまでのダメージを与えることなど……それに、何故再生しねぇんだっ!!?』
確かに…ダードさん達が付けた傷は塞がりつつある。
それより治りは遅いようだが、俺が聖剣で付けた傷も少しづつ再生を始めている。
だが、カティアが斬り裂いた脇腹と背中の傷は再生していない。
それどころか…
『ああ!?な、なんだ!?傷口から崩れる!?』
そう、カティアが付けた傷跡は再生するどころか、ボロボロと崩壊を始めていた。
その様子は…かつてのオーガエンペラーが黒い灰になってしまった時と似ていた。
『ぐっ…ああっ!?ほ、崩壊が止まらねぇっ!!』
傷口はどんどん広がって、もう少しで身体を分断してしまうほどとなっていた。
…もう止めを刺す必要もなさそうだ。
これは、恐らくだがエメリール様の印の力によるものだろう。
最初の、スオージの森のオーガもどきの時は、拡散した光が異界の魂の闇を祓うように浄化していたが、リッフェル領での事件…マクガレンの時はそれだけでは効き目が薄かったように思える。
ディザール様の印と併用して、破壊力を集中させた…そのように見えた。
ラルヴァと名乗った魔族はいつの間にか声を出さなくなった。
ついに傷口が身体を分断して、どんどん黒い灰に変わって行く。
もう大丈夫だろう。
…そうだ!カティアは!?
先程の攻撃は凄まじかったが、様子がおかしかった。
吹き飛ばされて壁に激突したときに頭を打っていたようだったが…
「カティア!!大丈夫かっ!?」
俺は急に心配になって、ぼんやりと立ち尽くしている彼女に声をかけるのだった。
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