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第八幕 転生歌姫と母娘の絆

第八幕 18 『絆』

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 ミーティアのこころの核を探す…
 そうするにしても、あたり一面真っ暗だ。

 だけど…何となく分かる。


 私は歩き始める。
 迷うこともなく、何かに導かれるように。




 やがて、闇の向こうに仄かな光が見えて来た。

 近付いてみると、そこでミーティアが蹲って泣いていた。
 大人ではなく、私達が良く知る幼い姿だ。



「…ミーティア?どうしたの?何で泣いてるの…?」

 私が声をかけるとミーティアは、ビクンッと震え…か細い声で…

「…だめ…ママ……きちゃだめ……」

 思いがけない拒絶の言葉に、これ以上近づくのが憚れる。
 だからと言って、放っておくことなど出来ない。

 怖がらせないように、語りかけながらゆっくりと歩を進める。


「何で来ちゃだめなのかな?…ママの事が嫌いになった?」

 ここで『うん』とか言われたら、ママ立ち直れないよ…

 だが、ミーティアは膝に顔を埋めながらも首を横に振る。
 取り敢えずは一安心…


「じゃあ……どうして近付いちゃダメなのかな…?」

「…ママを…きずつけちゃったから……」

「私を?」

 う~ん…どういう事だろ?
 現実世界の大人ミーティアが『調律師』に操られて襲ってきたことを指してるのかと思ったけど…別に怪我はしてなかったし、それとは違うような気がする。
 

「…わたしがまだ、くろいオバケだったときに……」

 黒いオバケ……そうか。

 『調律師』の異能によって、自らの存在がどういうものだったのかを思い出させられたのだっけ。
 それで、私の魂を喰らった事まで…

 それで自分の事が許せなくなったの?

 ああ…何て…

「あなたは…本当に優しい子なんだね」

「ちがうっ!!わたしはママをたべちゃったの!!やさしくなんかないの!!」

「ううん、違わないよ…人を傷つけた事で、そうやって苦しんでるのは、ミーティアが優しい子だからだよ」

「……」


「それに、私を傷つけたって言うけど……そのおかげであなたがこの世界に『生まれ』たんだよ?私は、あなたが生まれてきてくれて、とても嬉しいよ」

「…」


「あなたは、私の『魂』を分けた大切な娘。ううん、私だけじゃない。パパも、おじいちゃんも…劇団やお城の人達だって、みんなあなたの事が大好きなんだよ?みんなが、あなたの帰りを待っている」



 そうして、暫くは沈黙が降りるが……
 やがてミーティアは恐る恐る口を開いて聞いてきた。

「…ママは……怒ってないの…?」

「馬鹿だね、怒るわけないじゃない。言ったでしょ、あなたが生まれてきてくれて良かった、って。リル姉さんから初めて事実を聞いたときだって、怒りなんて沸かなかったよ」

「ホントに…?ママのむすめでいてもいいの?」

 そこで初めて、ミーティアは少し顔を上げて、涙が溢れる目で私を見つめて確認する。

「もちろんだよ。何度でも言うよ。あなたは私の大切な娘だよ。誰にもその絆は断ち切ることなんて出来ないの」


「…う…ううっ…うわ~~んっ!!」 

 ミーティアは号泣しながら私に抱きついてくる。

 私はそれを受け止めて、優しく頭を撫でる。


「うわ~んっ!!ママっ!ママぁっ!!」

「よしよし…良い子ね……さあ、帰りましょう。皆が待っってるよ」

「ぐすっ……うんっ!!」


 そして、暗闇に閉ざされた世界に光が満ちあふれていった。

















「カティアっ!!ミーティアっ!!」

 カイトが呼ぶ声で私は目覚める。

「カイト……はっ!?ミーティアは!?」

 と、そこで私の腕の中で眠るミーティアに気がついた。
 私と同じくらいの大人の姿ではなく、本来の見慣れた子供の姿だ。

「元に…戻ったのか?」

「もう、大丈夫ですの?」

「…うん。もう、大丈夫だと思う。ふふ…まだまだ子供でいたいよね」

「そうか……良かった…」

「一時は~、どうなることかと~」

 皆も一様にホッとした顔だ。

 …ほらね。
 やっぱり、みんなあなたの事が好きなんだよ。



 あ!?
 そうだ!!

 まだ魔族が残ってたんじゃ!?


「あの『奇術師』ってヤツは!?」

「ああ…アイツなら…」

「彼には逃げられました」

 と、父さんが言いかけたところで、シェラさんがこちらにやって来て複雑そうな表情で教えてくれた。

「あっ!シェラさん!…大丈夫でしたか?」

「ええ、彼も言っていた通り、純粋な戦闘力では私に分がありますからね。一対一で遅れは取りません。ですが…逃げに徹されると、なかなか…出来ればここで倒しておきたかったですが」

「そうですか…でも、取り敢えずはこちらの被害がなくて何よりでした」

 ミーティアも無事に助ける事ができたしね。

「あっ!でも…シェラさんの目的は…」

「まあ、仕方ないですね。拠点の一つを潰せただけでも良しとします。あとは…その子を助けられたことも、ですね」

「…やっぱり、『黒神教』と敵対してる、って事ですか?」

 だとすれば、私達にとっては心強い味方って事になるのだけど。

「そうですね。黒神教は壊滅、あるいは弱体化させたいとは思っています。ですが…それは真の目的を達成するための手段に過ぎません」

「真の…目的?」

「…すみません、まだそれは言えません。ですが、少なくともあなた達と敵対するつもりはない、とだけ言っておきます」

「…詳しい話は聞かせてもらえませんか?」

「すみませんが、今はまだ……それに、今から追えば足取りが掴めるかもしれませんので、私はもう行きます」

 そう言って、シェラさんは踵を返して魔族たちが姿を消した地下神殿(?)の奥の方に向かう。

「カティアさん、何れまたお会いしましょう。では」

「あっ!シェラさん……ありがとうございました!」

 引きとどめて話を聞きたい気持ちもあったけど……

 今はただ、去り行く背中に感謝の言葉をかけるだけだった。

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