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第九幕 転生歌姫の学園生活

第九幕 26 『野外実習〜道中』

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「何やってるの?ロウエンさん」

 王都を出発して実習の出発地点に向かう道中。
 ちょうど近くを歩いていたロウエンさんを捕まえて話を聞くことにした。

「何って…冒険者の依頼ッスよ。フィールドワークはオイラの得意分野ッスよ」

「あ、私がお願いしたんですよ。実質Aランクで凄腕の斥候スカウトのロウエンさんがいらっしゃるなら、色々と安心ですからね」

 と言うのはリーゼ先生だ。
 ふむ……


 …はっ!?
 こう言うときは必ず…

(建前ですわね!)

(うわっ!?やっぱり出た!?)

(…人をお化けみたいに言わないでくださいまし)

(いや、相変わらずの嗅覚だね、ルシェーラ……班はどうしたの?あなたリーダーじゃなかったっけ?)

(まだ移動だけですから。それよりも、こんな面白そうなものは見逃せませんわ)


「どうしたんスか?」

「どうしたのですか、二人とも?」

「「何でもないです(わ)!」」






 そんな話もしながら、街道をひたすら北上する。
 すれ違う旅人たちが、若者の大群を見て一体何事かと、驚いていた。



「しかし…あの『星光の歌姫ディーヴァ・アストライア』が学生やってるなんてな…というか、王女サマだったってのにも随分驚いたもんだが」

 そんなふうに話しかけてきたのは、ベテランBランク冒険者のブライアンさん。
 何でも、ブレゼンタムの魔軍襲来事件の際にも戦闘に参加してたらしい。
 当然その時の私の活躍は知っているし、そうでなくてもブレゼンタムの冒険者として私の事は知っていたらしい。

「あはは…まぁ、色々ありまして」

「ねぇねぇブライアンさん。カティアってやっぱり冒険者の間では有名なの?」

 メリエルちゃんが人懐っこさを発揮して物怖じしないで質問する。
 可愛い女の子に話しかけられるのはまんざらでも無い様子で、ブライアンさんは相好を崩して答える。

「ああ、最近では知らないやつはいないんじゃないかな?少なくとも二つ名は皆聞いたことあるだろうな」

 そうですか。
 もう引き返せないところまで来てるんですね。

「『星光の歌姫ディーヴァ・アストライア』ってすっごくカッコいいよね!いいなぁ…わたしも何か二つ名が欲しいなぁ…」

 ああ、メリエルちゃんはそっち側の人ですか…いや、リアルに中二病を患うお年頃なのかも。


「しかし…アンタ以外にも強いやつが何人かいるよな。流石は『学園』の生徒ってことか」

「へぇ…分かります?」

「ああ。アンタと同じ班のデカいのとチャラいのもそこそこ強そうだったが…別の班にいた黒髪の娘…あとは武神杯に出てたエルフの娘もいたよな」

 ガエル君と…実はフリードへんたいも割と武術の実力者だったりする。
 あとはルシェーラとシフィルか。

 ステラもシギルを発動した時の戦闘力は相当なものなんだけど、普段は確かに強者の雰囲気は感じないんだよね。
 レティやメリエルちゃんは強力な魔法使いだけど、戦闘面は素人だ。


「ほう、よく見てるじゃないか、ブライアンよ。それが分かるくらいには実力がついたみたいだな」

「あ、スレインさん!どうもです。まぁ、経験だけはそれなりに積んでるんで」

 私達の話を聞きつけてスレイン先生が会話に入ってきた。
 どうやら二人は以前からの知り合いらしい。

「ふっ…その経験ってヤツが実戦では重要なんだがな。さっきお前が挙げたデカいのやチャラいのは、能力は高いが経験という点ではまだまだひよっ子だな」

「ははは、まぁ誰だって最初はそうですよ。これからが楽しみじゃないですか。それに、今はまだ才能の片鱗すら見えてないような奴が大化けする事だってありますし」

「そうだな。そう言うヤツを見つけて鍛えるのが、今の俺の楽しみだよ」

 なるほど。
 元Aランク冒険者が何で教師なんてやってるんだろう、って思ってたけど…人を育てることに面白さを見出したのか。
 私も武術の授業で同級生たちに教えたりして、上達するのが目に見えてわかるのは楽しいと思ったから、その気持ちはわかる気がするよ。

「せんせー!私は!?」

「メリエルは……」

 あ、目を逸した。












 そうして休憩をいれながらも街道をひた進み、途中巡礼街道に別れを告げて更に進んでいくと、前方にようやく山塊が見え始めてきた。

 今回目指すスレンジ山は、標高は数百メートル程度でそれほど高いわけではないのだが、平地から一気に登って行く事になるので割と急峻な地形だ。
 この辺も都会っ子には結構ハードな気がする。


 この山は土着の山岳信仰の聖地とされていて、古来より山頂に至る登山道が整備されてきたとのこと。
 まあ、整備された…と言っても、獣道よりはマシと言う程度みたいだけど。
 この世界でも登山はレジャーの一つとして認知されていて、今となってはそう言う人たちの方が信仰のために登る人よりも多いだろう。


 山地周辺は森林地帯となっており、今の時期なら秋の実りも豊富で食料調達もそれほど苦にはならないかな?


 山頂に至る登山道はいくつものルートがあり、各班ごとに出発地点が異なるので途中で分散していく。




 そうして、私達の班はようやく出発地点にたどり着く。
 王都を出るときには曇っていたが、今は透き通るような秋空が広がっていた。
 風も穏やかで、微かに爽やかな森の薫りが感じられ、これまで歩いてきた疲れを吹き飛ばしてくれるようだ。


「ふっふっふ…ここから俺っちのサバイバルスキルが火を吹いて、女子の視線を釘付けにするわけだ」

 サバイバルスキルが火を吹くってなんだよ。
 大体、そんなに見せ場があるとは思えないけど。

 だが、まぁ…そこまで言うのなら…

「じゃあ、先頭はキミに任せようか」

「よっしゃあ!お任せください!!」

 私がそう告げると、フリードは拳を天に突き上げて気合を入れながら応えた。

 ……あまり調子付かせない方が良かったかな?
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