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第十二幕 転生歌姫と謎のプリンセス

第十二幕 11 『武術対抗戦〜初戦決着』

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「てやあぁーーーーっっ!!!」

 ガィンッ!!


「ツェイッッ!!!」

 ギィンッ!!


「はぁーーっ!!」

 ドゴォッ!!


 ………………

 …………

 ……



 武舞台の上で二人の少女が躍動する。
 お互いが裂帛の気合とともに振るう強烈な一撃は、だが未だクリーンヒットすることがない。

 気が付けば観客たちはいつの間にか声を上げるのを止めて、固唾を呑んで二人の攻防を見守っていた。
 一瞬たりとも目が離せないので歓声を上げる暇がないのだ。


『いったいどれほどの間攻防が繰り返されたでしょうか!?二人の実力が拮抗し、まさに目が離せない一戦となっております!!』

 異様に静まり返る中、アナウンサーの声と激突する破壊音だけがやけに響き渡る。









「拮抗……ね」

「ええ。大体の人にはそう見えるでしょうね」

「……違うんですか?」

 私とシフィルの言葉を耳にしたユーグが不思議そうに聞いてきた。

 確かに、お互いに攻撃が当たらず攻めあぐねているように見えるかもしれないけど……


「ルシェーラはまだまだ余力を残してるけど……ほら、ドロテア先輩は肩で息をし始めてるわ。あれは相当体力を消費してるわね」

「では、ルシェーラさんは全力ではない、と?」

「うん。あの娘が本気で攻撃すれば、今頃はもう決着が付いてるはずだよ。……ん~、どういうつもりなのかな?手を抜いてるって訳じゃないと思うけど」

 あの娘の性格的にそんなマネはしないだろう。

 とすると……

「先の戦いを見据えて、手の内を見せないようにしている?」

「いや、そんな小細工をするような性格じゃないでしょう。あれは、何が試そうとしてるのかも。ほら、いつだったかのガエル君との手合わせの時もあんな感じだった気がするよ」

 あの時は『氣』による攻撃を初めて披露していた。
 今度もなにかやろうとしているように見える。

 ……果たして今度は何を見せてくれるのか?
 何だかワクワクしてきたよ。












ーーーー ルシェーラ対ドロテア ーーーー


(やはり……強い!!しかも、この娘まだ本気じゃない……。くっ、負けるにしても、せめて本気は引き出してやるわ!!)

  何度か刃を交える中で、ドロテアは既に自分が勝てないことを悟っていた。
 だが、彼女とて昨年の準優勝者としてのプライドがある。
 また、騎士を目指す身としても、このまま相手に本気を出させないまま敗北するのは耐え難い屈辱であった。


 そして、彼女にはまだ切り札があった。
 先の戦いを見据えて温存していたのだが……おそらくそれを出しても、ルシェーラには勝てない。
 それ程の力の差を感じる。
 だが、全てを出しきらないまま負けてしまっては自分自身納得できないだろう。



 そして、遂にドロテアはその切り札を切る!!


「はぁーーーっっ!![限界突破]!!」


 その瞬間、彼女の闘気が爆発的に膨れ上がった!!



ーーーーーーーー












『さあ!!ドロテア選手がここで切り札を切ったようです!!これで均衡が崩れて一気に決着となるのでしょうか!!?』



「おお……あんな切り札を持ってたなんて……」

「流石は先輩だね……凄い力を感じるよ」

 あのスキルは私の知識には無いものだけど、おそらく父さんの[鬼神降臨]みたいに能力を爆発的に増大させるものだと思う。
 ……流石に[鬼神降臨]ほど圧倒的なものではなく、その下位互換と言ったところだろうか。


「ドロテア先輩のあのスキルは有名ですよ。去年もあれを使って勝ち抜いて……最終的に準優勝にまで至ったとのことですから」

「あ、そうなんだ」

 ユーグがそんな情報を教えてくれた。
 よく調べてるね。
 じゃあ、ルシェーラもきっと知っていたんだろう。

 でも、ルシェーラはどうするのかな?
 多分これを待ってたんだよね。








 そして、ドロテア先輩の猛攻が始まる!



 ドンッ!!と、踏み込みの衝撃音をさせて瞬く間に間合いを詰めて両手剣クレイモアをルシェーラの頭の上から叩きつけるように振り下ろす!!

 これまで幾度となく振るわれた攻撃と同じたが、そのスピードとパワーはこれまでの比ではないだろう。


 ドゴォッッ!!!


 ルシェーラは冷静に軌道を見極めて、ギリギリ紙一重で攻撃を躱す。
 両手剣クレイモアが勢い余って武舞台を砕き、飛礫がルシェーラの身体にも当たるが、全く動じず意にも介さない。


 ブオンッッ!!

 すぐさま横薙ぎの斬撃がルシェーラの胴を薙ごうとする!!


 ガギインッ!!!


 今度は槍戦斧ハルバードの斧の部分でしっかりと受け止めてガードする!

 今のドロテア先輩は相当なパワーのはずだが、ルシェーラが受け止めた槍戦斧ハルバードは微動だにしない。





「ルシェーラがパワーファイターだというのは分かるんだけど……あれを受け止めるの?」

 シフィルが驚いた様子で呟きを漏らした。

「あれはダンジョン攻略の時も見せてたね……ほら、ルシェーラの身体をよく見て」

「……あ、何だか薄っすら光ってるような?」

 どうやらステラは気が付いたみたいだね。

 あれはダンジョンでの戦いでも見せていたけど、闘気を極限まで高めて身体能力を高めているんだ。
 先輩の[限界突破]や父さん達の[鬼神降臨]も同じようなものだと思うけど……
 スキルってある程度は先天的な部分があるのだが、ルシェーラのあれは地道な努力の末に体得しつつあるものだと思う。
 あの時よりも光が薄く見えるのは……おそらく無駄が省かれて最適化されてるんだろう。


 ……というか、ルシェーラの成長スピードがおかしいよ。


「ねぇ……あの娘もこっち側・・・・だよね?」

 と、シフィルが呆れたように同意を求めてくる。

「……だね」










 そして、結局ドロテア先輩はルシェーラの防御を崩すことができず、とうとうスキルの効果も切れて……


「はぁ……はぁ……ま、参りました……」


『そこまで!!勝者、ルシェーラ!!』


 ワァーーーーッッッ!!!


 ルシェーラは対抗戦最初の勝ち名乗りを上げるのであった。

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