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第十四幕 転生歌姫と繋がる運命の輪
第十四幕 44 『魔剣士』
しおりを挟む「……あなたは、私達の味方なんですか?」
占星術師フォルトゥナの最期を見届けた私達は、『魔剣士』と呼ばれた謎の人物と対峙する。
今はまだ警戒を解くことは出来ず、みんな戦闘態勢のままだ。
私も薙刀を構えながら、問い掛ける。
「待って、カティアさん。……彼の声、聞き覚えがあるわ」
「……え?」
シェラさんも……?
私とシェラさんが聞き覚えのある声……
一体誰なの?
すると、彼は目深に被っていたフードを取り払う。
現れたのは、魔族特有の白銀の髪と金の瞳に彩られた、精悍な顔つき……
何処かで……?
………
……
…
ああっ!?
彼はっ!!
もしかしてっ!?
「ロランっ!!?」
「おうよ。久しぶりだな、リシィ。逢いたかったぜ……」
私が気が付いたのと同時に、シェラさんが驚きの声を上げ、彼はそれを肯定した。
まさかの意外な人物の登場に、私とシェラさんは呆気にとられ、他の皆はわけが分からずに戸惑いの表情を見せる。
「生きて……たの……?」
「あぁ、見ての通りだ。……まぁ、人間辞めちまってるけどよ」
300年前のテオフィールパーティーの一人、戦士ロラン。
アグレアス侯爵家の先祖、ローランド=アグレアスその人だ。
一体何故、彼がここに……?
そして何故、魔族になっているのか?
「どういう事なの……?ロラン?」
「話せば長くなるが……その前に」
そう言って彼は、シェラさんの前まで歩み寄り……
そして、いきなり彼女を抱きしめた!!
「「「おおっ!!」」」
シェラさん以外の女性陣から声が上がる。
特にルシェーラの目の輝きと言ったら……
「なっ!?ちょ、ちょっと!?ロラン!!」
「リシィ……逢いたかった……もう、二度と……」
慌てふためくシェラさん。
ちょっと珍しいかも。
そして、ロランは感慨深げに呟きを漏らす……
目の端からは薄っすら涙が滲んでいるのが見えた。
そっか……彼は、シェラさんを……
夢で見たときは分からなかったけど、今の目の前の姿を見れば、その感情が何なのかは直ぐに分かる。
そして、それを察したシェラさんは……
「もう……仕方がないわね……」
ロランの背中に優しく腕を回す。
そうして暫く二人はお互いを抱きしめ合うのだった。
「良いものを見させて頂きましたわ」
満足そうにルシェーラが言う。
全くもって彼女の大好物なシーンだったね。
「恥ずかしい……」
「ははは!!恥ずかしい姿を見せちまったな」
顔を赤らめて恥ずかしがるシェラさん。
一方のロランさんは、その言葉ほどでは無い様子。
随分と豪胆な人のようだ。
「シェラの知り合いと言う事は……もしかして、あなたは300年前に魔王と戦った……?」
テオが疑問を口にする。
私は夢で見てたから分かったけど、皆はこの状況は訳がわからないよね。
「ええ、その通りよ。彼はロラン……ローランド=アグレアスと言って、私達のパーティーの戦士だったの」
「アグレアス……?」
「アグレアス侯爵家のご先祖様だよ」
「まぁ、俺には子はいなかったから……今のアグレアス家は俺の兄の末裔って事になると思うがな」
そのあたりの話は、みんな初耳だったようで驚きの表情だ。
「それで……ロランさんはシェラさんの恋人さんなの?」
初対面の人にも物怖じしないメリエルちゃんが聞く。
ルシェーラが『ナイスですわ!』という風に、満足そうに頷いてる。
「そうだ」
「ち、違うわよ!」
肯定するロランさん、否定するシェラさん。
「シェラお姉ちゃん、お顔が真っ赤だよ~」
まぁ、何となく態度で分かるよ。
ハッキリとそういう関係になっていなくても、お互いに想い合っているのは。
シェラさんも満更ではなさそうだし。
……その様子を見たルシェーラが、「良いですわ~、良いですわ~、初々しいですわ~」と、少々うるさい。
「そ、それよりも……ロラン!どういう事なの?説明して!」
「そうだな……まぁ、道すがら説明する。『黒き神の神殿』に向かうんだろ?」
「そう言えば、ここは何処なんです?占星術師に転移を妨害されて……何処に向かえば良いのか」
今いるのは、赤茶けた不毛な大地。
見渡す限りの荒野……
以前に聖域のリュートに聞いた光景を彷彿とさせるが、向かうべき道を指し示すようなものは何も無いように思える。
「心配しなくても、それほど離れていない。俺が案内しよう」
そう言ってロランさんは歩き始めようとするが……
「あ、ちょっと待って下さい」
「?」
引き留める私の声に不思議そうな顔をする。
「せめて……彼女を弔おうと」
そして、私は歌い始める。
運命に翻弄されたという、哀れな彼女。
肉体は滅び去り、その痕跡は既に無いけど。
せめて……その魂が輪廻に帰り、いつの日か……
そんな想いを込めて、鎮魂歌を捧げる。
すると、彼女が消え去った辺りから、微かな光が天に昇っていく。
「テオフィール様……」
昇っていく光を眺めながら、ロランさんが小さく呟くのが聞こえた。
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