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レティシア15歳 輝く未来へ

第98話 異世界の車窓から

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 レティシアとカティア達一行を乗せた列車はイスパルナを出発して快調に走る。
 線路は黄金街道から少し離れたところに敷設されていて、ときおり道行く馬車や旅人が遠くに見えた。
 列車が力強く走り去るのを見て、彼らはさぞかし驚いたことだろう。




「ちゃらっちゃっちゃっちゃ♪ちゃ~らら~……♪」

 レティシアが口ずさむのは、前世の某旅番組の曲……列車の旅にはピッタリのもの。
 かなりスピードは出ているが、思ったより揺れが少ないので、ゆったりと優雅な曲調は乗客たちの気分とも合っているかもしれない。
 ……やや調子ハズレなのはご愛嬌だ。



「凄いものだな……鉄道というのは。あっという間に景色が変わっていく」

「本当ですわ。これは旅や物流の概念が変わると思います」

 カイトやルシェーラが何度目かの感嘆の呟きを漏らす。
 彼らだけではなく、列車が走り出してからというもの、車内のあちこちから似たような光景が見られた。

 ミーティアに至っては、夢中なって窓にかじり付き、「すご~い!」とか「はや~い!!」と何度も繰り返し叫んでいる。

 乗客の反応を見てレティシアも上機嫌となり、調子外れな鼻歌がますます冴えわたる。

 だが、発車してからそれほど経たないうちに、彼女は鼻歌を止めて言う。


「さあ!ちょっと遅くなったけど、お昼ごはんにしよう!列車旅の醍醐味の一つ『駅弁』だよ!早く食べないと、あっという間にトゥージスに着いちゃうからね」

「「「駅弁?」」」

「そう。カティアのアイディアでね。列車の中で車窓を眺めながら食事が楽しめれば……って事で、試作品をウチの料理長に作ってもらったんだ。はい、どうぞ」

「アイディア……というか、会話の中でポロッと言っただけ……」

「まあまあ、細かいことは置いといて。じゃじゃ~ん!」


 レティシアが同席するカティア達に手渡したのは……
 木箱の中に色々なおかずが少しずつ入った……彼女やカティアが前世で見たことがあるような、いわゆる幕の内弁当だった。


「あら?これは、東方風の料理ですのね」

「見た目も華やかで美味しそうだな」

「おいしそ~」

 ごはんと聞いてミーティアも車窓から離れる。
 なかなかの食いしん坊さんのようだ。


 そして彼女たちは早速『駅弁』を堪能することに。
 流れる車窓を眺めながら美味しい食事を楽しむ……何とも贅沢なことだろう。


「いずれは急行とか特急なんかの優等列車も走らせる予定だから、食堂車なんかも考えてるんだけど。駅弁もなかなかオツなもんでしょ」

「そうだねぇ……。私は(前世で乗ったことがないから)食堂車も楽しみかも。……それじゃあ、いただきま~す。(もぐもぐ……)美味しい!さすが公爵家のシェフだね」

「ほんとうですわ。冷めても美味しいんですのね」

「そう。大量に作って駅で販売するコンセプトだからね。……うん、美味し~(けど、お箸が欲しいなぁ……)」



 車窓を楽しみながら舌鼓をうち、やがて食べ終わったころ……車内アナウンスからリディーの声が聞こえてきた。

『……皆さま、当列車は間もなく終点のトゥージスに到着いたします』

 イスパルナを出発してから一時間と経っていないが、もう終点に到着となるらしい。

「……もう到着するのか。聞いてはいたが理解が追いつかないな」

「朝イスパルナを出たら夕方に到着するのが普通ですからね……」

「最終的な所要時間はもっと早くなる予定だよ。今はまだ徐行区間も多いから時間かかったけど」

「「……」」

 カイトとルシェーラはレティシアの言葉に絶句する。
 まだまだ理解が及んでいなかったようだ。


 そして列車は終点のトゥージスの街に到着した。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「じゃあねレティ。あなたに会えてよかったよ。これからもよろしくね」

「うん。私こそカティアに会えて嬉しかった。またね」

 二人はハグしながら、別れを惜しむ。


「兄さんも元気で。ルシェーラちゃんもまたね。兄さんのことよろしく」

「レティも元気で。王都で待ってるよ」

「また学園でお会いしましょう」

 レティとリュシアン、ルシェーラも別れの挨拶をしてそれぞれハグする。


 そして、他の旅芸人一座の面々とも別れの挨拶を交わし……一行はトゥージスの街に向かって歩き始める。
 レティシアは彼らの姿が見えなくなるまで、駅のホームから手を振って見送った。








 カティアと運命的な出会いを果たしたレティシア。

 もう二度と触れることもない……そう思っていた前世との繋がり。
 普段は心の奥底にしまい込み、時どき郷愁とともに思い出す自分だけの大切な思い出。
 家族も、仲間たちも、この世界で誰も知るはずがないその想い……

 本当の意味でそれを理解できる人がいると言うことは、こんなにも嬉しいことなんだ……と、レティシアは実感した。


 だから、手を振って彼女たちを見送っているとき……レティシアの心には無性に寂しさがこみ上げた。
 リュシアンが学園に入学するために王都に行ってしまったときも、ずいぶん寂しい思いをしたものだが……その時と同じくらいの気持ちだったのである。


 だけど、すぐにまた会えるはず。
 彼女はこれから王都で暮らすことになるのだから。
 自分も学園に入学するために王都に行く。
 鉄道開発事業の拠点を王都にも置き、イスパルナ側での様々な引き継ぎを終えれば……

 レティシアはそう思い、今は笑顔で彼女たちと別れるのだった。


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