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レティシア15歳 輝く未来へ
第120話 異形
しおりを挟む襲撃者たちはカティアとテオフィルスによって返り討ちにされ、全員が騎士に取り押さえられた。
会場は未だ混乱の中にあるが、それも少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
しかし。
「?……こいつ、何か言ってますね」
「おい!何を言ってるんだ!!」
二人がかりで取り押さえた襲撃者の一人が、何やらぶつぶつと呟いている様子。
「……黒き神に仇なす者に、報いを。死をもって償うべし……」
その声にはなんの感情も籠もっていないように感じられたが、それがより不気味さを醸し出していた。
(……何だかイヤな雰囲気がする)
レティシアも、不穏な空気を察知して身震いする。
「お、おい!こいつ様子がおかしいぞ!?」
「な、なんだ!?」
騎士たちから動揺する声が上がった。
そして、襲撃者の男は取り押さえられながらも、全身をガタガタと大きく震わせる。
「まずいっ!!そいつから離れてっ!!!」
「「!!??」」
カティアの警告で騎士たちが退避するのと、襲撃者からブワッと黒い靄のようなものが吹き出したのは、ほとんど同時だった。
「うう……うぐぐぁ…………!!」
自由になったはずの男は……しかし逃走するわけでもなく、苦しそうにうめき声を発する。
そして、ボコッ!ボコッ!と、身体のあちこちが不気味に蠢いて盛り上がり始めたではないか。
そのあまりにも異様な光景に、誰もが呆気にとらる。
しかし、いち早く我に返ったカティアが再び大声を張り上げた。
「お客様を会場の外に誘導して!!早くっ!!!」
そう叫びながら彼女は、ドレスの裾をたくし上げて縛り上げながら、『歌』を歌い始めた。
美しくも厳かな歌声が会場に響き渡る。
さらに彼女の身体から金銀の眩い光が放たれはじめた。
天神地祇に我が歌を捧げ希い奉る
地に禍つことあり
我が歌は地に響き十重に二十重に織り重ならん
禍事は尽きざる定めなれど
此度は尽く祓い給え清め給え
神ながら守り給え幸え給えと申し奉る
天清浄
地清浄
内外清浄
六根清浄と祓給う……
カティアが歌う間にも、騎士たちは来客たちの避難誘導を始めている。
「カティアが『印』を発動するまで時間稼ぎをしろ!!相手は邪神の眷属だ!!迂闊に手を出すな!!守りに徹しろ!!あと、誰か俺に剣をよこせ!!」
そう指示を飛ばすのは国王ユリウスである。
剣をよこせ……というあたり、自ら戦う気満々だ。
(どうする……?魔法戦力も必要なら、私も準備をしなくちゃ……!)
安全圏から魔法を放つくらいなら自分でもできるし、結界で来賓客を護ることも可能……そう考えたレティシアは、即座に魔法が使えるように魔力を高め始めた。
その間、黒い靄を纏った襲撃者の男の身体は、ボコッ!ボコッ!と音を立てて少しずつ肥大化していた。
「はあーーっ!!」
その様子に危機感を覚えた騎士の一人が、果敢に剣を振るうが……
まるでゴムのように柔軟に受け止めて、全くダメージを与えていない様に見える。
「くっ!?ダメだ!効いてない!!」
「まだだ!!迂闊に手を出すんじゃない!!」
「カティア様の印が発動すれば動きを封じて攻撃も通るようになりますわ!それまで護りに徹するのです!!」
テオフィルスが再度注意を促し、ルシェーラも指示を出しながら戦列に加わった。
テオフィルスは聖剣を、ルシェーラも薄っすらと光を纏うハルバードを構える。
さらに、ブレーゼン侯爵やユリウスも騎士から剣を受け取って戦列に加わった。
……本来は護られる立場の者が率先して前線に躍り出るのは、流石は武神のお国柄ということか。
『うごぉるぅああああーーーっっっ!!!』
そしてついに……
襲撃者の男は横も縦も元のサイズの何倍にも及ぶ見上げるほどの巨体となる。
辛うじて人型を保っているものの、肥大化によってとうに服は破れ去り、ただの黒い肉塊とでも言うべき異形へと変貌を遂げたのだ。
それから、異形の肉塊はいくつもの触手が伸ばして騎士たちに攻撃を始める。
槍のように、鞭のように、剣のように……鈍重そうな本体とは裏腹にその触手の攻撃はかなり鋭い。
だが、騎士たちも流石の精鋭揃いだ。
意表を突かれながらも直撃を受けた者はいない。
しかし……
「ぐっ!?」
少し攻撃が掠めた何人かが膝をついた。
「か、掠るだけでもヤバいぞ!!避けるならギリギリじゃなくキッチリ避けろ!!」
膝をつきながらも声を振り絞って、無事だった他の騎士たちに警告する。
どうやらただの攻撃ではなく、生命力そのものを奪うようだ。
「攻撃をくらったものは無理しないで下がれ!!とにかく防御に徹して時間稼ぎしろ!!」
(防御なら……!)
ユリウスの指示を聞いたレティシアは、高めていた魔力を開放して魔法を行使する。
「[守護聖壁]!!」
彼女が展開した魔法の結界が、招待客に向かっていた触手の攻撃の尽くを防いだ。
そしてそのタイミングでカティアの『印』が発動する。
すると、彼女が纏っていた金銀の光が奔流となって黒い肉塊に殺到し、結界となって異形を封じ込めようとする。
そして、異形の放つ靄のような闇と、星の煌めきの如き聖なる光が拮抗する。
(このまま……!!倒しちゃって、カティア!!)
レティシアはその様子を祈るような気持ちでその光景を眺めるのだった。
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