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レティシア15歳 輝く未来へ
第153話 魔族
しおりを挟む「レティ!!」
「あ、フィリ……ジャック先生!」
ルシェーラたちと別れたレティシアが、他のクラスメイトたちとともに流れに乗って避難しているとき、ジャック(フィリップ)が声をかけてきた。
彼は教師として学生たちを誘導していたのだ。
「大変な事になったね……」
「はい……でも、きっとカティアや兄さんたちが何とかしてくれるはずです」
「そうだね。英雄王に英雄姫、それに『雷閃』のリュシアンがいれば、大丈夫だ。出来れば僕も加勢したいところだけど、僕程度の実力だとかえって足手まといになりかねないから……。だけど、君や他の生徒たちは必ず護ってみせるよ」
フィリップは印の継承者ではあるものの、その力はそれほど戦闘には向いていない。
それでも、彼は自分の役割を見出して全うしようとする。
ひとまずは無事に学生たちを安全な場所まで誘導する。
それから、場合によっては魔物との戦いのサポートも……
そうしてレティシアたちが演習場から離れると、騎士団の精鋭たちに誘導された3体の巨大な魔物が学園に姿を見せた。
それは、一言で言えば『昆虫巨人』。
甲虫のような装甲で身を固めた巨人だ。
全身が漆黒で、禍々しい黒いオーラを纏っている。
「何あれ……あんなのと戦ってたの……?」
遠目に巨人を見たレティシアが呆然と呟く。
かつて戦った『異形』の方が、よほど生理的嫌悪感を抱くような見た目だった。
しかし、あの黒い巨人を見た彼女は、体の奥底から根源的な恐怖と嫌悪がこみ上げてくる。
およそこの世のものではない、決して相いれぬものだ……と、
「僕も黒神教の事は聞いてたけど……とんでもない魔物を創り上げたものだね……」
「創り上げた……あれは創り出されたものなんですか?」
「あんなものが自然界に存在するはずはないからね。そういうことなんだろう」
「……」
あんなモノが人の手によって生み出されたという事に、レティシアは戦慄して押し黙る。
(……いや。そもそも『黒神教』の幹部は『魔族』だ。人間じゃない)
カティアたちがこれまで戦ってきた『敵』……これまで話に聞いていただけだった魔族と呼ばれる存在の脅威が、いま目前に現れたのだ。
そして巨人たちが演習場にやってくると、激しい戦いが始まる。
カティアの『絶唱』の歌声によって力を引き上げられた勇士たちが果敢に巨人に挑む。
遠く離れたレティシアたちにも、その熾烈さが伝わってくる。
巨人の振るう拳が大地を割る轟音が。
巨人の硬い装甲を打ち砕かんとする剣戟の音が。
それらが衝撃波となって届くのだ。
いつ終わるともしれない戦い。
レティシアは両手を組んで祈るような気持ちで見守る。
「みんな……どうか無事に……」
その彼女の祈りが届いたのか、戦士たちが少しずつ巨人を押し始める。
やがて、巨人の1体が倒れ土煙が舞うのが見えた。
少し遅れて地響きが伝わってくる。
そして、1体倒したことによって勢いを得たのか、戦士たちは果敢に攻め続け……
ついに2体目、3体目も地に倒れ伏した。
その光景を見た学園生たちから、大きな歓声が上がる。
「……ふぅ。何とか倒せたようだね」
レティシアの隣に立っていたフィリップが、安堵の声を漏らす。
「よかった……みんなは無事かな……」
レティシアも戦闘が終わったことにはホッとするが、兄や友人たちが無事かどうか……その身を案じる。
だが……
「!!……どうやら、まだみたいだったね」
何かに気がついたフィリップが、再び厳しい表情になって言う。
「え……あ!?あれはっ!!?」
フィリップの視線の先を追うと、そこには空中に浮かんだ何者かの姿が。
遠目にも目立つ長い白銀の髪が風にたなびくその姿は、どうやら女性らしい。
「あの人は……?」
「あれは、多分……『魔族』だ」
「あれが……?」
確かに、ミーティアが誘拐された時に始めてカティアたちが戦った魔族も、レーヴェラントの戦いで現れた魔族も、白銀の髪に金の瞳だった……と、レティシアは聞いていた。
きっとそれが魔族の特徴なのだろう。
そして、その魔族らしき女性は、漆黒のオーラを放ち始める。
そこから伝わってくる圧迫感は、巨人たちの比ではなかった。
「先生!!あれ……なんかマズい気がする!!」
遠目でハッキリとは分からないものの、これまで巨人たちと戦っていた戦士たちが、次々と膝をついていくのが見えた。
「不味い!!攻撃魔法が使えるものは援護しろ!!遠慮せずに全力で放て!!」
危機的状況にあると見たフィリップが、大声で叫んだ。
すると、学園生たちは即座に反応し、自分の使える最も強力な魔法の詠唱を初める。
「[虚空滅却]!!!」
レティシアも自身最強の魔法を最大威力で魔族に向かって放った。
数十、数百もの攻撃魔法が、魔族に殺到する。
これほどの攻撃、普通であればひとたまりもないはずだが……
しかし、魔法が直撃する前に攻撃に気づいた魔族は、結界で身体全体を覆って全て防いでしまった。
「うそっ!?全部防がれた!?」
「お前ら、どけっ!!」
レティシアが愕然とする間もなく、武術教師のスレインが何か巨大な装置を押して学生たちを掻き分けながら前に進み出てきた。
「コイツで叩き落としてくれる!!」
「弩砲か!!」
フィリップはその装置の正体に気づいた。
もともと巨人に対抗するため準備させていたらしいのだが……
「先生、待ってください!!」
「問答してる暇は無い!!」
「いえ、相手が魔族なら……神聖属性を付与します!」
そう言ってフィリップは目を閉じて集中し始める。
すると、彼の額あたりに複雑な光の文様が現れた。
「そいつは……印!!?」
(あれがフィリップさんの……技巧神オーディマ様の印!?)
カティアやテオフィール、ステラのそれと同じような神聖な輝きに、レティシアは思わず魅入ってしまう。
「僕の印の力の一つは、あらゆる魔法属性を武器や魔道具に付与するもの。魔族には神聖武器が有効と聞いてますから……」
そう言いながら彼が弩砲に手を触れると、純白の輝きが宿る。
「さあ!スレイン先生!『武芸百般』の腕前、見せてください!」
「任せろ!!」
スレインは弩砲の狙いを魔族に定める。
通常であれば、それは小さな的を狙うような代物ではない。
しかし、元冒険者スレインの二つ名、『武芸百般』はありとあらゆる武器に精通していることからつけられたもの。
「くらえっ!!」
その掛け声とともに、絶大な威力をもった光り輝く巨大な杭が撃ち出された。
それは視認することも困難な程の猛烈なスピードで魔族に迫る。
そして……
それは轟音を立てて魔族に直撃するのだった。
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