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レティシア15歳 輝く未来へ

第154話 波乱の終結

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「やった!!直撃したっ!!」

 弩砲バリスタの一撃が爆煙と轟音を立てて魔族に直撃した。
 そう思ったレティシアは快哉を叫ぶ。

 他の学生たちも歓喜の声を上げているが……


「……いや。まだだ」

 射手のスレインは苦々しそうに呟きながら被りを振った。


 その言葉通り、爆煙が晴れたあと……そこには未だ健在の魔族が姿を現した。
 彼女は一見して大きなダメージを負ったようには見えなかった。


「うそ……今のでノーダメージなの……」

「ギリギリで直撃は防がれたな。しかし、どうする…………いや、何か様子が……?」

 渾身の一撃を防がれたスレインは、次の一手をどうするか……と焦る気持ちを押し殺しつつ考えようとしたが、魔族の様子が先程までと違うことに気がついた。

 よくよく見れば、魔族は先程まで禍々しいオーラを纏っていたはずだが……今はそれがすっかり消え失せていた。

 そして彼女は眼下に視線を向けて、なにやら一言二言発してから……忽然と姿を消してしまった。


「転移魔法……?」

「逃げた……のか?」

 暫くは警戒したまま様子を見ていたレティシアたちであったが、魔族が再び姿を見せることはなかった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 魔族が撤退したことにより、王都騒乱は終結となった。

 レティシアが事後にカティアから聞いた話によると……

 3体の巨人によって街の建物はいくつも倒壊し、多くの負傷者が出たが……幸い、市民にも騎士団にも死者はいなかったとのことだった。

 そして最後に現れた魔族の女性。
 彼女は黒神教の大幹部の一人だったらしい。
 彼女の特殊能力によってカティアたちは力を奪われて絶体絶命のピンチに陥っていたのだが、スレインやレティシアたち学園生の援護があったおかげで何とか切り抜けられた……と、感謝された。


 結局、その日の対抗戦はそれどころではなくなってしまい、全ての競技は中断してしまったのだが……





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 王都騒乱の二日後のことである。


「流石はウチの学園よね。あんな大事件があっても直ぐに再開するんだから」

 呆れ半分、感心半分といった感じでシフィルが言う。

「当然ですわ!せっかく総合優勝が目前なのに、中止になってはたまりません!」

 ルシェーラは気合十分といった様子だ。


 ……そう。
 あんな大騒動があったにも関わらず……クラス対抗戦は中止とはならずに本日から再開するのだった。

 生徒に犠牲者が出ていれば流石に事情も違ったはずだが、特にそれもない。
 戦いに赴いたカティアやルシェーラ、シフィル、ステラも無事。
 また、学園の建物に大きな被害がなかったのも早期再開の理由だろう。



「ルシェーラちゃん、今日は決勝リーグだもんね。頑張ってね」

「ええ、必ずや優勝してみせますわ!レティシアさんも魔法対抗戦がんばって下さいまし」

「うん。せっかく勝ち上がってるんだから最後まで頑張るよ」

 楽しそうに会話するレティシアたち。
 大きな戦いの後とは思えない、普段と変わらない日常の風景がそこにはあった。

 それを、カティアが眩しそうに見つめている。


「……カティア?どうしたの?」

 レティシアがそれに気付くと、彼女に問いかけた。

「ううん……なんでもない。ただ、何気ないこんな日常を私は守りたい……ってね。今回は巻き込んじゃって、ごめんね」

「そんな!巻き込んだなんて……私、今までカティアたちが戦ってきたことは聞いてたけど、あんな…………自分たちがこれまでずっと守られてきこと、ちゃんと分かってなかった」

「それで良いんだよ。前にも言ったでしょ。夢に向かって頑張る人たちを守るのが私の成すべきこと。そのために私は頑張る。レティは平和な世界で夢を形にするのが成すべきこと。そうでしょ?」

「カティア……」

 それは確かに以前も彼女に言われたことだ。
 しかし、彼女の敵の強大さ……その一端に初めて触れたレティシアは、本当にそれで良いのか?と思ってしまう。
 自分にも何かやるべきことがあるのではないか……と。
 あるいは、それはただカティアの事を純粋に心配する気持ちの現れか。

 だが、カティアはさらに続ける。

「あの魔族……『調律師』は、これまでずっと裏で暗躍するだけだった。その彼女がこうして表立って動いたのは……多分、大きな戦いが近づいてる。その時きっと全ての決着が付く。そんな予感がするんだ。それで全部片付いてスッキリしたらさ、あとはもう希望しかないよね。そしたら今度はレティの番だよ。鉄道の開業は、未来の希望そのものなんだから」

「その通りですわ。安心してくださいまし、レティシアさん。カティアさんとは、私も、シフィルさんも、ステラさんも共に戦いますわ」

「その通りよ。今回だって私達の活躍は中々のものだったのよ」

「私も微力ながら力を尽くすわ。これでもパティエット様の力を受け継ぐ者ですから」


「カティア……みんな……ありがとう。うん、私も頑張るよ!」

 友人たちの頼もしい言葉に、レティシアは満面の笑みで答えるのだった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 再開後のクラス対抗戦は二日感にわたって行われた。

 武術対抗戦では、ルシェーラが予選トーナメントの勢いのまま決勝リーグも全勝し、見事優勝を手にする。


 そしてレティシアの魔法対抗戦。
 初戦と同じように、彼女の圧倒的な開幕飽和攻撃に抗える者はなく、全試合とも最後まで一歩も動くことがないまま予選トーナメントを突破した。
 来年は出禁になるのでは……と囁く声もあったとか。

 決勝リーグでは、お互いに全勝同士で迎えたメリエルとの優勝決定戦となった。
 これまで全ての試合を一撃で決めてきたレティシアであったが、彼女に匹敵する実力を持つメリエルには同じ手は通用しなかった。
 レティシアの初撃を対抗魔法と結界で完璧に防いだメリエルは、即座に反撃を開始。
 そこから息をもつかせぬ高度な魔法戦が繰り広げられる。

 威力と手数で力押しするレティシアと、的確な防御と正確な狙いの反撃主体で戦うメリエル。
 およそ1年生同士とは思えないハイレベルな戦いに会場は大いに盛り上がりを見せた。

 しかし決着はあっさりしたものだった。
 メリエルの反撃を躱そうとしたレティシアが足を取られて転倒、そこに追撃が決まり試合終了となる。

 戦闘は得意ではないとレティシアは言っていたが、その立ち回りはまさにその通りだった……ということだ。
 一方のメリエルは、ルシェーラやステラと一緒にダンジョンに潜って実戦経験も積んでいたので、それが功を奏した形だ。

 ということで、魔法対抗戦はメリエルが優勝。
 レティシアが2位と言う結果に終った。



 こうして、波乱に満ちたクラス対抗戦は全ての競技を終えた。
 1年1組は優勝を目指して1位の3年1組を猛追していたが……惜しくも僅かに届かず、総合2位という結果に終わった。

 本気で優勝を目指していた彼らは当然悔しがっていたが……全力を尽くした結果だったので、最後は晴れやかな表情だった。


(残念ながら優勝は逃したけど……凄く楽しかったよ。いろいろあったけど、来年もまた一緒に頑張ろうね!)

 そんなふうに、レティシアは心の中でクラスメイトたちにメッセージを送った。

 これもまた、彼女の青春の思い出となるのだろう。

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