【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

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剣聖と聖女の帰還

剣聖と聖女の出会い

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 幼き日のエドナは、日々の暮らし……いや、ただ『生きる』ためだけに、悪事に手を染めていた。
 彼女は不良少年たちのスリ集団に加わっていたのだ。


「もちろん最初は罪悪感があったわ。でも、これも生きていくためって言い訳してね……それすらも段々と麻痺していった。裕福そうな人を狙って……どうせ私が盗むお金なんて端金はしたかねなのだから、私が貰ったって良いでしょ……なんて正当化して。ホント、馬鹿な子供だったわ」

 ……実の子供たちにも話したことがない、自身の人生の汚点。
 誰にも知られたくなかったそれを、まだ出会ったばかりの姪に話すのはなぜなのか?

 それは、レジーナに亡き姉の面影を重ね、気を許しているからなのか……あるいは彼女に対して懺悔しているようにすら見えた。


 その話を初めて聞くレジーナは……実の母と叔母の壮絶な過去に絶句する。
 母が神殿で暮らしていたことは知っていたが、それ以前の話は聞いたことがなかったから。

 しかし、エドナが後ろ暗いことをしていたと聞いても嫌悪感は抱いていない様子だ。
 エドナはそれに少しほっとしてから、話を続ける。


「姉さんはそんな事してないから安心してね。私と違って……ちゃんとコツコツ真面目に働いていたわ」

 彼女はそう言うが、姉リアーナも幼い身であるが故に大した仕事ができるはずもない。
 例えそれが不当なものであっても、エドナの稼ぎがなければ食いつなぐことなどできなかったのだ。


「それに、身体も丈夫じゃなかったから、荒事なんか無理だった。私は小さい時から、大人に負けないくらい力が強くて頑丈だったんだけどね」

 実は……エステルの異常とも言える身体能力は、母エドナに由来する。
 彼女も幼い頃から大人顔負けの力の強さを見せていた。
 恵まれた肉体と、剣聖の技……その双方を引き継いで生まれてきたのが、エステルなのである。
 もちろん今の彼女の実力は、弛まぬ努力の積み重ねがあってこそなのは言うまでもない。


「そういう事もあって、運良く……というのは違うかもしれないけど、危険な目にあってもずっと切り抜けてこれたの。……この人に会うまでは」

 彼女はそこでチラッとジスタルを見る。
 彼は目をつぶって、腕を組んでじっと話を聞いていたが、そこで初めて口を開いた。


「その時俺は、友人と街を歩いてんだがな。ちょっと裏路地に入ったところで、子供がそいつにぶつかってきたんだ」

 ちなみに『友人』というのは、現ニーデル辺境伯領領主のデニスのことである。
 彼らは王都士官学校で出会い、身分の差を超えて友人となっていたのだ。

 そして、その子供……エドナがデニスの財布を盗んだ瞬間を、ジスタルは見逃さなかった。
 素早く離れようとするエドナを一瞬で拘束したのだ。


「驚いたわ。盗んだことがバレたことは何度かあったんだけど……それまで誰も私を捕らえることなんて出来なかったから」

「俺も驚いたさ。捕まえてみて初めて、その子供が女の子だと分かった事もそうだが……ものすごい力で手を振りほどいて、逆に殴りかかってきたんだからな」

「あれは……パニックになってたから……」

 気まずそうに目をそらしながら、エドナは釈明する。

 彼女は盗みは働いていたが、その力で積極的に誰かを傷つけたことは無かった。
 もちろんスラムでは荒事に巻き込まれることなど日常の一部ではあったが、正当防衛の域を出たことはない。


「まあとにかく。初めてこいつと出会ったわけだが……」


 そして剣聖は、聖女との出会いの時を回想する。







 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






「なにすんのよっ!!」

 少女はそう叫びながら、自分の腕を掴んでいた青年の手を無理やり振りほどく。
 そして、その勢いのまま小さな手で青年に殴りかかった。


「おっと!」

 思いもよらない攻撃に驚いたものの、青年は余裕を持ってそれを躱した。


「ジスタル!!大丈夫……だな」

「ああ、問題ない。しかし……」

 友人の声に応えながら、青年……ジスタルは、まじまじと少女を見やる。
 突然殴りかかられた時と同じくらい、彼は驚いていた。
 
 彼女の発した声、先ほどまで掴んでいた腕の細さ、そしてその姿を見た彼は……

「お前……女か」

 と少女に声をかけた。
 どうやら彼女の事を、少年と勘違いしていたらしい。

 確かに、彼女の黄金の髪は無造作に短く切られ、ぱっと見では男の子に見えるかもしれない。
 しかし、その可愛らしい声や、華奢な体つき、なにより顔の造作を見れば、彼女が女の子であることは一目瞭然だ。


「だから何?……そっちのお兄さんにぶつかったのは悪かったけど、いきなり腕を掴んできてどういうつもりよ?」

「どういうつもり……は、こっちのセリフだ。ほれ、デニス。これ、お前のだろ?」

「え……あっ!?俺のサイフ!?」

 ジスタルが友人であるデニスに示したのは、革製の財布だった。
 デニスはどうやら全く気づいていなかったらしい。

 そして、そのやり取りを見た少女も驚きの声を上げる。

「え……うそ……なんで……」

 先ほどデニスにぶつかった時、確かに彼の懐から財布を抜き取って、それを自分の懐にしまったはず……
 それがなぜジスタルの手にあるのか、全く分からない彼女は呆然と呟く。



「その嬢ちゃんが盗んだのか……?」

「ああ。さっき手を振りほどかれた時に返してもらった」

 何でもないふうに彼は言うが、ほんの一瞬で二人に気づかれずに財布を取り戻すなど、神業というほかない。

 少し呆然としていた少女は、盗んだはずの財布を取り返された事実をようやく飲み込み、そして真っ赤になって叫ぶ。


「あんた!!私の服の中に手を入れたの!?このヘンタイっ!!」

「うむ、事案だな。いたいけな少女に手を出すとは……騎士の風上にもおけねぇ」

 少女の訴えにデニスが真顔で同調する。
 財布をすられたことは、余り気にしてないらしい。


「いやいやいや……何言ってんだ、お前の財布を取り戻してやったんだろが。まったく、いっちょ前に……俺はガキに興味はない」

「なっ!?私はこれでも十三よ!!……って、騎士!?」

 ジスタルの言い草に少女は怒りをあらわにするが、デニスの言葉の中に看過できない言葉が含まれていたことに気がついた。
 彼女のように盗みを働く者にとって、それらを取り締まる騎士は大敵である。

 厄介なことになった……と、少女は内心で焦りを見せる。


「まだ騎士じゃない。騎士候補だ」

「俺達は士官学校の生徒だぜ。もうすぐ卒業だがな」

 彼らはそう言うが、何れにしろ関わってはいけない人種達には違いない。
 そう判断した彼女は、素早く踵を返して逃げの一手を打つ。
 そして……

「ば~かば~かおたんこなす~!!覚えてろよ~!!」

 ……そんな捨て台詞を残すのだった。











「……追わないのか?」

「いや……すぐにまた会えるだろ。俺達がここに来たのは……」

 デニスの問いに、ジスタルはそう答えた。


 彼の手には、痩せ細った少女の腕の感触が残っている。
 盗みをしなければ生きていけないほどに、スラムの生活は過酷なものであることが容易に想像できた。


 それなのに。

 彼女は生命力に溢れていた。
 自分を真っ直ぐ見るその青い瞳には、力強い輝きが宿っていた。






 その瞬間から、剣聖は聖女に惹かれていたのかもしれない。

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