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剣聖の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ
いつまでも笑顔で
しおりを挟む後宮の庭園は常にない賑わいを見せていた。
明らかに後宮の住人よりも多い人々が詰めかけている。
それどころか、本来は王以外の男は入れないはずなのに、騎士の正装を纏った男たちが何人もいるではないか。
並べられたテーブルには、厨房から様々な料理が運ばれ綺麗に並べられる。
何人もの給仕が飲み物とグラスを持って来客たちに勧めて回っていた。
それはまさに、立食パーティーと言った様相だ。
そんな後宮の庭園に、クレイやギデオンの姿もあった。
「食べてるか?ギデオン」
「あ、ああ……」
クレイの問いに対して、歯切れ悪そうに答えるギデオン。
今この状況に戸惑っている様子だ。
「ん?どした?」
「いや何と言うか……場違いな気がしてよ」
訝しむクレイに、そんな心情を吐露する。
男子禁制の後宮に足を踏み入れた男の心境としては、ごく当然の反応と言えるだろう。
特にギデオンは、その巨体の割には色々と気を遣う質なのでなおさらだ。
だがクレイはさして気にした風もなく言う。
「陛下が許可してるってんだから別に気にする必要ないだろ。ほれ、せっかくの美味い料理なんだ、楽しまなきゃ損だぞ」
「……お前は肝が据わってるよな」
「お前が気にし過ぎなんだ」
しかしそんなクレイも、次の瞬間には度肝を抜かれる事となる。
それは給仕の女性が声をかけてきたときのこと。
「飲み物はいかがですか~?」
「あ、じゃあお願いし……って!?」
「マリアベル様っ!?」
給仕役の使用人かと思って振り返れば、なんと王妹のマリアベルだったのだ。
流石のクレイもこれには驚愕を隠しきれなかった。
「王妹殿下が自らそんな事を……よろしいのですか?」
王族ともあろう者が使用人の仕事をするなど良いのだろうか……と、クレイは遠慮がちに聞く。
それに対してマリアベルはあっさりと答えた。
「いいのいいの。今日はあなたたちが主役……勇敢に竜と戦った勇者たちを讃えるための戦勝パーティーなんだから。私たちの感謝の気持よ」
「は、はぁ……」
「ということで……じゃんじゃん飲んで楽しんでいってね~」
そう言って彼女はクレイとギデオンにグラスを渡してから立ち去っていった。
「…………マリアベル様って、何かエステルに似てるな」
幼馴染を彷彿とさせるノリや雰囲気を感じたのだ。
エステルほど突き抜けてはいないし、そもそも彼女に似てるなど失礼だったか……などと失礼な事を思ったが。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
マリアベルがクレイに語った通り、今日の後宮は裏組織壊滅作戦と竜との戦いに勝利したことを祝うパーティー会場として開放されていた。
それは前代未聞のこと。
招待された功労者……主に前線で戦った騎士たちは最初こそ戸惑ったものだが、それも直ぐに慣れ、滅多に食べられない高級食材を惜しげもなく使った美味しい料理に舌鼓を打ちながら大いに楽しんでいた。
そんな中、王妹マリアベルが自ら給仕がてら騎士たちに労いの言葉をかけて回ると、彼らは恐縮しながらも嬉しそうにしている。
そして、この後宮の主であるアルドと住人の女性たちと言えば…………
「は~い、みんな~!!お待たせしました~!!」
元気な声を響かせ、エステルが大きな寸胴を両手に持ちながら厨房からやって来た。
美味しそうな匂いを漂わせるその中身は……
「じゃ~ん!!ドラゴン肉をたっぷり使った、ドラゴンシチューだよ!!」
「「「おぉ~~!!」」」
噂に聞く高級食材と聞き、注目が集まり歓声が上がった。
一時は生命を落とす覚悟すらしていた彼らだが、思わぬご褒美に誰もが目を輝かせた。
「たくさん作りましたから、いっぱい食べてくださいね」
「シチューだけじゃなくて、ローストドラゴンもあるわよ!」
エステル以外に、レジーナやミレイユ、他の後宮の女性たちが次々と料理を運び込んで来ると、身体が資本の騎士たちは色めき立つ。
さらに……
「さあ、遠慮するな。今日は無礼講だ。大いに楽しもうじゃないか」
エステルたちと一緒に現れたアルドが音頭を取り、祝宴の場はいっそうの盛り上がりを見せるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「う~、美味しい……美味しいよぉ~」
もう何度目かのお代わりしたシチューを平らげ、エステルは涙すら浮かべ感激した様子。
その気持ちいいほどの食べっぷりに、アルドは笑顔を向ける。
そして周りを見渡し、他の者たちの様子を見ながら言った。
「みんな満足そうだ。君の提案は大成功だったな」
「はい!皆で頑張ったんだから、皆で楽しまないと!」
彼女としては、もちろん何らかの打算や思惑があって提案したわけではない。
純粋に、そうしたら楽しそうだと思ってのことだ。
アルドは、ふと気になったことを尋ねた。
「どうだ?後宮の暮らしには慣れたか?楽しいか?」
「はい!お友達もたくさんできたし、毎日楽しいです!訓練場で鍛錬もできますし」
「そうか……なら、良かった」
エステルが日々楽しく暮らしてくれるのなら……一先ず先送りした、想いを告げる日もやってくるだろうか。
そのためにも、共にここで過ごしながら楽しい思い出を積み重ねていかねば……アルドはそう思った。
そして、彼女は言う。
「取り敢えず、ここでのんびりと暮らしながら来年の試験に向けて頑張りますから……これからもよろしくお願いします!」
「ああ、こちらこそ……よろしく頼む」
来年と言わず、その先もずっと……いつまでもエステルが笑顔でいられるように。
太陽のように眩しい彼女に相応しくあるように。
王は決意を新たにするのだった。
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