【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I

文字の大きさ
151 / 151
剣聖の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

いつまでも笑顔で

しおりを挟む


 後宮の庭園は常にない賑わいを見せていた。
 明らかに後宮の住人よりも多い人々が詰めかけている。
 それどころか、本来は王以外の男は入れないはずなのに、騎士の正装を纏った男たちが何人もいるではないか。

 並べられたテーブルには、厨房から様々な料理が運ばれ綺麗に並べられる。
 何人もの給仕が飲み物とグラスを持って来客たちに勧めて回っていた。
 それはまさに、立食パーティーと言った様相だ。


 そんな後宮の庭園に、クレイやギデオンの姿もあった。

「食べてるか?ギデオン」

「あ、ああ……」

 クレイの問いに対して、歯切れ悪そうに答えるギデオン。
 今この状況に戸惑っている様子だ。

「ん?どした?」

「いや何と言うか……場違いな気がしてよ」

 訝しむクレイに、そんな心情を吐露する。
 男子禁制の後宮に足を踏み入れた男の心境としては、ごく当然の反応と言えるだろう。
 特にギデオンは、その巨体の割には色々と気を遣う質なのでなおさらだ。

 だがクレイはさして気にした風もなく言う。

「陛下が許可してるってんだから別に気にする必要ないだろ。ほれ、せっかくの美味い料理なんだ、楽しまなきゃ損だぞ」

「……お前は肝が据わってるよな」

「お前が気にし過ぎなんだ」


 しかしそんなクレイも、次の瞬間には度肝を抜かれる事となる。
 それは給仕の女性が声をかけてきたときのこと。

「飲み物はいかがですか~?」

「あ、じゃあお願いし……って!?」

「マリアベル様っ!?」

 給仕役の使用人かと思って振り返れば、なんと王妹のマリアベルだったのだ。
 流石のクレイもこれには驚愕を隠しきれなかった。


「王妹殿下が自らそんな事を……よろしいのですか?」

 王族ともあろう者が使用人の仕事をするなど良いのだろうか……と、クレイは遠慮がちに聞く。
 それに対してマリアベルはあっさりと答えた。

「いいのいいの。今日はあなたたちが主役……勇敢に竜と戦った勇者たちを讃えるための戦勝パーティーなんだから。私たちの感謝の気持よ」

「は、はぁ……」

「ということで……じゃんじゃん飲んで楽しんでいってね~」

 そう言って彼女はクレイとギデオンにグラスを渡してから立ち去っていった。


「…………マリアベル様って、何かエステルに似てるな」

 幼馴染を彷彿とさせるノリや雰囲気を感じたのだ。
 エステルほど突き抜けてはいないし、そもそも彼女に似てるなど失礼だったか……などと失礼な事を思ったが。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 マリアベルがクレイに語った通り、今日の後宮は裏組織壊滅作戦と竜との戦いに勝利したことを祝うパーティー会場として開放されていた。
 それは前代未聞のこと。

 招待された功労者……主に前線で戦った騎士たちは最初こそ戸惑ったものだが、それも直ぐに慣れ、滅多に食べられない高級食材を惜しげもなく使った美味しい料理に舌鼓を打ちながら大いに楽しんでいた。

 そんな中、王妹マリアベルが自ら給仕がてら騎士たちに労いの言葉をかけて回ると、彼らは恐縮しながらも嬉しそうにしている。

 そして、この後宮の主であるアルドと住人の女性たちと言えば…………


「は~い、みんな~!!お待たせしました~!!」

 元気な声を響かせ、エステルが大きな寸胴を両手に持ちながら厨房からやって来た。
 美味しそうな匂いを漂わせるその中身は……

「じゃ~ん!!ドラゴン肉をたっぷり使った、ドラゴンシチューだよ!!」

「「「おぉ~~!!」」」

 噂に聞く高級食材と聞き、注目が集まり歓声が上がった。
 一時は生命を落とす覚悟すらしていた彼らだが、思わぬご褒美に誰もが目を輝かせた。


「たくさん作りましたから、いっぱい食べてくださいね」

「シチューだけじゃなくて、ローストドラゴンもあるわよ!」

 エステル以外に、レジーナやミレイユ、他の後宮の女性たちが次々と料理を運び込んで来ると、身体が資本の騎士たちは色めき立つ。

 さらに……

「さあ、遠慮するな。今日は無礼講だ。大いに楽しもうじゃないか」

 エステルたちと一緒に現れたアルドが音頭を取り、祝宴の場はいっそうの盛り上がりを見せるのだった。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「う~、美味しい……美味しいよぉ~」

 もう何度目かのお代わりしたシチューを平らげ、エステルは涙すら浮かべ感激した様子。
 その気持ちいいほどの食べっぷりに、アルドは笑顔を向ける。
 そして周りを見渡し、他の者たちの様子を見ながら言った。

「みんな満足そうだ。君の提案は大成功だったな」

「はい!皆で頑張ったんだから、皆で楽しまないと!」

 彼女としては、もちろん何らかの打算や思惑があって提案したわけではない。
 純粋に、そうしたら楽しそうだと思ってのことだ。


 アルドは、ふと気になったことを尋ねた。

「どうだ?後宮の暮らしには慣れたか?楽しいか?」

「はい!お友達もたくさんできたし、毎日楽しいです!訓練場で鍛錬もできますし」

「そうか……なら、良かった」

 エステルが日々楽しく暮らしてくれるのなら……一先ず先送りした、想いを告げる日もやってくるだろうか。
 そのためにも、共にここで過ごしながら楽しい思い出を積み重ねていかねば……アルドはそう思った。



 そして、彼女は言う。

「取り敢えず、ここでのんびりと暮らしながら来年の試験に向けて頑張りますから……これからもよろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそ……よろしく頼む」


 来年と言わず、その先もずっと……いつまでもエステルが笑顔でいられるように。
 太陽のように眩しい彼女に相応しくあるように。

 王は決意を新たにするのだった。



しおりを挟む
感想 16

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(16件)

わべさん
2024.01.28 わべさん

近日中には期間予定 → 帰還予定
でしょうか?

波乱のニオイが立ち込めてますなぁ( ̄ー ̄)ニヤリ

2024.01.28 O.T.I

すみません、誤字ですね。すぐに直します!
ありがとうございます!

今はゆっくりと事態が推移してますが、もう少ししたら一気に話動く予定です!

解除
ai
2023.04.07 ai

禁じ手が初歩すぎて面白すぎるー!!
あっ、UFO!より酷いw(笑)
エステルもクレイも最高!

2023.04.07 O.T.I

感想ありがとうございます!

できるだけしょ〜もない技を考えたら、こうなりました〜

解除
hiyo
2023.04.06 hiyo

真面目さのなかのコミカルなドタバタ感が素敵です~♪
続きを楽しみにお待ちしています。有難うございます。

2023.04.06 O.T.I

感想いただきありがとうございます!

メリハリをつけていきたいと思います〜

解除

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。