もう恋なんてしたくないと思ってた

梨花

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ユニットと呼ばれる診療台は6つ。
オペ室1つ。
レントゲン室、ミーティングルーム、更衣室、技巧室と普通の歯医者さんだ。
部屋だけを並べれば。
いままで実習に行っていた歯医者と違うのはやはり都会的な雰囲気。
噂では完全個室の病院もあると聞いていたけどここは完全ではなく壁で各ユニットが仕切られている。
「患者さんは日によってかわるけど1日大体50人ぐらいかしら。
自費診療も多いわね。」
自費診療で儲けをあげないと場所代が高そうだ。
「ホワイトニング希望の人が多くてなかなか手が回らないのが現状なの。」
だから余計に衛生士が欲しいのか。
この病院のユニフォームはおしゃれだ。
受付とアシストをしている人はベージュに黒のパイピングの半袖チュニックに黒のパンツ。
歯医者に行くと大体白かピンクか水色って感じなのに、まるでエステか何かみたいだ。
さっき見たドクターは黒の白衣、というと変だけど、上下黒だった!
病院で黒って!
「高遠、終わったか?」
うわ。
さっきのドクターだ。
「はい。
例の件はランチで話します。」
「俺も今の患者さんで診療が終わりだから先に行っててくれ。
那賀さん、またあとで。」
銀縁眼鏡ドクターはそう言ってどこかへ行ってしまった。
「あれが氷坂先生です。」
高遠さんは苦笑して言った。
「氷坂は相変わらず愛想のない男だな。」
「きちんと仕事をしてくださるのでこちらは申し分ありませんが。
久坂さん、お腹空いたでしょう?
お店予約しているので行きましょうか。」
え。
「俺の席もあるんだろうな。」
「もちろん引率の先生のお席も用意してあります。」


ランチは7階にある和食のお店。
氷坂先生は着替えて現れた。
見学だけなのに一緒に食事ってどうなんだろうか。
見学したクリニックは素敵だなとは思うけど、ここがいい!という決定打がない。
氷坂先生はあたしに名刺をくださった。
「履歴書持っておらず申し訳有りません。」
「気にしなくていい。」
個室で、しかもあたし以外の3人は知り合いらしいこともあり、男性陣は足を崩している。
料理が次々と運ばれてくる。
「久坂さんはどうして歯科衛生士に?」
氷坂先生に尋ねられた。
「将来仕事をするなら何か資格をと考えた時に医療や介護現場で働く人の話を学校で聞く機会がありました。
その中で歯科衛生士は夜勤がないという点に魅力を感じました。」
氷坂先生はくすりと笑った。
「面接じゃないからそんなに固苦しくなくていい。」
「そんなこと言っても氷坂先生ですからね。
誰だって固苦しくなります。」
高遠さんが言う。
「とにかく資格を取って、それが活かせる仕事がしたかったので。」
「久坂さんはしっかり先を見据えているのね。すごいわ。」
高遠さんに褒められてしまった。
「え…あ…。そんな…。」
「そんな久坂さんに是非うちの病院に就職して欲しいんだが。」
氷坂先生が言ってあたしは食べていた手を止めた。
「新しいスタッフを入れたいのは山々なんだが見ての通りうちの病院の患者さんのほとんどがこのビルで働く人だ。
このビルには色んな会社が入っているが、俺より高給取りはざらにいる。
そういう玉の輿狙いで働きたいと言ってくる人が多くて、公にはスタッフが募集できない状況だ。」
「那賀さんは私情で動く人ではないから、久坂さんの話を聞いた時にこちらから是非にとお願いして来てもらったの。」
「あたしの話って?」
那賀さんはきょとんとした顔をしていた。
「知り合いが衛生士学校の学生で就職活動中だとしか話してない。
なんだ?それ以外の事も話してよかったのか?」
あたしが慌てて首を振ると氷坂先生と高遠さんは笑っていた。
「住むところなんだけど、シェアハウスはちょっとと言ってたけど、あたしと2人暮らしはどうかな?」
「えっ?」
なんだかあたしに都合のいい話になっている気がする。
「高遠さんと、ですか?」
「うん。
弟と一緒に住んでいたんだけど弟が出て行くことになって、それなら久坂さんはどうかな?と思ったの。」
「あの、えっと、あたし…。」
「何もかも突然だから困るわよね。
とりあえず家賃は光熱費含めて3万。
職場から徒歩だと30分。
地下鉄3駅。
考えておいてくれるかな?」
「はい…。
お返事は何時までに…?」
「色々あるかとは思うが来月末でいいだろうか?こちらとしても準備があるから。」
「わかり、ました。
よく、考えてきます。」
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