もう恋なんてしたくないと思ってた

梨花

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数日後。
那賀さんからメールで連絡がきた。
まだ1週間経っていない。
約束は土曜日に決まった。
土曜日は診療が14時までとのことで、あたしが訪問するのは14時。
今回も那賀さんは同行してくれる。

「朝早くからすみません…。」
那賀さんのマンションには9時に着いた。
家にいても落ち着かなくてあたしは勉強道具を持って那賀さんのマンションにきていた。
「大丈夫だよ。」
「でもこんなに週末の度に押しかけてたら…。」
「仕事で家を開けるときは言ってるでしょ?
特定の恋人はしばらくは作らないから大丈夫。」
玄関の鍵を閉めた那賀さんはキッチンへ向かい、あたしはリビングへと入る。
「それってあたしのせいですよね?」
「ん?違うね。
相性の合う人が見つからないだけ。
はい、カフェオレ。」
那賀さんはマグカップを2つ持ってリビングにきた。
「ありがとうございます。」
あたしは着ていたコートを脱いで椅子の背に掛ける。
那賀さんの入れてくれたカフェオレを飲んで一息ついているとスマホがなった。
「アイツ?」
あの日ホテルであたしを置き去りにしたヒトからだ。
小さく頷くと。
「出て。スピーカーで。」
那賀さんは言った。
あたしが電話に出ると那賀さんはあたしの後ろに立った。
「…もしもし。」
『久しぶりだな。これから来れないか?』
は?
「今日は無理…。」
『へぇ。
彼氏の呼び出しに応じられないのかあ。』
「きゃあっ!
ちょっとっ、やめてくださっ!」
那賀さんがいきなり抱きついてきてうなじにキスをした。
『なんだ、誰かと一緒なのか?』
「誰かって失礼だね。」
『那賀、課長…?』
「そう、僕だよ。
一体誰に電話かけてるの?
やよいを僕に貢いだ時点でもう君は彼女の恋人じゃないんだよ?わかってる?」
言葉遣いは柔らかいけど口調は厳しい。
『貢いだって…。
そんなつもりじゃ…。』
「ふうん。
返してもいいけどそうなったら君の希望は通らないよ?それでもよければ。」
「那賀さ…ふぐっ。」
「声出さないで、しゃぶって。」
那賀さんは耳元で囁いた。
「んぅ…。」
『それはっ…。』
「ふふ。
わかればいいんだよ。
いい子を連れてきてくれたよね。
今美味しそうにしゃぶってくれてるよ。
ネタに聴かせてあげようか?」
あたしは横目で那賀さんを見る。
那賀さんは大丈夫と言いたげに頷く。
『え…あ、いやっ…。』
「かわいい。
恨めしそうな目で見てきたよ。
そういうわけだから邪魔しないで。
じゃあ。」
那賀さんは通話を終了させ、あたしの口から指を抜いた。
「悪かったね。」
「…いえ。那賀さん、手を洗ってきてください。」
「あ、あぁ。」
那賀さんはあたしを守るためにわざとあんな芝居を打ってくれたのだとすぐにわかった。
だから。
「久坂さんはすすがなくてもいい?」
「大丈夫ですー。」
キッチンからの声にあたしは答え、カフェオレを飲んだ。
「ねえ、今日向こうに行く前に携帯買いに行こうか?」
「え?あの、いろいろ急にはっ…。」
「アイツ、またいつか連絡とってくるよ。
さっさと変えたほうがいい。
出来ればラインなんかも。」
「えっ…。」
那賀さんはキッチンから戻ってきた。
「今はいいかもしれない。
でもアイツとは確実に連絡が取れない状態にしたほうがいい。
やるなら気が付いた今がいい。
新しい携帯は俺の名義にする。」
「えっ?」
さっきから那賀さんに驚かされてばっかりだ。
「正直久坂さんに出会ったときから携帯の件は考えていた。
今日は運良く俺がいたから良かったけどそうでなかったら…、俺は董哉くんに顔向けできない。」
「………。」
「久坂さん。
契約、しようか。」
「契約、ですか?」
「うん。
俺は君を保護する。
その代わり君は月に何回か俺と夕食を一緒に取る。」
「だからそれは那賀さんには何もメリットないですよっ。」
初めて会った時と言っている事は変わらない。
「俺と相性の合う人は見つからないんじゃないかと思ってる。
だから偶に食事と酒に付き合ってくれる時間を俺に頂戴。
とりあえず2年。
その間に久坂さんに恋人ができれば関係は終わりでいい。
指一本触れないとは言わないけど、体の関係はなし。
どう?」
どうって…。
「俺に全力で久坂さんを守らせて欲しい。」
「まるで、契約彼女ですね。」
言うと那賀さんは苦笑した。
あたしはなんの取り柄もない歯科衛生士の学生だ。
なのに。
「どうしてあたしにそこまでしてくれるんですか?」
「人して、惚れたから。」
はっきり、那賀さんは言った。
「え?」
「初対面のあの日、あんなことになって、俺と2人っきりにさせられて、泣きもせずわめきもせずに淡々と自己紹介をした君を見て、君の望みを叶えようと思っただけだよ。」
ふとあの日の事を思い出す。
「あの日はもう、あきらめてましたから。」
自分の事だけしか考えていないあの男に。
「…そうか。」
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