7 / 12
6
しおりを挟む
あたしは結局那賀さんに押し切られるように新しいスマホを手に入れた。
那賀さんの名義だから支払いは那賀さんになる。
今は学生だから支払いはいらないと言われてしまった。
すぐに社会人になるから支払いはそれ以降にさせてもらう。
そしてその足で履歴書を持って行った。
「あたしたちのクリニックに就職を決めてくれてありがとう。」
高遠さんは言ってくれた。
「こちらこそ、あたしを就職させてくださってありがとうございます。」
今日は時間が時間なので食べには行かず、お弁当がでた。
和洋中といろんなおかずが入っていていろどりも綺麗だ。
「今日は氷坂は?」
那賀さんが尋ねる。
「指導医の勉強会でいませんー。」
「ふうん。
この後の予定は?」
「書類の説明とユニフォームの採寸とIDの写真撮影です。」
「え。」
写真撮影なんて知らない。
今日なんてほぼスッピンだ。
くすくすと高遠さんは笑う。
「大丈夫。後で強力な助っ人呼んでるから。」
はあ、助っ人…。
お昼ご飯を食べて歯磨きだけさせて貰う。
歯科衛生士の学校に通い始めてから口回りには気を使うようになった。
「こちらが就業に関する注意事項。
当たり前のことだけど、きちんと読んでおいて下さい。」
その他入社承諾書、誓約書、身元保証書などなど。
「あと、国試が終わってから都合のいい日からアルバイトって形で来てもらえるかな?」
「アルバイト、ですか?」
「正式には4月1日に入社で試用期間3ヶ月なんだけど、早く色んなことに慣れて欲しいと思うの。
今まで色んな病院で実習してきたと思うけど全く同じ病院はなかったでしょう?」
「はい。」
「だから、お友達と旅行に行ったりする予定があったりもするだろうから無理のない範囲で、お願いします。」
「はい。」
こうしてあたしと高遠さんが話している間、那賀さんは別の部屋であたしのスマホをカスタマイズしてくれている。
どんなことをしているのかはさっぱりわからないけど。
いただいた書類は勤務することになったクリニックの名前の書かれた封筒に入れる。
「さて、ユニフォームだけど。」
出されたユニフォームは受付やアシスタントの人が着ていたベージュのもの。
「サイズが揃っているのがこれだけど、実際はブラウン。」
「エステみたいですよね。」
「うん、場所が場所だからそういう雰囲気を作り出さないとね。」
とりあえずMをと言われてそれを着る。
中学校入学前に制服の採寸したときみたいに制服に着られている感じだ。
あたしのスタイルはあまり良くない。
出ているところは出ているが出ていないところも少し出ている。
いわゆるちょいぽちゃだ。
「うーん。」
着てみると伸縮性のある素材だからぱっつんぱっつん。
「Lかなあ。」
言われてLを着直す。
「うーん。」
少しゆったりしていて着心地はいい。
だけど高遠さんは少し不満顔だ。
「すみません、体格が…。」
「謝らなくてもいいの。
流石にさっきのMよりはいいもの。
着替えたら写真とるわね。」
え?
助っ人やらは…?
「高遠さん、なんか来ているが。」
ドアの向こうで那賀さんの気だるい声。
「はーい。
ちょっと待っててね。」
言って高遠さんは部屋を出た。
あたしは大急ぎで着替えて脱いだユニフォームをたたむ。
たたみ終わった頃に高遠さんは大荷物の男性を連れてやって来た。
「彼女が4月から来てくれる久坂さん。
こちらは村松さん。ビル内にあるヘアサロンのスタイリストさん。」
あたしは立ち上がって頭をさげる。
「初めまして、久坂と申します。」
「よろしく。
すわって。早速始めます。」
「はい。」
村松さんはてきぱきとあたしのメイクとヘアセットを始めた。
ヘアセットはサイドを編み込んでアップにして毛先をコテで巻いただけ。
だけど編み込みのできないあたしには到底無理!
三つ編みじゃ意味ないんだよ…。
眉もカットされた。
眉カットなんて成人式の時以来人にしてもらったことはない。
自分でするのとは段違いだ。
村松さんが動く度にいい匂いがする。
那賀さんとは別の。
柑橘系のコロンだろうか?
「どう?」
鏡の中のあたしはさっきまでのあたしとは少し違う。
「少しだけ目元濃いめって思うかもしれないけど、可愛い口元してるからそっちメインにしてみた。」
「ありがとうございます。
可愛い、です。」
「どういたしまして。
お礼は後日身体で貰うから。」
「え…。」
「村松さん!
誤解するような言い方やめて下さいっ。」
高遠さんが言って、そのままの意味じゃないとわかった。
「あはは。
先生の許可降りたらクリーニング、よろしく。」
やはりそちらでした。
労働の対価は労働なんですね。
「是非機会がありましたら。」
あたしが答えると村松さんはニコリと笑った。
「僕のサロンにも是非来てね、機会があれば。」
那賀さんの名義だから支払いは那賀さんになる。
今は学生だから支払いはいらないと言われてしまった。
すぐに社会人になるから支払いはそれ以降にさせてもらう。
そしてその足で履歴書を持って行った。
「あたしたちのクリニックに就職を決めてくれてありがとう。」
高遠さんは言ってくれた。
「こちらこそ、あたしを就職させてくださってありがとうございます。」
今日は時間が時間なので食べには行かず、お弁当がでた。
和洋中といろんなおかずが入っていていろどりも綺麗だ。
「今日は氷坂は?」
那賀さんが尋ねる。
「指導医の勉強会でいませんー。」
「ふうん。
この後の予定は?」
「書類の説明とユニフォームの採寸とIDの写真撮影です。」
「え。」
写真撮影なんて知らない。
今日なんてほぼスッピンだ。
くすくすと高遠さんは笑う。
「大丈夫。後で強力な助っ人呼んでるから。」
はあ、助っ人…。
お昼ご飯を食べて歯磨きだけさせて貰う。
歯科衛生士の学校に通い始めてから口回りには気を使うようになった。
「こちらが就業に関する注意事項。
当たり前のことだけど、きちんと読んでおいて下さい。」
その他入社承諾書、誓約書、身元保証書などなど。
「あと、国試が終わってから都合のいい日からアルバイトって形で来てもらえるかな?」
「アルバイト、ですか?」
「正式には4月1日に入社で試用期間3ヶ月なんだけど、早く色んなことに慣れて欲しいと思うの。
今まで色んな病院で実習してきたと思うけど全く同じ病院はなかったでしょう?」
「はい。」
「だから、お友達と旅行に行ったりする予定があったりもするだろうから無理のない範囲で、お願いします。」
「はい。」
こうしてあたしと高遠さんが話している間、那賀さんは別の部屋であたしのスマホをカスタマイズしてくれている。
どんなことをしているのかはさっぱりわからないけど。
いただいた書類は勤務することになったクリニックの名前の書かれた封筒に入れる。
「さて、ユニフォームだけど。」
出されたユニフォームは受付やアシスタントの人が着ていたベージュのもの。
「サイズが揃っているのがこれだけど、実際はブラウン。」
「エステみたいですよね。」
「うん、場所が場所だからそういう雰囲気を作り出さないとね。」
とりあえずMをと言われてそれを着る。
中学校入学前に制服の採寸したときみたいに制服に着られている感じだ。
あたしのスタイルはあまり良くない。
出ているところは出ているが出ていないところも少し出ている。
いわゆるちょいぽちゃだ。
「うーん。」
着てみると伸縮性のある素材だからぱっつんぱっつん。
「Lかなあ。」
言われてLを着直す。
「うーん。」
少しゆったりしていて着心地はいい。
だけど高遠さんは少し不満顔だ。
「すみません、体格が…。」
「謝らなくてもいいの。
流石にさっきのMよりはいいもの。
着替えたら写真とるわね。」
え?
助っ人やらは…?
「高遠さん、なんか来ているが。」
ドアの向こうで那賀さんの気だるい声。
「はーい。
ちょっと待っててね。」
言って高遠さんは部屋を出た。
あたしは大急ぎで着替えて脱いだユニフォームをたたむ。
たたみ終わった頃に高遠さんは大荷物の男性を連れてやって来た。
「彼女が4月から来てくれる久坂さん。
こちらは村松さん。ビル内にあるヘアサロンのスタイリストさん。」
あたしは立ち上がって頭をさげる。
「初めまして、久坂と申します。」
「よろしく。
すわって。早速始めます。」
「はい。」
村松さんはてきぱきとあたしのメイクとヘアセットを始めた。
ヘアセットはサイドを編み込んでアップにして毛先をコテで巻いただけ。
だけど編み込みのできないあたしには到底無理!
三つ編みじゃ意味ないんだよ…。
眉もカットされた。
眉カットなんて成人式の時以来人にしてもらったことはない。
自分でするのとは段違いだ。
村松さんが動く度にいい匂いがする。
那賀さんとは別の。
柑橘系のコロンだろうか?
「どう?」
鏡の中のあたしはさっきまでのあたしとは少し違う。
「少しだけ目元濃いめって思うかもしれないけど、可愛い口元してるからそっちメインにしてみた。」
「ありがとうございます。
可愛い、です。」
「どういたしまして。
お礼は後日身体で貰うから。」
「え…。」
「村松さん!
誤解するような言い方やめて下さいっ。」
高遠さんが言って、そのままの意味じゃないとわかった。
「あはは。
先生の許可降りたらクリーニング、よろしく。」
やはりそちらでした。
労働の対価は労働なんですね。
「是非機会がありましたら。」
あたしが答えると村松さんはニコリと笑った。
「僕のサロンにも是非来てね、機会があれば。」
0
あなたにおすすめの小説
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる