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村松さんが帰って。
「さて。行きましょうか。」
高遠さんに言われてあたしたちは部屋を出た。
「おっ!」
片手に缶コーヒーの那賀さんが戻ってくるのに出くわした。
「今から写真撮りに行ってきますから、留守番お願いします。」
「留守番て何するんだ?」
「鍵を壊して入ってくる人がいたら捕まえて。」
「いるのか?そんな奴。」
「週末の人の少ない時を狙ってくる人もいるみたい。
開いてる店もあるから、客を装って来るんだって。」
「ふうん。」
「中に人がいるとセキュリティロック使えないから、不審者が来たら非常ボタンを押してね。」
「面倒なんだな。」
「現金は銀行に預けてあるけどちょっとした道具でもオークションで流されると困るのよ。」
医療系の道具は高い。
本だって高いけど、実習で使うための模型やスケーラー(歯石を取るための道具)は3000円ぐらいした。
数本まとめ買いなので諭吉さんが飛んで行ってびっくりしたのを覚えている。
「にしても。」
那賀さんはあたしを見た。
高遠さんは笑みを浮かべる。
「磨きがいがあるわよ、久坂さん。」
磨きがいって!
「国試が終わったらしっかり磨かせてもらうよ。」
いやいや、那賀さんは何を言ってらっしゃるんだかっ?
驚いた顔のあたしに那賀さんは甘い笑みを浮かべた。
「今朝、約束したよね?」
うわあ!
そう言えば恋人契約したんだった。
「…ハイ。」
耳まで赤くなってる筈だ。
「遅くなったらカメラマンさんに怒られるから急ぐわよ。」
高遠さんに腕を掴まれてあたしたちは写真を撮るための部屋に向かった。
写真はある意味証明写真で、それほど時間はかからなかった。
「お疲れ様。」
戻ってきたあたしたちに那賀さんは言った。
「今日の最後の仕事は」
え?
「あたしの部屋に来てもらうわね。」
ナンダッテー。
「住むところ、確認してもらわないとね。」
確かにそうなんですが…あたしの勉強時間…。
「今日は勉強はあきらめろ。」
那賀さんはあたしの頭をぽんぽんして言った。
「那賀さん~。」
「今夜は美味しいモノ食べに連れて行ってあげるから。」
「早く家に帰りたい…。
外じゃなくていい。」
エレベーターに乗って駐車場へ向かう。
「今夜、泊まるか?
そうしたら家で飯も勉強もできる。」
「わお!あたしがいるのに誘ってるう。」
高遠さんが背後で言ってハッとした。
「高遠さん…。
付き合っている可愛い恋人を家に泊めて何か問題があるかな?」
「へぇ…?
前に聞いた時は知り合いの妹さんて話だったのにぃ?」
「話を聞いた時はまだそういう関係だったんだ。」
エレベーターが止まり、あたしたちは降りて那賀さんの車に向かった。
車で移動すること15分で高遠さんの住むマンションに着いた。
そこの615号室が高遠さんの住まいだそうだ。
「俺よりいいところに住んでるな。」
那賀さんはぼやく。
「ちょっとした伝手ですから。」
玄関を入って直ぐの部屋のドアを高遠さんは開けた。
「ここが久坂さんに使ってもらう部屋ね。」
6畳ほどのフローリングの部屋。
クローゼットがついている。
「ベッドさえあれば何とかなると思うわ。」
「はい…。」
それからトイレやバスルーム、キッチン、リビングと案内された。
リビングの隣は畳のスペース。
「ここは一応ゲストルーム。」
ゲストルーム?
「友達が泊まりに来た時なんかに使うの。
布団を敷くから3・4人は雑魚寝できるわ。」
「俺も泊めてもらうかな。」
「近くのビジネスホテルにどうぞ。」
「高遠さん、酷いな…。」
「普通です。」
「あのー、本当に3万でいいんですか?」
都内でこれだけの部屋、そんなに安くはないと思う。
あたしの出す金額は水道光熱費程度だろう。
とはこの間ネットで調べたことだけど。
「うん。
氷坂先生のお友達の紹介で借りてるから家賃が相場より安いの。
だから気にしなくて大丈夫。
それに、もし今後どこか引っ越しを考えてる時も氷坂先生のお友達から紹介して貰ったら多少は安くしてもらえるはずだから。」
「伝手って凄いですね…。」
あたしは感心した。
「こんな感じの家だけど大丈夫かな?」
「立派すぎてびっくりしてます。」
「変なところは紹介できないからね。
ちょっと細かいルールは考えておくね。
久坂さんもなにかあったら考えておいて。
あぁ、あたしの連絡先っ。」
高遠さんは鞄から名刺入れを取り出し、名刺の裏にさらさらと書き付けた。
「プライベートの番号とメアド。
困ったことがあったら連絡頂戴。」
「はい、ありがとうございます。」
あ、あたしの連絡先…。
あたしは那賀さんを見る。
「今日新しいスマホ買ったから、明日にでもやよいからメールさせる。」
「わかりました。」
「帰るか?」
「はい。
今日はありがとうございました。」
「いえいえ。
こちらこそ大事な時間をありがとう。」
「やよいは就職の事、ご両親に言ってる?」
帰りの車の中、あたしは尋ねられた。
「まだ、です。」
「俺から、言おうか?」
「いえ、あたしのこと、ですし。自分で話します。」
「そう。
もし何か言われたら、董哉くんの友達の上司って言えばいいから。」
確かにそれは嘘じゃない。
「董哉くんと友達が飲んでいて、たまたま俺が話を聞いていて、俺も知り合いが歯科衛生士を探していたので紹介した、って伝えればいい。
氷坂にも高遠さんにもそう話しておく。」
「はい。
何から何までありがとうございます。」
「いや。可愛い恋人のため、ですから。
だから俺のことは陽介さんて呼んでほしいな。」
「む、無理ですっ。」
「えー。」
「無理ったら無理ですっ。」
「じゃあ、国試終わったら、呼んで。」
「ど、どうしてですかっ!」
「呼び慣れないと高遠さん達にばれちゃうよ?」
「えー。」
「まあ、少しずつ恋人のふりになれていって?」
「…はい。」
「さて。行きましょうか。」
高遠さんに言われてあたしたちは部屋を出た。
「おっ!」
片手に缶コーヒーの那賀さんが戻ってくるのに出くわした。
「今から写真撮りに行ってきますから、留守番お願いします。」
「留守番て何するんだ?」
「鍵を壊して入ってくる人がいたら捕まえて。」
「いるのか?そんな奴。」
「週末の人の少ない時を狙ってくる人もいるみたい。
開いてる店もあるから、客を装って来るんだって。」
「ふうん。」
「中に人がいるとセキュリティロック使えないから、不審者が来たら非常ボタンを押してね。」
「面倒なんだな。」
「現金は銀行に預けてあるけどちょっとした道具でもオークションで流されると困るのよ。」
医療系の道具は高い。
本だって高いけど、実習で使うための模型やスケーラー(歯石を取るための道具)は3000円ぐらいした。
数本まとめ買いなので諭吉さんが飛んで行ってびっくりしたのを覚えている。
「にしても。」
那賀さんはあたしを見た。
高遠さんは笑みを浮かべる。
「磨きがいがあるわよ、久坂さん。」
磨きがいって!
「国試が終わったらしっかり磨かせてもらうよ。」
いやいや、那賀さんは何を言ってらっしゃるんだかっ?
驚いた顔のあたしに那賀さんは甘い笑みを浮かべた。
「今朝、約束したよね?」
うわあ!
そう言えば恋人契約したんだった。
「…ハイ。」
耳まで赤くなってる筈だ。
「遅くなったらカメラマンさんに怒られるから急ぐわよ。」
高遠さんに腕を掴まれてあたしたちは写真を撮るための部屋に向かった。
写真はある意味証明写真で、それほど時間はかからなかった。
「お疲れ様。」
戻ってきたあたしたちに那賀さんは言った。
「今日の最後の仕事は」
え?
「あたしの部屋に来てもらうわね。」
ナンダッテー。
「住むところ、確認してもらわないとね。」
確かにそうなんですが…あたしの勉強時間…。
「今日は勉強はあきらめろ。」
那賀さんはあたしの頭をぽんぽんして言った。
「那賀さん~。」
「今夜は美味しいモノ食べに連れて行ってあげるから。」
「早く家に帰りたい…。
外じゃなくていい。」
エレベーターに乗って駐車場へ向かう。
「今夜、泊まるか?
そうしたら家で飯も勉強もできる。」
「わお!あたしがいるのに誘ってるう。」
高遠さんが背後で言ってハッとした。
「高遠さん…。
付き合っている可愛い恋人を家に泊めて何か問題があるかな?」
「へぇ…?
前に聞いた時は知り合いの妹さんて話だったのにぃ?」
「話を聞いた時はまだそういう関係だったんだ。」
エレベーターが止まり、あたしたちは降りて那賀さんの車に向かった。
車で移動すること15分で高遠さんの住むマンションに着いた。
そこの615号室が高遠さんの住まいだそうだ。
「俺よりいいところに住んでるな。」
那賀さんはぼやく。
「ちょっとした伝手ですから。」
玄関を入って直ぐの部屋のドアを高遠さんは開けた。
「ここが久坂さんに使ってもらう部屋ね。」
6畳ほどのフローリングの部屋。
クローゼットがついている。
「ベッドさえあれば何とかなると思うわ。」
「はい…。」
それからトイレやバスルーム、キッチン、リビングと案内された。
リビングの隣は畳のスペース。
「ここは一応ゲストルーム。」
ゲストルーム?
「友達が泊まりに来た時なんかに使うの。
布団を敷くから3・4人は雑魚寝できるわ。」
「俺も泊めてもらうかな。」
「近くのビジネスホテルにどうぞ。」
「高遠さん、酷いな…。」
「普通です。」
「あのー、本当に3万でいいんですか?」
都内でこれだけの部屋、そんなに安くはないと思う。
あたしの出す金額は水道光熱費程度だろう。
とはこの間ネットで調べたことだけど。
「うん。
氷坂先生のお友達の紹介で借りてるから家賃が相場より安いの。
だから気にしなくて大丈夫。
それに、もし今後どこか引っ越しを考えてる時も氷坂先生のお友達から紹介して貰ったら多少は安くしてもらえるはずだから。」
「伝手って凄いですね…。」
あたしは感心した。
「こんな感じの家だけど大丈夫かな?」
「立派すぎてびっくりしてます。」
「変なところは紹介できないからね。
ちょっと細かいルールは考えておくね。
久坂さんもなにかあったら考えておいて。
あぁ、あたしの連絡先っ。」
高遠さんは鞄から名刺入れを取り出し、名刺の裏にさらさらと書き付けた。
「プライベートの番号とメアド。
困ったことがあったら連絡頂戴。」
「はい、ありがとうございます。」
あ、あたしの連絡先…。
あたしは那賀さんを見る。
「今日新しいスマホ買ったから、明日にでもやよいからメールさせる。」
「わかりました。」
「帰るか?」
「はい。
今日はありがとうございました。」
「いえいえ。
こちらこそ大事な時間をありがとう。」
「やよいは就職の事、ご両親に言ってる?」
帰りの車の中、あたしは尋ねられた。
「まだ、です。」
「俺から、言おうか?」
「いえ、あたしのこと、ですし。自分で話します。」
「そう。
もし何か言われたら、董哉くんの友達の上司って言えばいいから。」
確かにそれは嘘じゃない。
「董哉くんと友達が飲んでいて、たまたま俺が話を聞いていて、俺も知り合いが歯科衛生士を探していたので紹介した、って伝えればいい。
氷坂にも高遠さんにもそう話しておく。」
「はい。
何から何までありがとうございます。」
「いや。可愛い恋人のため、ですから。
だから俺のことは陽介さんて呼んでほしいな。」
「む、無理ですっ。」
「えー。」
「無理ったら無理ですっ。」
「じゃあ、国試終わったら、呼んで。」
「ど、どうしてですかっ!」
「呼び慣れないと高遠さん達にばれちゃうよ?」
「えー。」
「まあ、少しずつ恋人のふりになれていって?」
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