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12月6日
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師長に18時からムンテラがあることを告げ、残業になるので30分休憩が欲しいと告げると16時から休憩するように言われた。
あたしは売店でおにぎりとクリームパンとカップ麺を買い、休憩室でかきこんだ。
17時からは準夜勤への申し送りだ。
休憩室で浅香さんから家の鍵を受け取った。
18時。
ミーティングルームと呼ばれる部屋には藤田先生と川島先生。
あたしは藤田先生の斜め後ろに控える。
向かいに鶴見さんとその上司の矢崎さん。
鶴見さん以外が名前を名乗り、ムンテラが始まる。
藤田先生が病名を告げた。
胃癌。
ステージ2。
それから検査の結果を告げていく。
鶴見さんの表情を確認するが変わりがないのは予想していたからか。それとも仕事柄なのか。
治療についての話。
放射線療法、抗ガン剤の点滴、そして手術。
どれか1つより複数組み合わせるのがベスト。
「手術はしたほうがいいということですか?」
鶴見さんがいう。
「治療期間を短くすませたかったら手術して、様子を見ながら抗ガン剤がベストです。
ただ鶴見さんのお仕事柄、難しいようでしたら放射線療法をメインに抗ガン剤を使用していくということも考えられますが。」
が。
放射線療法がどこまで効果を出すのか、抗ガン剤が果たして効いてくれるのか、それは未知数だ。
99人に効いた薬が効かない人だっている。
たとえ効いたとしても確実とはいえない。
確実なのは全て取り去ること。
「わかりました。明日の夜までに答えを出します。」
鶴見さんは答えて終了になった。
ナースステーションに戻ってムンテラを記録に残す。
ドクターは記録の様式があるからさっさと書き終わるけどナースの記録はまた別だ。
SOAPに沿って記録する。
Sは主観的情報、Oは客観的情報、Aはアセスメント、Pは看護計画。
ため息をつきながら記録を書いていたら1時間たっていた。
着替えて携帯を確認すると藤田からラインが来ていた。
いつものバーにいるとのこと。
いつものって藤田の住むマンションの地下フロアにあるバーだ。
今日も自転車を押して帰ることになりそうだ。
「いらっしゃい。」
あたしが店に入ると程々の人の入りだった。
藤田と川島先生はカウンターにいて、簡単に見つけられた。
川島先生が1つ席をずれ、あたしは2人の間に座らされた。
「お疲れ。」
「今日は久しぶりに疲れた。」
「ご苦労さまでした。
篠崎さん何飲みますか?」
「いつものー。」
カシスグレープフルーツ。
甘くてさっぱりしたカクテル。
飲みやすくて大好きだ。
「飲みすぎるなよ、悪酔いするぞ?」
しかし。
そんな藤田の言葉を無視して一気に半分飲んだ。
空きっ腹にアルコールがしみる。
「マスター、美雪、職場から直行だから何か食べるやつだして。好き嫌いないからなんでもいい。」
アルコールのふわりとした感じを楽しんでいるのにこの男は野暮な事を言う。
「かしこまりました。」
マスターはキッチンへ入っていった。
「美雪、今日は助かった。」
「何が?」
カバンをゴソゴソ漁ってタバコとライターを取り出す。
タバコを咥えると藤田は自分のジッポをつけてくれたのでありがたく頂戴する。
「美雪が後ろにいたからムンテラ無事にすんだ。」
「…意味わかんないんだけど。」
「今日は、俺達もキツかった。
仕事だから告知して、その先の話もしなくちゃいけないけど、正直、俺の口からは言いたくはなかったから。」
「僕もどれだけ逃げたいと思ったか。」
藤田と川島先生は言った。
「友達に告知することになるとは予想してなかったからな。」
「そっか…。
藤田先生の見立てでは勝算はある?」
「もちろん、勝つよ。簡単に負けられないからな。」
「頑張れ。」
「他人事みたいに言うんだな。」
あたしがマスターの出したパスタを食べ終わるのを待って藤田は言う。
ほうれん草と玉ねぎとベーコンのパスタは美味しかった。
「うん。あたしはあたしのできることを、する。」
「なあ、美雪。」
「ん?」
「結婚しないか?」
「っ…ぷはははっ!な、何言ってるの?
やだっ、藤田の冗談酷すぎぃ。」
アルコールまわってるなあ。笑いがとまらないや。
「本気、なんだけど。」
「いや、ちょっとせんせー、いくら本気って言われても付き合ってない男の人に結婚迫られて喜ぶ安い女だと思われてマスゥ?」
「美雪、30になるだろ?」
「そーですよー、30になるので真面目にお見合いをしよーかと思ってマス。えへ?」
藤田は目を丸くした。
「本気なの?」
「この間、スナップ写真送られてきましたぁ。
すっごいイケメンでしたよ。」
「美雪…。」
「なーのーでー。
終わりにしましょ?藤田さん。」
川島先生はただ穏やかな笑みを浮かべて、琥珀色のアルコールを飲んでいた。
あたしは売店でおにぎりとクリームパンとカップ麺を買い、休憩室でかきこんだ。
17時からは準夜勤への申し送りだ。
休憩室で浅香さんから家の鍵を受け取った。
18時。
ミーティングルームと呼ばれる部屋には藤田先生と川島先生。
あたしは藤田先生の斜め後ろに控える。
向かいに鶴見さんとその上司の矢崎さん。
鶴見さん以外が名前を名乗り、ムンテラが始まる。
藤田先生が病名を告げた。
胃癌。
ステージ2。
それから検査の結果を告げていく。
鶴見さんの表情を確認するが変わりがないのは予想していたからか。それとも仕事柄なのか。
治療についての話。
放射線療法、抗ガン剤の点滴、そして手術。
どれか1つより複数組み合わせるのがベスト。
「手術はしたほうがいいということですか?」
鶴見さんがいう。
「治療期間を短くすませたかったら手術して、様子を見ながら抗ガン剤がベストです。
ただ鶴見さんのお仕事柄、難しいようでしたら放射線療法をメインに抗ガン剤を使用していくということも考えられますが。」
が。
放射線療法がどこまで効果を出すのか、抗ガン剤が果たして効いてくれるのか、それは未知数だ。
99人に効いた薬が効かない人だっている。
たとえ効いたとしても確実とはいえない。
確実なのは全て取り去ること。
「わかりました。明日の夜までに答えを出します。」
鶴見さんは答えて終了になった。
ナースステーションに戻ってムンテラを記録に残す。
ドクターは記録の様式があるからさっさと書き終わるけどナースの記録はまた別だ。
SOAPに沿って記録する。
Sは主観的情報、Oは客観的情報、Aはアセスメント、Pは看護計画。
ため息をつきながら記録を書いていたら1時間たっていた。
着替えて携帯を確認すると藤田からラインが来ていた。
いつものバーにいるとのこと。
いつものって藤田の住むマンションの地下フロアにあるバーだ。
今日も自転車を押して帰ることになりそうだ。
「いらっしゃい。」
あたしが店に入ると程々の人の入りだった。
藤田と川島先生はカウンターにいて、簡単に見つけられた。
川島先生が1つ席をずれ、あたしは2人の間に座らされた。
「お疲れ。」
「今日は久しぶりに疲れた。」
「ご苦労さまでした。
篠崎さん何飲みますか?」
「いつものー。」
カシスグレープフルーツ。
甘くてさっぱりしたカクテル。
飲みやすくて大好きだ。
「飲みすぎるなよ、悪酔いするぞ?」
しかし。
そんな藤田の言葉を無視して一気に半分飲んだ。
空きっ腹にアルコールがしみる。
「マスター、美雪、職場から直行だから何か食べるやつだして。好き嫌いないからなんでもいい。」
アルコールのふわりとした感じを楽しんでいるのにこの男は野暮な事を言う。
「かしこまりました。」
マスターはキッチンへ入っていった。
「美雪、今日は助かった。」
「何が?」
カバンをゴソゴソ漁ってタバコとライターを取り出す。
タバコを咥えると藤田は自分のジッポをつけてくれたのでありがたく頂戴する。
「美雪が後ろにいたからムンテラ無事にすんだ。」
「…意味わかんないんだけど。」
「今日は、俺達もキツかった。
仕事だから告知して、その先の話もしなくちゃいけないけど、正直、俺の口からは言いたくはなかったから。」
「僕もどれだけ逃げたいと思ったか。」
藤田と川島先生は言った。
「友達に告知することになるとは予想してなかったからな。」
「そっか…。
藤田先生の見立てでは勝算はある?」
「もちろん、勝つよ。簡単に負けられないからな。」
「頑張れ。」
「他人事みたいに言うんだな。」
あたしがマスターの出したパスタを食べ終わるのを待って藤田は言う。
ほうれん草と玉ねぎとベーコンのパスタは美味しかった。
「うん。あたしはあたしのできることを、する。」
「なあ、美雪。」
「ん?」
「結婚しないか?」
「っ…ぷはははっ!な、何言ってるの?
やだっ、藤田の冗談酷すぎぃ。」
アルコールまわってるなあ。笑いがとまらないや。
「本気、なんだけど。」
「いや、ちょっとせんせー、いくら本気って言われても付き合ってない男の人に結婚迫られて喜ぶ安い女だと思われてマスゥ?」
「美雪、30になるだろ?」
「そーですよー、30になるので真面目にお見合いをしよーかと思ってマス。えへ?」
藤田は目を丸くした。
「本気なの?」
「この間、スナップ写真送られてきましたぁ。
すっごいイケメンでしたよ。」
「美雪…。」
「なーのーでー。
終わりにしましょ?藤田さん。」
川島先生はただ穏やかな笑みを浮かべて、琥珀色のアルコールを飲んでいた。
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