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12月18日~19日
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眠い。
準夜勤始まったばかりなのに、眠い。
ふ…晴翔の家に泊まったのは初めてではないが。
いつもなら1度自分の家に帰ってから仕事に行くのに、今日は初めて晴翔の家から出勤した。
だから何だと言われるかもしれないが、とにかく初めて、だったのだ、あんなに長い時間晴翔と一緒にいたのも、朝一緒にコーヒーを飲んだのも。
なんだか悪いことをしている気分だ、もうすぐ30になる女が。
下膳をしていると鶴見さんが話しかけてきた。
鶴見さんの回復は早い。
もうすぐ退院、というか転院する。
職場の近くの病院に移る事が決まっている。
職場からの命令らしい。
「昨日は同窓会だったそうですが、外泊したんですか?」
え?
「そんなふうに見えますか?」
「昨日とは別人みたいです。」
「そう?ですか…。」
1日でそんなに変わるものなのだろうか。
あたしはそんなに変わっていないつもりなんだけど。
「憑き物が落ちたような顔ですよ。」
憑き物ってなんか酷いな。
「落ちたんだか、落とされたんだか…。」
わからない。
鶴見さんは穏やかに笑った。
「結婚式、楽しみにしてますね。」
あたしは食器を乗せたトレーを落としそうになった。
「ななななっ!」
顔どころか耳も首まで熱くなった。
「図星でしたか。」
「からかうのはやめてください。」
はあ。
「あと数日ですからね。
これぐらいは楽しませてもらわないと。」
記録、巡視、点滴交換。
そして消灯。
また記録、巡視。
夜は更けていく。
深夜勤務への申し送りの時間だ。
申し送りをするのはあたしより3年後輩の子。
「お疲れ様でした。」
休憩室でタバコを吸っているとその後輩ちゃんが入ってきた。
「緊張した?」
「はい。」
彼女ははにかんだ。
「慣れればもっとスムーズにできるから。
でも馴れ合いはダメ。」
「はい。ありがとうございました。」
「遅いから気をつけてね。」
「篠崎さんも。」
「あー、なんか迎えが来るらしいから大丈夫。」
「羨ましいです。
あたしも迎えに来てくれるかっこいい彼氏ほしいです。」
いや。
彼氏が迎えに来るとか言ってないんだけどな…。
「お先に失礼しますね。
藤田先生がちゃんと迎えにきてるか確認しまーす。」
先程の緊張が飛んでいった彼女は一足先に休憩室を出て行った。
更衣室で着替えて、あたしは職員駐車場に向かった。
年収ン百万の外科医の先生は国産ハイブリッド車であたしを迎えに来ていた。
3ナンバーだし、国産ハイブリッド車ではランクが高いことは知っているけど。
車高の低いスポーツカーのイメージだからびっくりした。
「お疲れ様。」
「お迎えありがとうございます。」
シートベルトをすると車は静かに走り出す。
「どうだった?」
「いつもと変わりなく。
何事もなく無事終了しました。」
「誰かに何か言われなかった?」
「…言われるようなコトしたの?」
あたしが晴翔を見ると、晴翔はニヤニヤわらっていた。
「もう…。
そういえば鶴見さんに憑き物が落ちたような顔だって言われた。」
「あー…。
おめでとうってメールが来た。」
「は?」
院内では携帯電話の使用はある程度許可されている。
大部屋では通話はダメだけど、個室なら通話も許可されている。
「なんだかんだと鶴見にはバレてたかもな。」
そのようだ。
「しっかり寝かせてくださいとも書いてあったけど、美雪寝不足なの?」
「っ…。」
しっかり寝かせてくださいって鶴見さん!
「まぁ俺が寝かせなかったんだけどなぁ。」
ははって、笑い事じゃないし…。
晴翔の家に帰ると、
「風呂沸いてる。」
晴翔は言った。
「あ、ありがとう。」
ここから出勤してここに帰ってくるなんて初めてだから、妙に緊張する。
リビングの片隅にあたしの荷物はおいてあり、丁寧にたたまれたルームウェアと下着を手にした。
…洗濯してある。
下着も!
すっごく恥ずかしい。
どうしてこんなことしちゃうんだろう。
「ちょっと晴翔っ!」
寝室のドアを開けると晴翔は着替えて脱いだ服を持っていた。
「何?まだ風呂入ってなかったのか?」
「そうじゃなくて!
あたしのルームウェア!」
「あー、洗濯するついでだった。」
へらっと笑う。
そんなふうに笑う晴翔は初めて見た。
初めてづくしだ。
「何怒ってるの?結婚したらどっちかが洗濯しないといけないだろ?
それに乾燥機つきだから俺がするのは洗濯機に入れるのとたたむだけだし。」
「いや、何、いきなり結婚、とかっ。」
「昨日言った。
結婚を前提にって。」
「そう…だっけ?」
「近いうちにちゃんとプロポーズするから覚えておけっ。」
えぇっ?
お風呂からあがったあたしを晴翔はリビングで待っていた。
「明日仕事なんだし先に寝ててよかったのに。」
そう言うあたしを引き寄せて晴翔は隣に座らせた。
「俺が先に寝たら、美雪が明日困るだろ。」
意味がわからずキョトンとしているあたしに晴翔は2つ鍵を渡した。
「家の鍵。」
「なんで2つ?」
「このマンションは鍵が2つついてるの知らないのか?」
あぁ、そういえば?
「オートロックで閉まっているのは1つだけだから中に人がいる時はいいけど、いないときは困るだろ。」
あたしがいつもこの部屋を出る時は晴翔が中にいたからだ。
そしてこの部屋にあたしは1人で入ったことはない。
鍵は使ったことがない。
「いいの?」
「いいから渡してるんだ。」
「…ありがとう。」
あたしはぎゅっと鍵を握りしめた。
「今週の勤務、どうなってる?」
「休み、日勤、遅番、休み、日勤、早番、深夜勤、休み。」
「…クリスマスは仕事かっ。」
「うん。25日は実家に帰るし。」
「ねぇ、俺ひとり?」
「そうだねー。」
「どーしてっ!」
「だってシフト組んでる時はこうなる予定じゃなかったしー。」
「俺が、悪かった。」
ぎゅっと抱きしめらる。
あたしも晴翔の背中に手を回した。
準夜勤始まったばかりなのに、眠い。
ふ…晴翔の家に泊まったのは初めてではないが。
いつもなら1度自分の家に帰ってから仕事に行くのに、今日は初めて晴翔の家から出勤した。
だから何だと言われるかもしれないが、とにかく初めて、だったのだ、あんなに長い時間晴翔と一緒にいたのも、朝一緒にコーヒーを飲んだのも。
なんだか悪いことをしている気分だ、もうすぐ30になる女が。
下膳をしていると鶴見さんが話しかけてきた。
鶴見さんの回復は早い。
もうすぐ退院、というか転院する。
職場の近くの病院に移る事が決まっている。
職場からの命令らしい。
「昨日は同窓会だったそうですが、外泊したんですか?」
え?
「そんなふうに見えますか?」
「昨日とは別人みたいです。」
「そう?ですか…。」
1日でそんなに変わるものなのだろうか。
あたしはそんなに変わっていないつもりなんだけど。
「憑き物が落ちたような顔ですよ。」
憑き物ってなんか酷いな。
「落ちたんだか、落とされたんだか…。」
わからない。
鶴見さんは穏やかに笑った。
「結婚式、楽しみにしてますね。」
あたしは食器を乗せたトレーを落としそうになった。
「ななななっ!」
顔どころか耳も首まで熱くなった。
「図星でしたか。」
「からかうのはやめてください。」
はあ。
「あと数日ですからね。
これぐらいは楽しませてもらわないと。」
記録、巡視、点滴交換。
そして消灯。
また記録、巡視。
夜は更けていく。
深夜勤務への申し送りの時間だ。
申し送りをするのはあたしより3年後輩の子。
「お疲れ様でした。」
休憩室でタバコを吸っているとその後輩ちゃんが入ってきた。
「緊張した?」
「はい。」
彼女ははにかんだ。
「慣れればもっとスムーズにできるから。
でも馴れ合いはダメ。」
「はい。ありがとうございました。」
「遅いから気をつけてね。」
「篠崎さんも。」
「あー、なんか迎えが来るらしいから大丈夫。」
「羨ましいです。
あたしも迎えに来てくれるかっこいい彼氏ほしいです。」
いや。
彼氏が迎えに来るとか言ってないんだけどな…。
「お先に失礼しますね。
藤田先生がちゃんと迎えにきてるか確認しまーす。」
先程の緊張が飛んでいった彼女は一足先に休憩室を出て行った。
更衣室で着替えて、あたしは職員駐車場に向かった。
年収ン百万の外科医の先生は国産ハイブリッド車であたしを迎えに来ていた。
3ナンバーだし、国産ハイブリッド車ではランクが高いことは知っているけど。
車高の低いスポーツカーのイメージだからびっくりした。
「お疲れ様。」
「お迎えありがとうございます。」
シートベルトをすると車は静かに走り出す。
「どうだった?」
「いつもと変わりなく。
何事もなく無事終了しました。」
「誰かに何か言われなかった?」
「…言われるようなコトしたの?」
あたしが晴翔を見ると、晴翔はニヤニヤわらっていた。
「もう…。
そういえば鶴見さんに憑き物が落ちたような顔だって言われた。」
「あー…。
おめでとうってメールが来た。」
「は?」
院内では携帯電話の使用はある程度許可されている。
大部屋では通話はダメだけど、個室なら通話も許可されている。
「なんだかんだと鶴見にはバレてたかもな。」
そのようだ。
「しっかり寝かせてくださいとも書いてあったけど、美雪寝不足なの?」
「っ…。」
しっかり寝かせてくださいって鶴見さん!
「まぁ俺が寝かせなかったんだけどなぁ。」
ははって、笑い事じゃないし…。
晴翔の家に帰ると、
「風呂沸いてる。」
晴翔は言った。
「あ、ありがとう。」
ここから出勤してここに帰ってくるなんて初めてだから、妙に緊張する。
リビングの片隅にあたしの荷物はおいてあり、丁寧にたたまれたルームウェアと下着を手にした。
…洗濯してある。
下着も!
すっごく恥ずかしい。
どうしてこんなことしちゃうんだろう。
「ちょっと晴翔っ!」
寝室のドアを開けると晴翔は着替えて脱いだ服を持っていた。
「何?まだ風呂入ってなかったのか?」
「そうじゃなくて!
あたしのルームウェア!」
「あー、洗濯するついでだった。」
へらっと笑う。
そんなふうに笑う晴翔は初めて見た。
初めてづくしだ。
「何怒ってるの?結婚したらどっちかが洗濯しないといけないだろ?
それに乾燥機つきだから俺がするのは洗濯機に入れるのとたたむだけだし。」
「いや、何、いきなり結婚、とかっ。」
「昨日言った。
結婚を前提にって。」
「そう…だっけ?」
「近いうちにちゃんとプロポーズするから覚えておけっ。」
えぇっ?
お風呂からあがったあたしを晴翔はリビングで待っていた。
「明日仕事なんだし先に寝ててよかったのに。」
そう言うあたしを引き寄せて晴翔は隣に座らせた。
「俺が先に寝たら、美雪が明日困るだろ。」
意味がわからずキョトンとしているあたしに晴翔は2つ鍵を渡した。
「家の鍵。」
「なんで2つ?」
「このマンションは鍵が2つついてるの知らないのか?」
あぁ、そういえば?
「オートロックで閉まっているのは1つだけだから中に人がいる時はいいけど、いないときは困るだろ。」
あたしがいつもこの部屋を出る時は晴翔が中にいたからだ。
そしてこの部屋にあたしは1人で入ったことはない。
鍵は使ったことがない。
「いいの?」
「いいから渡してるんだ。」
「…ありがとう。」
あたしはぎゅっと鍵を握りしめた。
「今週の勤務、どうなってる?」
「休み、日勤、遅番、休み、日勤、早番、深夜勤、休み。」
「…クリスマスは仕事かっ。」
「うん。25日は実家に帰るし。」
「ねぇ、俺ひとり?」
「そうだねー。」
「どーしてっ!」
「だってシフト組んでる時はこうなる予定じゃなかったしー。」
「俺が、悪かった。」
ぎゅっと抱きしめらる。
あたしも晴翔の背中に手を回した。
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