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翌日、俺はルシアと共に街で買い物をしていた。


「リンゴを二つくれ」


「はいどうぞ!」


店の主人が店中の野菜やら果物やらを、紙袋がパンパンになるまで詰めて渡してくる。


「……は? こんなに頼んでないぞ?」


「遠慮せずに持っていっておくれよ! これは街を守ってくれたお礼さ!」


「お礼?」


どういうことだ? 俺がヒュドラを討伐したことはルシアとリーファ以外知らないはずだ。


「あんたがあの大賢者様なんだろ? だからこれはほんのお礼さ! 持っていってくれよ!」


店主は強引に俺に紙袋を渡し、店の中に戻っていく。


「おはよう! 英雄さん!」


「街を守ってくれてありがとう! 英雄さん!」


街の人たちは口々にそう叫びながら、俺の肩を叩いていく。


「どういうことなんだ?」


俺は困惑していた。どうして俺が大賢者だと知られているんだ?


「アーク様って本当に凄い人なんですね! もう街じゅうの人が知っていましたよ!」


「まあな……」


俺はどう答えていいかわからず曖昧に答える。これは明らかにおかしい状況だ。誰かが俺の活躍を広めたとしか思えないが……心当たりがないな……


「よぉ、英雄さん!」


一人の男が近づいてきた。昨日、ヒュドラに襲われていた男だ。


「俺は商人をやっているバーンズだ。昨日は本当に助かったよ」


「気にしなくていいさ、困った時はお互い様だ」


「お礼にあんたの評判を広めてやったぜ」


「お前が街中にヒュドラを倒したって話を流したのか?」


「ああ、そうだ」


「一体どうしてそんなことを……」


「それはアーク様が強い冒険者だってことを、みんな知って欲しいからだよ。みんなあんたのことを尊敬しているんだぜ? でもアーク様が大賢者だってことは知らなかったようだけどよ」


バーンズはニヤリと笑う。なるほど、こいつなりに気を遣ったということか……


「本当にありがとう!」


「これからもよろしくね!」


「あんたなら店のもん全部タダでいいぜ!」


こうして俺は、この街の英雄となってしまったのだった。こうなってしまっては、もう誰とも関わらず生きていくのは無理だろう。


「人気者ですね、アーク様!」


ルシアが嬉しそうに言う。俺は思わずため息をついた。


「当分は忙しくなりそうだな……」


新たな悩みを抱えることになってしまった俺だったが、不思議と悪い気分ではなかった。むしろ、心が満たされるような感覚すらあったのだった……
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