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ある日のこと、俺たちはとある街に来ていた。街は活気に溢れており、多くの人々で賑わっている。俺たちは冒険者ギルドに向かうと、依頼書が貼られている掲示板の前に立った。


「アーク様! これなんかどうですか?」


ルシアが指さしたのは新しく発見されたダンジョンの調査だった。報酬もかなり高額だ。俺たちは早速手続きを済ませると、そのダンジョンへと足を踏み入れるのだった……


「暗いですね……」


ルシアが不安そうに言う。確かに彼女の言う通り、中はかなり暗かった。明かりがなければまともに歩くこともできないほどだ……


「そうだな……【灯火(ライト)】!」


俺が呪文を唱えると、杖の先から光が放たれた。それにより周囲が明るく照らされる。これで多少はマシになるだろう……


「ギギィ!」


その時、前方から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。俺たちは警戒しながらそちらを見る。するとそこにいたのは大きな蜘蛛のような魔物だった。


「あれはデススパイダーですね」


ルシアが教えてくれる。彼女の説明によると、奴はかなり厄介な魔物らしい……その牙には強力な毒があり、一度噛まれると数時間は動けないほど強力なものらしいのだ……俺は杖を構えると魔法を唱えることにした……


「【炎嵐(ファイアストーム)】!」


炎の渦が巻き起こり、デススパイダーを包み込む。奴は悲鳴を上げると、絶命したようだった。しかしまだ安心はできない……何故なら周囲にはまだ多くの魔物が残っていたからだ……


「ルシア! 油断するなよ!」


俺が叫ぶと同時に、ルシアは杖を構える。するとそこから火の玉が出現して、魔物たちへと向かっていった。それらは次々と命中して爆発していく……彼女の魔法の腕は流石と言えるものだった。あっという間に全ての敵を殲滅させてしまったのだ……俺は安堵の息を漏らすと、ルシアに言う。


「よし、先へ進むぞ」


彼女は元気よくうなずくと、俺の手を引いて歩き始めた。俺たちはダンジョンの奥へと進んでいくのだった……


「広いな……」


俺は思わず呟く。先ほどまでの通路とは比べ物にならないくらい広くなっており、天井も高い。まるでドーム状の空間のようだ……しかし中は真っ暗で何も見えない……すると突然ルシアが立ち止まったかと思うと、俺の後ろに向かって杖を向けた。


「誰だ!?」


俺が叫ぶと、暗闇から一人の男が現れた。そいつは全身に黒いフード付きのローブを身にまとっており、顔には仮面をつけているため表情すらわからない状態だった……


「アーク様、お気をつけください……」


ルシアは杖を構えたまま警戒を強めている。俺も彼女と同じ気持ちだった……この男は只者ではない雰囲気を放っている……俺は杖を握り締めると、いつでも魔法を撃てるように準備をした。


「おやおや……これは中々骨のありそうな相手だねぇ……」


男は楽しげに言う。その声は若い男のようだったが、どこか不気味さを感じさせるものだった。俺たちは油断することなく彼の一挙手一投足を見逃さないように注意する。少しでも怪しい素振りを見せたら攻撃できるようにしておかなければならない……


「お前は何者だ?」


俺が尋ねると、男はクックック……と笑うと口を開く。


「私は邪神様の忠実なる下僕……」


彼の言葉を聞いた瞬間、ルシアが杖を構えた。俺もすぐに魔法を撃つことができるように構える。


「アーク様、下がっていてください……」


ルシアは男から目を離さずに言う。しかしここで引き下がるわけにはいかなかった……もし男が本当に邪神の使徒だとしたら、俺たちだけで勝てるかどうかは分からない……だがここで逃げるわけにはいかないのだ。俺は覚悟を決めると一歩前に出る。そして男に杖を向けたまま問いかけた。


「お前の狙いはなんだ?なぜここへ来た?」


男はしばらくの間沈黙していたが、やがて口を開いた……それは予想だにしないことだった……


「キミたちを殺すためさ……」


次の瞬間、男が勢いよく飛びかかってくる……俺は咄嵯にルシアを庇うようにして前に出ると、杖を振った……すると眩い閃光が放たれる。それは一直線に男に向かっていき直撃した。


「ぐおぅ……」


男は苦しそうな声を上げると、その場に倒れた。俺は勝利を確信すると共に安堵のため息をつく……だがそれも束の間のことだった……なんと男の体が突然膨張し始めたのだ! そして次の瞬間には異形の存在へと変化していた……その姿はまるで魔物のような姿だった……鋭い牙に爪、そして巨大な翼……その姿はまさに悪魔そのものだった……


「アーク様!」


ルシアが叫ぶと同時に杖を構えて魔法を唱えた。眩い光が放たれると、それは一直線に飛んでいく。だが奴はそれを片手で薙ぎ払うと、こちらに突進してきたのだ!


「危ない!!」


俺は咄嵯に身を捻り回避しようとしたものの間に合わず、奴の鋭い爪が俺の肩へと振り下ろされてきた。激痛と共に血が飛び散り、俺はその場に倒れ込む……何とか意識を失わずに済んだがダメージが大きく立ち上がることができないでいた。


「アーク様!!」


ルシアが慌てて駆け寄ろうとするが、奴がそれを阻むように立ち塞がる。そしてニヤリと笑みを浮かべると、一気に距離を詰めてきた……俺は何とか杖を振りかざすと呪文を唱える……


「【炎嵐(ファイアストーム)】!」


俺の杖の先から炎の渦が巻き起こると、それは奴を包み込むようにして襲いかかる……しかし奴はそれをものともせず突き進んできたかと思うと、今度は鋭い爪を振り上げてきた!


「【氷結(フリーズ)】!」


ルシアが氷の魔法を放つと、奴の動きが止まった……


「【断罪の光刃(ジャッジメント・レイ)】!」


最上級の光魔法を放つと、奴の体が真っ二つに切り裂かれる……


「やったか?」


俺は恐る恐る様子を伺う。やがて奴の体は崩れるようにして消えていき、そこには小さな宝石のようなものが残された……俺はそれを拾い上げると懐に仕舞った。ルシアは心配そうに俺を見つめていたが、やがて安堵のため息をつくと笑顔になった……


「アーク様! お怪我は大丈夫ですか?もしよろしければ私が回復魔法を……」


彼女はそう言うと杖を掲げながら詠唱を始める。その魔法はとても温かく優しいもので、みるみるうちに傷が癒えていくのを感じた……


「ありがとう、ルシア……」


俺は微笑みながら礼を言うと、立ち上がる。そしてもう一度辺りを見渡した。どうやら他の敵はいないようだ……


「よし、帰ろう」


俺はそう提案すると、ルシアとともにダンジョンを後にしたのだった……
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