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「これより【鑑定の儀】を執り行う。皆にアーガス神の加護があらんことを」
グラントニア王国の王都内に存在する大聖堂で、白い髭を蓄えた老年の教皇が厳かに告げる。
15歳になると誰もがこの儀式を受け、そして天より【スキル】を授かる。
スキルとは、この世界の人間が産まれながらにして持つ能力であり、いわばその人間の持つ才能のようなものだ。
【火属性魔法】や【剣術】、【体術】などの戦闘系のスキルから、【料理】や【建築】など日常で役立つものまで多種多様なスキルが存在する。
ゆえに、この儀式で授かるスキルがその後の人生を左右するといっても過言ではない。
俺ことカイト・ルーウィンもその一人で、魔法の名門ルーウィン家に生まれた次男だ。
ルーウィン家は代々、この鑑定の儀で【賢者】のスキルを授かってきた家系で、この大陸において賢者を輩出する一族として有名だ。
「いよいよだな、カイト。お前には期待してるぞ」
「ええ、父上……」
父に言われ、俺は神妙な面持ちで祭壇の前に跪いた。
「アーガス神よ、どうかこの者……カイト・ルーウィンに加護を……」
教皇は天に向かって手を組み祈りを捧げる。俺もそれに倣い目を瞑った。その瞬間、俺の足元が突如として光り輝き、そして神の啓示が頭の中に聞こえてきた。
『汝、カイト・ルーウィンに【上昇】のスキルを授ける』
「…………何だと?」
そんなスキル聞いたことがないぞ…………?
「【上昇】? そんなスキル初めて見たぞ?」
教皇も知らないらしく、困惑していた。
「あの、これはどういう……?」
「私にも分からん。だが……とりあえずこの水晶に触ってみるがいい」
そう言って、教皇は祭壇の上にあった水晶玉を俺に触らせた。すると、水晶玉が眩く光り輝く。
『【上昇】物質を少しだけ浮かせることのできるスキル』
「は…………?」
何の役にも立たないゴミスキルじゃないか。こんなの貰っても困るんだが……。
「よくも我がルーウィン家に泥を塗ってくれたな」
席に戻ると父に胸倉を掴まれて怒鳴られた。
「お、俺のせいじゃないですよ! 何かの間違いです!」
「黙れ!! この恥晒しが!! 期待を裏切りよって!!」
その時。一際大きな歓声が周りから上がる。
「ラインハルト・ルーウィン。そなたのスキルは【大賢者】! 賢者を超えるスキルじゃ!」
双子の兄であるラインハルト兄さんが賢者のさらに上を行くスキルを授かった。
父はそれがよほど嬉しかったのか、怒りから一転し、兄さんの方へと駆け寄っていく。
「よくやったぞ! お前のおかげでルーウィン家の名誉は守られた! 本当によくやったぞ!」
「ありがとうございます、父上!」
「それでは【鑑定の儀】はここまでとする。みな、今日という日を噛みしめ、悔いなき人生を歩むのじゃ!」
こうして俺の人生に汚点を残して、鑑定の儀は終わった。
◇
「今日をもってお前をルーウィン家から追放する。二度と顔を見せるな」
父から追放を宣言され、俺は絶望の淵に立たされていた。
「待ってください! もう一度儀式をやり直してください!」
「黙れ!! この恥晒しが!! 我らルーウィン家に泥を塗ったその罪は重いぞ!」
父は顔を真っ赤にして怒り狂っていた。
「お前など私の息子ではない! 今日中にこの屋敷から出ていけ! そしてルーウィンの名を名乗るな!」
「そんな……!」
「さっさと出ていけ!!」
こうして俺は実家から追い出された。
「これからどうすれば……」
俺の持ち物は護身用の剣と、ボロボロの服だ。
「とりあえず、王都から近い街を目指そう。人がいる場所なら仕事もあるかもしれない」
そう言って、俺は王都から逃げるように歩き出し、街を目指した。
「グギャギャ!」
「ゴブリンか……」
街へ向かっていた道中、茂みからゴブリンが飛び出してきた。
「ちょうどいい……憂さ晴らしだ!」
俺は剣を抜き、ゴブリンと対峙する。
「行くぞ!!」
ザシュッ! 俺が剣を振ると、ゴブリンは真っ二つになった。
ゴブリンの死骸は黒い煙となって消え去り、その場には小さな結晶が残った。
「低ランクの魔石か……ゴブリンならこんなもんか」
ゴブリン程度の魔石では何の役にも立たないが、それでも収入の足しにはなるだろう。
「きゃああああああっ!!」
突然、誰かの悲鳴が遠くから聞こえてきた。俺は声のした方へと駆け出した。
「た、助けて!!」
一人の少女が三匹のグレイウルフに囲まれていた。
「ガウッ!」
グレイウルフは少女に飛び掛る。
「危ないっ!!」
俺は間一髪のところで間に合い、剣を一閃する。
「グオッ!」
俺の一撃を食らったグレイウルフは呆気なく絶命した。
「大丈夫か?」
俺は剣に付いた血を振り払いながら少女に手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます……」
少女はおずおずと俺の手を取った。彼女の手は小さく柔らかかった。よく見るとまだ幼く、歳は俺と一緒ぐらいだろうか。
『レベルアップしました』
目の前に半透明な画面が浮かび上がる。
名前:カイト・ルーウィン
種族:人族
年齢:15
職業:冒険者
レベル:2
体力:110/110
魔力:80/80
攻撃:100(+10)
防御:80(+10)
敏捷:70(+10)
【ユニークスキル】
・上昇
【所持スキル】
【鑑定Lv.3】
【アイテムボックスLv.2】
【剣術Lv.3】
「なんだこりゃ……?」
俺は目の前に現れた半透明の板を見て首を傾げた。
「あの……どうかしましたか?」
「ああ、いや何でもない……」
ひとまずこの画面のことは後にして今は目の前の少女を助ける方が先決だ。
「立てるか?」
「はい!」
少女は頷き立ち上がる。見たところ特に怪我はなさそうだった。
「私はフィーナと申します。危ないところを助けてくださり、本当にありがとうございました」
フィーナと名乗る少女は深く頭を下げた。
身長は160センチほどで、背中まで伸びた艶やかな金髪が印象的だ。年齢は14歳くらいだろうか。
「ああ、俺はカイト。カイト・ルーウィンだ」
「えっと……ルーウィンってもしかして……あの?」
フィーナは少し驚いた表情でこちらを見上げる。
「あー、まあ、一応……」
俺は少し気まずくなって目を逸らす。すると、彼女は目を輝かせて俺の手を取った。
「すごいです! こんなところで賢者様のご子息に会えるなんて! 光栄です!」
「ああ、でも実家から追い出されちゃってね……」
「ええっ!?」
フィーナは驚きのあまり、口をあんぐりと開けていた。
「そんな……どうして!?」
「実は……」
俺は彼女に事の経緯を話した。俺が授かったゴミスキルのこと。そのせいで父に追放されたこと。そしてゴブリンに襲われていた彼女を救けたこと。
「ひ、ひどい……こんな仕打ち……あんまりです!」
フィーナは目に涙を浮かべて怒ってくれた。
「それで君はどうして魔物に襲われていたんだ?」
「馬車に乗ってる時に魔物に襲われて、馬が逃げてしまったんです。それで馬車から放り出されてしまって……そこをたまたま通りかかったグレイウルフに襲われたんです。生き残ったのは私だけでした」
「それは災難だったな……」
彼女の耳をよく見ると、少し尖っている。
「君はハーフエルフなのか?」
「……はい」
エルフの混血であるハーフエルフは差別の対象になってる。だから彼女は耳を隠すようにフードを被っているのだろう。
「こんなに美しいフィーナが奴隷だなんて間違ってる」
「そんなことを言ってくれたのはあなたが初めてです……」
フィーナは頬を赤らめて俯いた。
「せっかくだし、街まで一緒に行かないか?」
「いいんですか? 助けていただいた上にそこまでしていただいて……」
フィーナは申し訳なさそうに上目遣いで俺を見る。その仕草が可愛くて思わずドキッとした。
「気にしないでくれ」
「ありがとうございます! お優しいんですね」
フィーナは嬉しそうに微笑んだ。彼女の笑顔を見ると心が安らいだ。この子はきっと素敵な女の子になるだろう。俺はそんなことを考えながら彼女と一緒に街へと向かった。
グラントニア王国の王都内に存在する大聖堂で、白い髭を蓄えた老年の教皇が厳かに告げる。
15歳になると誰もがこの儀式を受け、そして天より【スキル】を授かる。
スキルとは、この世界の人間が産まれながらにして持つ能力であり、いわばその人間の持つ才能のようなものだ。
【火属性魔法】や【剣術】、【体術】などの戦闘系のスキルから、【料理】や【建築】など日常で役立つものまで多種多様なスキルが存在する。
ゆえに、この儀式で授かるスキルがその後の人生を左右するといっても過言ではない。
俺ことカイト・ルーウィンもその一人で、魔法の名門ルーウィン家に生まれた次男だ。
ルーウィン家は代々、この鑑定の儀で【賢者】のスキルを授かってきた家系で、この大陸において賢者を輩出する一族として有名だ。
「いよいよだな、カイト。お前には期待してるぞ」
「ええ、父上……」
父に言われ、俺は神妙な面持ちで祭壇の前に跪いた。
「アーガス神よ、どうかこの者……カイト・ルーウィンに加護を……」
教皇は天に向かって手を組み祈りを捧げる。俺もそれに倣い目を瞑った。その瞬間、俺の足元が突如として光り輝き、そして神の啓示が頭の中に聞こえてきた。
『汝、カイト・ルーウィンに【上昇】のスキルを授ける』
「…………何だと?」
そんなスキル聞いたことがないぞ…………?
「【上昇】? そんなスキル初めて見たぞ?」
教皇も知らないらしく、困惑していた。
「あの、これはどういう……?」
「私にも分からん。だが……とりあえずこの水晶に触ってみるがいい」
そう言って、教皇は祭壇の上にあった水晶玉を俺に触らせた。すると、水晶玉が眩く光り輝く。
『【上昇】物質を少しだけ浮かせることのできるスキル』
「は…………?」
何の役にも立たないゴミスキルじゃないか。こんなの貰っても困るんだが……。
「よくも我がルーウィン家に泥を塗ってくれたな」
席に戻ると父に胸倉を掴まれて怒鳴られた。
「お、俺のせいじゃないですよ! 何かの間違いです!」
「黙れ!! この恥晒しが!! 期待を裏切りよって!!」
その時。一際大きな歓声が周りから上がる。
「ラインハルト・ルーウィン。そなたのスキルは【大賢者】! 賢者を超えるスキルじゃ!」
双子の兄であるラインハルト兄さんが賢者のさらに上を行くスキルを授かった。
父はそれがよほど嬉しかったのか、怒りから一転し、兄さんの方へと駆け寄っていく。
「よくやったぞ! お前のおかげでルーウィン家の名誉は守られた! 本当によくやったぞ!」
「ありがとうございます、父上!」
「それでは【鑑定の儀】はここまでとする。みな、今日という日を噛みしめ、悔いなき人生を歩むのじゃ!」
こうして俺の人生に汚点を残して、鑑定の儀は終わった。
◇
「今日をもってお前をルーウィン家から追放する。二度と顔を見せるな」
父から追放を宣言され、俺は絶望の淵に立たされていた。
「待ってください! もう一度儀式をやり直してください!」
「黙れ!! この恥晒しが!! 我らルーウィン家に泥を塗ったその罪は重いぞ!」
父は顔を真っ赤にして怒り狂っていた。
「お前など私の息子ではない! 今日中にこの屋敷から出ていけ! そしてルーウィンの名を名乗るな!」
「そんな……!」
「さっさと出ていけ!!」
こうして俺は実家から追い出された。
「これからどうすれば……」
俺の持ち物は護身用の剣と、ボロボロの服だ。
「とりあえず、王都から近い街を目指そう。人がいる場所なら仕事もあるかもしれない」
そう言って、俺は王都から逃げるように歩き出し、街を目指した。
「グギャギャ!」
「ゴブリンか……」
街へ向かっていた道中、茂みからゴブリンが飛び出してきた。
「ちょうどいい……憂さ晴らしだ!」
俺は剣を抜き、ゴブリンと対峙する。
「行くぞ!!」
ザシュッ! 俺が剣を振ると、ゴブリンは真っ二つになった。
ゴブリンの死骸は黒い煙となって消え去り、その場には小さな結晶が残った。
「低ランクの魔石か……ゴブリンならこんなもんか」
ゴブリン程度の魔石では何の役にも立たないが、それでも収入の足しにはなるだろう。
「きゃああああああっ!!」
突然、誰かの悲鳴が遠くから聞こえてきた。俺は声のした方へと駆け出した。
「た、助けて!!」
一人の少女が三匹のグレイウルフに囲まれていた。
「ガウッ!」
グレイウルフは少女に飛び掛る。
「危ないっ!!」
俺は間一髪のところで間に合い、剣を一閃する。
「グオッ!」
俺の一撃を食らったグレイウルフは呆気なく絶命した。
「大丈夫か?」
俺は剣に付いた血を振り払いながら少女に手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます……」
少女はおずおずと俺の手を取った。彼女の手は小さく柔らかかった。よく見るとまだ幼く、歳は俺と一緒ぐらいだろうか。
『レベルアップしました』
目の前に半透明な画面が浮かび上がる。
名前:カイト・ルーウィン
種族:人族
年齢:15
職業:冒険者
レベル:2
体力:110/110
魔力:80/80
攻撃:100(+10)
防御:80(+10)
敏捷:70(+10)
【ユニークスキル】
・上昇
【所持スキル】
【鑑定Lv.3】
【アイテムボックスLv.2】
【剣術Lv.3】
「なんだこりゃ……?」
俺は目の前に現れた半透明の板を見て首を傾げた。
「あの……どうかしましたか?」
「ああ、いや何でもない……」
ひとまずこの画面のことは後にして今は目の前の少女を助ける方が先決だ。
「立てるか?」
「はい!」
少女は頷き立ち上がる。見たところ特に怪我はなさそうだった。
「私はフィーナと申します。危ないところを助けてくださり、本当にありがとうございました」
フィーナと名乗る少女は深く頭を下げた。
身長は160センチほどで、背中まで伸びた艶やかな金髪が印象的だ。年齢は14歳くらいだろうか。
「ああ、俺はカイト。カイト・ルーウィンだ」
「えっと……ルーウィンってもしかして……あの?」
フィーナは少し驚いた表情でこちらを見上げる。
「あー、まあ、一応……」
俺は少し気まずくなって目を逸らす。すると、彼女は目を輝かせて俺の手を取った。
「すごいです! こんなところで賢者様のご子息に会えるなんて! 光栄です!」
「ああ、でも実家から追い出されちゃってね……」
「ええっ!?」
フィーナは驚きのあまり、口をあんぐりと開けていた。
「そんな……どうして!?」
「実は……」
俺は彼女に事の経緯を話した。俺が授かったゴミスキルのこと。そのせいで父に追放されたこと。そしてゴブリンに襲われていた彼女を救けたこと。
「ひ、ひどい……こんな仕打ち……あんまりです!」
フィーナは目に涙を浮かべて怒ってくれた。
「それで君はどうして魔物に襲われていたんだ?」
「馬車に乗ってる時に魔物に襲われて、馬が逃げてしまったんです。それで馬車から放り出されてしまって……そこをたまたま通りかかったグレイウルフに襲われたんです。生き残ったのは私だけでした」
「それは災難だったな……」
彼女の耳をよく見ると、少し尖っている。
「君はハーフエルフなのか?」
「……はい」
エルフの混血であるハーフエルフは差別の対象になってる。だから彼女は耳を隠すようにフードを被っているのだろう。
「こんなに美しいフィーナが奴隷だなんて間違ってる」
「そんなことを言ってくれたのはあなたが初めてです……」
フィーナは頬を赤らめて俯いた。
「せっかくだし、街まで一緒に行かないか?」
「いいんですか? 助けていただいた上にそこまでしていただいて……」
フィーナは申し訳なさそうに上目遣いで俺を見る。その仕草が可愛くて思わずドキッとした。
「気にしないでくれ」
「ありがとうございます! お優しいんですね」
フィーナは嬉しそうに微笑んだ。彼女の笑顔を見ると心が安らいだ。この子はきっと素敵な女の子になるだろう。俺はそんなことを考えながら彼女と一緒に街へと向かった。
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