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「オリヴィア様、王家の馬車を外に待たせております」
「結構だ!」
使者はオリヴィアの言葉を聞くや否や、安心しきった表情を浮かべていたが、すぐに公爵が拒絶した。
「お父様……」
オリヴィアは困った顔で呟く。
公爵の機嫌が悪いのは誰が見ても明らかで、しかも自分の為に怒ってくれているのだと分かっているからこそ、オリヴィアはどう対処していいのか分からなくなっていた。
こんなことをしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。
それへの焦りもあったのだろう。
「こんな侮辱を与えられたのだから、王家の馬車になんて乗せられるか。だが安心しろ。リヴィはこちらが用意した馬車で王宮に送り届ける。お前は先に戻って、そのことを伝えておけ」
「……かしこまりました」
公爵は『いいな?』と威嚇する様に使者をギロリと睨み付けると、鋭い声で言った。
使者も穏便に済ませたいのか直ぐに納得して、邸内からそそくさと出て行った。
「行ったか……」
公爵は使者が消えたことを確認すると、ほっとしたように深く息を吐いた。
「お父様、ごめんなさい。夜会には参加します。そうしないといけない気がするので」
オリヴィアは眉を寄せて、申し訳なさそうに答えた。
しかし目が合うと、公爵は満足そうに微笑んでいたので、オリヴィアは戸惑った顔を浮かべてしまう。
「良く言った。それでこそ、我が娘だ」
「お父様?」
予想外な反応を向けられて、オリヴィアはきょとんとしてしまう。
「いやな。私の演技もなかなかであったのではないか?」
「演技……?」
(一体、何のことを言っているの……?)
オリヴィアは父が何の話をしているのか、全く分からなかった。
「ああ、悪い。まだ何も説明していなかったな。三人とも、こちらに来てくれ。その方が説明しやすい」
父が声を張り上げると、奥から三人の女性が現れた。
一人は私と同じようなドレスを纏った女性に、もう二人はメイド服を着ていた。
「あの、この方達は……?」
「初めまして、オリヴィア様」
ドレスを着た女性は、目が合うとオリヴィアに挨拶をした。
近くで見ると何となく雰囲気は似ているが、オリヴィアが身に付けている召し物とは素材も質も明らかに違う。
「初めまして。あの、これは一体……」
「それを今から説明する。時間がないからこの場ですることを了承してくれ」
「分かりました」
オリヴィアが頷くと、公爵は早速本題に入り始めた。
「今日の夜会で何が行われるかは、リヴィも理解しているな」
「はい。存じ上げております。リーゼル様が聖女だということを、皆に公表されるのですよね」
「ああ、その通りだ。そしてこの機会を利用して、あわよくばリーゼル嬢を王太子妃に担ぎ上げたいと目論んでいる連中がいるようだ。お前を失脚させて、その地位を奪い取ろうとしている奴らがな」
「なっ……!」
衝撃の内容にオリヴィアは言葉を失ってしまう。
そして彼女の顔は、みるみるうちに青ざめていく。
「恐らく教会も一枚噛んでいると思われる。そして我がブリーゲル家に敵意を向けている、ラーザー家が絡んでる可能性が高い」
「……そんな。でも、どうしてそんなことをお父様はご存知なのですか?」
ラーザー家というのは伯爵の位を持つ貴族で、犯罪まがいのことを裏で行っていると以前噂が立ったことがあったそうだ。
しかし結論から言うと、そんな証拠は見つからず、ただの噂だったと判断された。
貴族が関わった犯罪は、取扱いがとてもデリケートな問題になるため、陛下自ら父を任命させた。
それを逆恨みして、何かにつけて批判をぶつけて来るようになったらしい。
オリヴィアは以前、そのような愚痴を少し聞いただけであり、詳細についてはあまり知らない。
だけどそんな噂が立つ人間が絡んでいると思うと、少し不安に思ってしまう。
「不穏な動きを以前から感じ取っていた殿下は、その者を泳がせ見張らせていたようだ。私には事前にその話をしてくれていたのだが、リヴィに話せば不安を与えるだけだとおっしゃられ、黙っているようにと口止めされていた。今まで黙っていて済まなかったな」
「一体いつからそのようなことが……」
「たしか……、リーゼル嬢が聖女として認められた頃だったな。リヴィがまだ領地にいた時期だな。殿下の従者が、偶然不穏な話を聞いてしまったのがきっかけだったと聞いている。調べていく内に、大物が絡んでいることに気付いたそうだ。しかし証拠がなければ言い逃れされてしまう。しかも相手は一筋縄ではいかないような者達だ」
オリヴィアは次々に語られる信じられない話を、必死に頭の中で整理しようとしていた。
周囲から反感を買っていることは分かっていたが、まさかそんな自体にまで発展しているなんて夢にも思っていなかった。
情報量が多すぎて、上手く纏めることが出来ない。
それにこんな大それたことが、身の回りで起こっているだなんて信じたくもなかった。
「時間がないから詳しい話はまた夜会が終わった後にしよう。先程来たあの使者は、王宮の者であることには間違いないが恐らくは敵だ。あの馬車に乗っていたら、リヴィは恐らく襲撃に遭っていた」
「……っ!?」
「卑劣な行為まではさすがにしないと思いたいが、どこかに閉じ込めて、夜会に参加させないようにしていたはずだ」
「そんなっ……」
「そして後からリヴィが不利になるような噂を流せば、民衆はお前に不信感を持ち始める。そうしたら当然王家も動き出すはずだ。本当にリヴィが相応しいのかと、な」
「……っ!!」
オリヴィアは顔面蒼白となり、ガタガタと体の震えを感じ始めていた。
彼女の知らないところで、そんなに恐ろしい計画が進められていたなんて。
「こんな話を聞かせれて、とても怖いだろう。行きたくないのなら、やめても構わないのだぞ。私は何よりもお前の身を案じているし、親としては行かせたくない思いもあるからな。その判断を下したとしても、きっと殿下も分かってくださるはずだ」
公爵は震えるオリヴィアの手に触れて、苦しそうな表情で、だけど優しい声で答えた。
父の手はしっかりとオリヴィアの手を掴んでいて、まるで行かせたく無いと言っているように感じさせる。
今まで娘の努力を見て来ているから、そんな言葉を軽はずみには口に出せないのだろう。
(たしかに怖い……。行かなければ、わたしが狙われる事は無くなる。だけど本当にそれでいいの? そんなことをすれば、今まで努力して来たことが全て水の泡になってしまうかもしれないのよ。……ジーク様の傍にいられなくなってしまうかもしれない……)
そんなことは絶対に嫌だと、オリヴィアは強く思った。
卑怯なことをする人間に屈したくはない。
オリヴィアはいずれ王太子妃になるのだから、これから先も理不尽なことを強いられたり、今みたいに怖い思いをすることもあるだろう。
こういうことが起こるかもしれないことは分かっていたはずなのに、現実に直面すると怖くて足が竦んでしまう。
「リヴィ、無理はしなくていい」
「お父様、わたしの身を案じて下さり、ありがとうございます。ですが、わたしはやっぱり夜会には参加します」
「本当にいいのか?」
「はい。わたしはジーク様の婚約者です。こんなことで逃げたりなんてしません。それに今回は味方だっているのですから、きっと大丈夫なはずです」
オリヴィアは精一杯の笑顔を作ると、彼女達に視線を向けた。
すると皆明るい表情へと変わっていった。
「そうだな。最悪の事態を避ける為に彼女達を雇った。二人には囮になってもらう」
「どういうことですか?」
「見ての通り、一人はお前と似たような格好をさせている。今日の計画を知ったのは前日だったので、さすがに同じものは用意出来なかった」
(それで良く似たドレスを着ていたのね……)
「似たようなものを市販品で揃えて、そこから少し手を加えさせた。外は薄暗くなって来ているから、見て呉れが似ていれば誤魔化せるだろう」
「今日は私達にお任せください。私がオリヴィア様役に、そしてもう一人が侍女として囮で馬車に乗り込みます。その間にオリヴィア様は使用人出口から出て、もう一人の侍女役を連れて王都に出てください。馬車を他の場所に用意してございます。ブリーゲル家の家紋は付いていませんが、それも安全面を考えた上です」
彼女は丁寧に説明してくれた。
「色々とわたしのために準備してくださったのですね。感謝致します」
「これは全て公爵様と、王太子殿下が考えたことです。私達は雇われた身ですが、報酬分はしっかりと働きますのでご安心くださいね」
今の話を聞いてオリヴィアは少しだけ安心することが出来た。
父が選んでくれた者達ならば、問題はないはずだ。
それにジークヴァルトもオリヴィアの身の安全を思って、色々と裏で計画を立ててくれていたことがすごく嬉しく感じた。
(やっぱりわたしは、ジーク様のお傍にいたい……。絶対に負けないわ!)
オリヴィアは、そう強く決意した。
「あの、お名前を伺っても宜しいですか?」
「私はアメリアと申します。こちらがイリーナ、そしてオリヴィア様の侍女役を務めるのがメルです」
オリヴィアの囮役を演じるのは、アメリアだと名乗った。
貴族を前にしてのこの落ち着きようや、丁寧な言葉遣いを見ていると、冒険者と言うのには少し違和感を覚えてしまう。
だけど今はそんなことを考えている場合ではない。
「それでは早速実行に移します」
「気を付けてくださいね」
「ありがとうございます。それではご武運を……」
アメリアはそう答えると、イリーナを連れて邸を出て行った。
「リヴィ、これを着ていきなさい。そのままでは目立ってしまうからな」
公爵はそう言うと、オリヴィアに黒いローブを手渡してくれた。
「ありがとうございます、お父様」
「こんなことしか出来ない父親で済まないな。メル、リヴィの事を頼んだぞ」
「お任せください。それではオリヴィア様、そろそろ参りましょうか。きっと今ならアメリアさん達に敵の目は向いていると思いますので、今のうちに……」
「ええ、わかったわ。それでは行って来ます!」
オリヴィアはローブを身に付けると、使用人出口へと向かい、そこから外に出て王宮へと向かう事になった。
当然恐怖心が消えたわけではない。
だけど、こんなこと程度では負けたく無いという強い思いが、オリヴィアを前へと進ませていた。
「結構だ!」
使者はオリヴィアの言葉を聞くや否や、安心しきった表情を浮かべていたが、すぐに公爵が拒絶した。
「お父様……」
オリヴィアは困った顔で呟く。
公爵の機嫌が悪いのは誰が見ても明らかで、しかも自分の為に怒ってくれているのだと分かっているからこそ、オリヴィアはどう対処していいのか分からなくなっていた。
こんなことをしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。
それへの焦りもあったのだろう。
「こんな侮辱を与えられたのだから、王家の馬車になんて乗せられるか。だが安心しろ。リヴィはこちらが用意した馬車で王宮に送り届ける。お前は先に戻って、そのことを伝えておけ」
「……かしこまりました」
公爵は『いいな?』と威嚇する様に使者をギロリと睨み付けると、鋭い声で言った。
使者も穏便に済ませたいのか直ぐに納得して、邸内からそそくさと出て行った。
「行ったか……」
公爵は使者が消えたことを確認すると、ほっとしたように深く息を吐いた。
「お父様、ごめんなさい。夜会には参加します。そうしないといけない気がするので」
オリヴィアは眉を寄せて、申し訳なさそうに答えた。
しかし目が合うと、公爵は満足そうに微笑んでいたので、オリヴィアは戸惑った顔を浮かべてしまう。
「良く言った。それでこそ、我が娘だ」
「お父様?」
予想外な反応を向けられて、オリヴィアはきょとんとしてしまう。
「いやな。私の演技もなかなかであったのではないか?」
「演技……?」
(一体、何のことを言っているの……?)
オリヴィアは父が何の話をしているのか、全く分からなかった。
「ああ、悪い。まだ何も説明していなかったな。三人とも、こちらに来てくれ。その方が説明しやすい」
父が声を張り上げると、奥から三人の女性が現れた。
一人は私と同じようなドレスを纏った女性に、もう二人はメイド服を着ていた。
「あの、この方達は……?」
「初めまして、オリヴィア様」
ドレスを着た女性は、目が合うとオリヴィアに挨拶をした。
近くで見ると何となく雰囲気は似ているが、オリヴィアが身に付けている召し物とは素材も質も明らかに違う。
「初めまして。あの、これは一体……」
「それを今から説明する。時間がないからこの場ですることを了承してくれ」
「分かりました」
オリヴィアが頷くと、公爵は早速本題に入り始めた。
「今日の夜会で何が行われるかは、リヴィも理解しているな」
「はい。存じ上げております。リーゼル様が聖女だということを、皆に公表されるのですよね」
「ああ、その通りだ。そしてこの機会を利用して、あわよくばリーゼル嬢を王太子妃に担ぎ上げたいと目論んでいる連中がいるようだ。お前を失脚させて、その地位を奪い取ろうとしている奴らがな」
「なっ……!」
衝撃の内容にオリヴィアは言葉を失ってしまう。
そして彼女の顔は、みるみるうちに青ざめていく。
「恐らく教会も一枚噛んでいると思われる。そして我がブリーゲル家に敵意を向けている、ラーザー家が絡んでる可能性が高い」
「……そんな。でも、どうしてそんなことをお父様はご存知なのですか?」
ラーザー家というのは伯爵の位を持つ貴族で、犯罪まがいのことを裏で行っていると以前噂が立ったことがあったそうだ。
しかし結論から言うと、そんな証拠は見つからず、ただの噂だったと判断された。
貴族が関わった犯罪は、取扱いがとてもデリケートな問題になるため、陛下自ら父を任命させた。
それを逆恨みして、何かにつけて批判をぶつけて来るようになったらしい。
オリヴィアは以前、そのような愚痴を少し聞いただけであり、詳細についてはあまり知らない。
だけどそんな噂が立つ人間が絡んでいると思うと、少し不安に思ってしまう。
「不穏な動きを以前から感じ取っていた殿下は、その者を泳がせ見張らせていたようだ。私には事前にその話をしてくれていたのだが、リヴィに話せば不安を与えるだけだとおっしゃられ、黙っているようにと口止めされていた。今まで黙っていて済まなかったな」
「一体いつからそのようなことが……」
「たしか……、リーゼル嬢が聖女として認められた頃だったな。リヴィがまだ領地にいた時期だな。殿下の従者が、偶然不穏な話を聞いてしまったのがきっかけだったと聞いている。調べていく内に、大物が絡んでいることに気付いたそうだ。しかし証拠がなければ言い逃れされてしまう。しかも相手は一筋縄ではいかないような者達だ」
オリヴィアは次々に語られる信じられない話を、必死に頭の中で整理しようとしていた。
周囲から反感を買っていることは分かっていたが、まさかそんな自体にまで発展しているなんて夢にも思っていなかった。
情報量が多すぎて、上手く纏めることが出来ない。
それにこんな大それたことが、身の回りで起こっているだなんて信じたくもなかった。
「時間がないから詳しい話はまた夜会が終わった後にしよう。先程来たあの使者は、王宮の者であることには間違いないが恐らくは敵だ。あの馬車に乗っていたら、リヴィは恐らく襲撃に遭っていた」
「……っ!?」
「卑劣な行為まではさすがにしないと思いたいが、どこかに閉じ込めて、夜会に参加させないようにしていたはずだ」
「そんなっ……」
「そして後からリヴィが不利になるような噂を流せば、民衆はお前に不信感を持ち始める。そうしたら当然王家も動き出すはずだ。本当にリヴィが相応しいのかと、な」
「……っ!!」
オリヴィアは顔面蒼白となり、ガタガタと体の震えを感じ始めていた。
彼女の知らないところで、そんなに恐ろしい計画が進められていたなんて。
「こんな話を聞かせれて、とても怖いだろう。行きたくないのなら、やめても構わないのだぞ。私は何よりもお前の身を案じているし、親としては行かせたくない思いもあるからな。その判断を下したとしても、きっと殿下も分かってくださるはずだ」
公爵は震えるオリヴィアの手に触れて、苦しそうな表情で、だけど優しい声で答えた。
父の手はしっかりとオリヴィアの手を掴んでいて、まるで行かせたく無いと言っているように感じさせる。
今まで娘の努力を見て来ているから、そんな言葉を軽はずみには口に出せないのだろう。
(たしかに怖い……。行かなければ、わたしが狙われる事は無くなる。だけど本当にそれでいいの? そんなことをすれば、今まで努力して来たことが全て水の泡になってしまうかもしれないのよ。……ジーク様の傍にいられなくなってしまうかもしれない……)
そんなことは絶対に嫌だと、オリヴィアは強く思った。
卑怯なことをする人間に屈したくはない。
オリヴィアはいずれ王太子妃になるのだから、これから先も理不尽なことを強いられたり、今みたいに怖い思いをすることもあるだろう。
こういうことが起こるかもしれないことは分かっていたはずなのに、現実に直面すると怖くて足が竦んでしまう。
「リヴィ、無理はしなくていい」
「お父様、わたしの身を案じて下さり、ありがとうございます。ですが、わたしはやっぱり夜会には参加します」
「本当にいいのか?」
「はい。わたしはジーク様の婚約者です。こんなことで逃げたりなんてしません。それに今回は味方だっているのですから、きっと大丈夫なはずです」
オリヴィアは精一杯の笑顔を作ると、彼女達に視線を向けた。
すると皆明るい表情へと変わっていった。
「そうだな。最悪の事態を避ける為に彼女達を雇った。二人には囮になってもらう」
「どういうことですか?」
「見ての通り、一人はお前と似たような格好をさせている。今日の計画を知ったのは前日だったので、さすがに同じものは用意出来なかった」
(それで良く似たドレスを着ていたのね……)
「似たようなものを市販品で揃えて、そこから少し手を加えさせた。外は薄暗くなって来ているから、見て呉れが似ていれば誤魔化せるだろう」
「今日は私達にお任せください。私がオリヴィア様役に、そしてもう一人が侍女として囮で馬車に乗り込みます。その間にオリヴィア様は使用人出口から出て、もう一人の侍女役を連れて王都に出てください。馬車を他の場所に用意してございます。ブリーゲル家の家紋は付いていませんが、それも安全面を考えた上です」
彼女は丁寧に説明してくれた。
「色々とわたしのために準備してくださったのですね。感謝致します」
「これは全て公爵様と、王太子殿下が考えたことです。私達は雇われた身ですが、報酬分はしっかりと働きますのでご安心くださいね」
今の話を聞いてオリヴィアは少しだけ安心することが出来た。
父が選んでくれた者達ならば、問題はないはずだ。
それにジークヴァルトもオリヴィアの身の安全を思って、色々と裏で計画を立ててくれていたことがすごく嬉しく感じた。
(やっぱりわたしは、ジーク様のお傍にいたい……。絶対に負けないわ!)
オリヴィアは、そう強く決意した。
「あの、お名前を伺っても宜しいですか?」
「私はアメリアと申します。こちらがイリーナ、そしてオリヴィア様の侍女役を務めるのがメルです」
オリヴィアの囮役を演じるのは、アメリアだと名乗った。
貴族を前にしてのこの落ち着きようや、丁寧な言葉遣いを見ていると、冒険者と言うのには少し違和感を覚えてしまう。
だけど今はそんなことを考えている場合ではない。
「それでは早速実行に移します」
「気を付けてくださいね」
「ありがとうございます。それではご武運を……」
アメリアはそう答えると、イリーナを連れて邸を出て行った。
「リヴィ、これを着ていきなさい。そのままでは目立ってしまうからな」
公爵はそう言うと、オリヴィアに黒いローブを手渡してくれた。
「ありがとうございます、お父様」
「こんなことしか出来ない父親で済まないな。メル、リヴィの事を頼んだぞ」
「お任せください。それではオリヴィア様、そろそろ参りましょうか。きっと今ならアメリアさん達に敵の目は向いていると思いますので、今のうちに……」
「ええ、わかったわ。それでは行って来ます!」
オリヴィアはローブを身に付けると、使用人出口へと向かい、そこから外に出て王宮へと向かう事になった。
当然恐怖心が消えたわけではない。
だけど、こんなこと程度では負けたく無いという強い思いが、オリヴィアを前へと進ませていた。
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