【完結】拗ねていたら素直になるタイミングを完全に見失ったが、まあいっか

ムキムキゴリラ

文字の大きさ
5 / 40

5. 疾きこと風の如し

しおりを挟む
 その日の夜。明日の夕方頃に会いに行きますという旨の連絡が来た。ソフィアは爆速すぎて驚いた。
「やっとお許しになられたのですね」
 連絡を取り次いだ侍女、サーシャは呆れたように言った。サーシャとは側室となる前からの付き合いだった。成り行きでカンラン宮の侍女をしてもらっている。ソフィアはここに居着く気がないため、サーシャがただ一人の侍女だ。とは言っても、庭の整備や建物の修繕などのために月に一度庭師や建築士が来てはいた。しかし、カンラン宮に常駐しているのはサーシャだけであった。
「もう怒ってないんですね」
「ずっと怒ってるのも疲れたし、さすがにやりすぎだったね」
「それに気づくのに5年ですか」
「何か言わないとなーとは思ってんだよ」
「行動するまで随分かかったんですね」
「こっちからいうのもあれだしなーって感じじゃん?」
「結局拗ねるのやめるのに5年ですか」
「……もう、いいでしょ別に。うるさいな」
「うるさくもなりますよ。この5年、仕事ばっかで帰る気のないソフィア様より殿下の方がこの宮にいた気がします」
「来てたらしいね」
「ええ」
 誰もいないカンラン宮に皇太子がちょくちょく訪れていると噂になっていた。
「まあ、どーりで足りないものをくれる訳だよね」
「そんな言い方しないでください。ありがたいことですよ」
 ラインハルトは庭師や建築士の派遣などこの宮を保つために手を尽くしてくれていた。そして、あれいいなーとサーシャに言ったものが届けられていたこともあった。本当にありがたいことだ。
「そういえば、何か変わったことは?」
「いいえ、特にありませんよ」
「そう」
「殿下がおいでになる前に何かしますか?」
「え?何を?」
「諸々の準備ですよ」
「とりあえずいいよ。改善点は次回に生かそう!」
 もう寝るねといろいろ言っているサーシャをほっぽった。
 翌日、ソフィアが仕事を終えて、カンラン宮に行くとラインハルトが待っていた。
「会えて嬉しいです」
「ああ、うん」
 ソフィアはラインハルトのわくわくぶりに少し引いた。
「皇太子妃はお元気?」
「はい、去年子どもが産まれましたが、大事なく」
「大仕事だからね。労わるんだよ~」
「はい」
「わかっているとは思うが、もちろん、他の女性もね。甲斐性無しはいけない」
「ええ。相変わらずですね」
「そうかな」
 何が言いたい?とソフィアは訝しげに思ったが、とりあえず水に流すことにした。
「そういえば、私の後輩の件だが」
「イライザ嬢ですね。少し調べましたよ」
「手間をかけさせて悪いね。罰として、めっちゃ仕事与えたんだ。だから、できれば何もしないでくれ。あの子は優秀なんだよ、あれで。本当だよ」
「甘くないですか?」 
「いいや」
「いいえ、あなたは年下に甘すぎます!」
「うーん。今回は魔法道具の分解・解析を三点お願いしたのよ。三つ、違う仕組みだけれど、作業自体は簡単だけどひたすら地道なものね。急は要しないし、誰かに聞いてもいいけど、自分でやるようにってね」
 つまりは、とても面倒で根気のいる作業をやらせるということだ。ソフィアはこの三つの仕事は三ヶ月から五ヶ月くらい作業すれば終わると考えている。
「ああ、うん。時々びっくりするくらい鬼になりますもんね」
 ラインハルトはそこそこの新米に与える仕事量ではないと軽く引いた。
「あの子は見込みがあるからな」
「そうですか」
 ラインハルトは少しむすっとして話題を変えた。
「久しぶりにチェスしません?」
「悪いがここには無いよ」
 ソフィアはここにほとんどいなかったため、基本的なものは揃ってはいるが、びっくりするくらいものがない。特に娯楽用品は0。
「私の部屋にあるんで、行きましょう。お願いします」
 ラインハルトはにっこにこで自分が住んでいるセーリョー殿に誘った。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18) しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。 「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」 頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。 そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。

ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜

楠ノ木雫
恋愛
 気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。  私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

婚約破棄を言い渡したら、なぜか飴くれたんだが

来住野つかさ
恋愛
結婚準備に向けて新居を整えていた俺(アルフォンソ)のところへ、頼んでもいないキャンディが届いた。送り主は一月ほど前に婚約破棄を言い渡したイレーネからだという。受け取りたくなかったが、新婚約者のカミラが興味を示し、渋々了承することに。不思議な雰囲気を漂わす配達人は、手渡すときにおかしなことを言った。「これはイレーネ様の『思い』の一部が入っています」と――。 ※こちらは他サイト様にも掲載いたします。

イベント無視して勉強ばかりしていたのに、恋愛のフラグが立っていた件について

くじら
恋愛
研究に力を入れるあまり、男性とのお付き合いを放置してきたアロセール。 ドレスもアクセサリーも、学園祭もコンサートも全部スルーしてきたが…。

処理中です...