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11. まあいっか

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 ラインハルトは休養しているソフィアの元を頻繁に訪れていた。
「お暇?」
「この機会を逃したらまた働き詰めになるでしょう?」
「そうだね。溜まってるものもあるだろうし、そろそろ薬草探しに行きたいんだよなー」
「やっぱり働き方の改善を行いましょう」
「ん?」
「長時間労働が魔法省に蔓延ってます。他のところもそうでしょうけど!」
「そうだね。でも、労働時間を制限しても仕事量は同じなんだ。特に、魔法省は人を増やすのは難しい。魔法を使える人間は限られている」
「確かにそうですね。うーん」
「私の場合、前よりは空くよ。余計なことに首を突っ込まないようにするからね」
 ラインハルトは面と向かって、あの五年は仕事をわざと忙しくして避けてましたと言われた気分だった。
「危ないことはしてませんよね?」
「していないよ。ドミトリーが全力で止めてきた」
「そうですか」
 ドミトリーに後でお礼をしようとラインハルトは思った。ソフィアを止められる人間は限られている。
「自分を大事にしてくださいよ。サーシャも心配してます。ねぇ?」
「はい、呪われて血を吐いた時は肝が冷えました」
「ほらー」
「……はぁ、いつの間に仲が良くなったのやら」
「この五年で仲良くなりました」
 ラインハルトがカンラン宮に来たときに、応対していたのはサーシャだった。いろいろ話を聞いてもらっていた。
「今日も泊まっても?」
「殿下のお好きなようにしてください」
「その言い方やめてください」
 あの五年を思い出すんですとラインハルトはむすっとした。早く寝てくださいねとラインハルトは部屋を出た。
 サーシャはラインハルトが毎回泊まっている部屋に案内した。
「準備はできてます」
「ありがとう」
「その、一緒の部屋で寝られるようにしますか?」
「いや、いいんだ。私は彼女の後輩だからね」
「へ?」
「ソフィアは私のことをただの後輩としか思ってないんだ!」
「側室までされてるのに?」
「可愛い後輩としか思われてない」
 サーシャは可愛いと思われている自信はあるんだなと思った。
「そうかもしれませんが、ソフィア様は特別殿下を大事にされてますよ」
「そうだけれど、他にも後輩いるじゃないか」
「その中でナンバーワンですよ」
「オンリーワンがいい。特別がいい。好きな人になりたい」
 ラインハルトは駄々をこねた。
「あと、かっこいいって思われたいんだ」
「そのことはソフィア様に伝えないのですか?」
「言えない」
「言わないと分かりませんよ」
「でも、さすがにダサい」
「そうですか」
「あと、できれば自発的にかっこいいって思ってほしい」
「はあ」
 ああいう身勝手な人にかっこいいって思われると独特の快感があるんです!とラインハルトは力説した。
「でも、一番は自分から好きって言ってほしい!!」
「殿下がおっしゃったら答えますよ」
「どうせ後輩として可愛い、好きでしょう?いやだ!それはやだ、いやだ~!」
「はあ」
 皇太子はいつも頼り甲斐がありそうに見えるのに、ソフィアのこととなると面倒くさい人になるなとサーシャは思った。
「あー、好きって言ってくれないかなぁ!」
「他力本願ですね」
 ラインハルトはぐだぐだしていたが、サーシャは付き合いきれないと、部屋を出た。
 翌朝、ラインハルトがカンラン宮から公務に出かけるのを見送った後、サーシャはソフィアに昨夜の殿下の様子を少し話すことにした。武士の情け的なものだった。
「ソフィア様。殿下、昨日の夜に言ってましたよ?後輩としか思われてないって」
「事実後輩だよ」
「それだけですかぁ~?」
「いやフツーに好きだが?」
「おお!ぶっちゃけ、ヤってもいいくらい?」
「うん」
「伝えないんですか?」
「私から?え、なんで?」
「え?」
 雲行きが怪しくなってきたぞ、もう怒るのはやめたんじゃないの?とサーシャは焦った。
「5年前に一度言われただけだぞ?5年前なんて時効だね!それに、私に相談なく側室にしたんだ!!」
「まだ怒ってんですか?」
「さすがに5年避けまくるはやりすぎたよ。そこは反省してる。でもさ、ハルは私に好きとか側室になってほしいとかそういうことにぜーんぜんこたえてくれないと思ってるんだ。なんでそんなに信用ないの?そこが腹立たしい!」
「いつも年下ラブ言ってるからじゃないですか?」
「かんけーないね」
 ソフィアはフンっと鼻を鳴らした。
「年上ってことで、譲歩はしないんですか?」
「側室にしたのはあっちだ。だから、あっちがいうべきだね」
 側室になる時に言われたって聞きましたけど?時効とかないでしょと思ったが、サーシャは面倒になったので言わなかった。
「もしかしてまだ拗ねます?」
「……それにタイミングがわからない。いつ言えばいいの?何時何分何秒?地球が何回まわった時?」
「あなたがた、めっちゃめんどくさいですね」
「セックスは必需品じゃないんだよ、サーシャ。あと、好きとかもう面倒だしまあいいか、このままでも良くないかとも思っているワケ」
 だって、何も不便ないし!とソフィアは胸を張った。
「ソフィア様、それ完全に開き直ってますよね」
「……うるさいな」
 ソフィアは疲れたと言って、起き抜けの二度寝をしにいった。不貞寝ともいうかもしれない。

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